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静かな尾瀬で考えたこと

この記事は2023/5/19に書きました。

ゴールデンウィークをあけてからというもの、お客様の足がパッタリ止まっています。

週末は雨予報で予約は減り、平日は好天でも人はまばら。

水芭蕉はもう咲いているというのに、
それを目的としている人は来ません。


一般的に水芭蕉のシーズンは5月の下旬から、
6月の上旬と言われていますが、

今年は雪解けがあまりにも早く、既に咲いている水芭蕉が多数。

早く咲きすぎたせいで、すでに朝晩の寒さにやられて霜枯れを起こして、残念な様子の水芭蕉もあります。


クラブツーリズムのようなツアーは、日にちが事前に決定しているため、
水芭蕉の開花が早まっていようと日程は変わりません。それは仕方のないことです。


ただそれだけでなくて一般の個人のお客様も、いわゆる「水芭蕉のシーズン
に沿ってしまっているようです。

勤務歴の長い方の話だと

水芭蕉がいつ咲こうと、お客さんは決まった時期に来る


ということを話していました。

ネットが無く情報源が限られていた一昔前ならいざ知らず、
手元のスマホで最新の情報が得られる今、

ピークの水芭蕉を見にこずに、
枯れかけの水芭蕉を大勢の人が見にくるのは
不思議に思いますし、なんだか滑稽です。


それは何だか「尾瀬の水芭蕉を見たい」
という目的よりも、

尾瀬」という場所に行くための単なる理由付けとして、
水芭蕉が良いものかどうかは別として、
わかりやすく「水芭蕉を見る」ことがあるからではないか、と思うのです。


ちなみに私は水芭蕉は存在感が大きすぎて少し苦手。
同時期のリュウキンカのほうが好きなので、
何故みんな水芭蕉を見に来るのか不思議に思っています。私の尾瀬仲間も同意見の方が多いです。

リュウキンカ


春は水芭蕉、夏はニッコウキスゲ、秋は草紅葉

尾瀬の関係者にしても、旅行会社やガイドブックにしても、尾瀬に来る目的となるものを明確に定めがちです。

確かに湿原に群生する水芭蕉は写真映えしますし、観るものに与えるインパクトがあります。

しかし尾瀬の魅力ってそれだけでしょうか?


山小屋で暮らしていると、
そんな旅の目的となる「主役」が不在の間の時期も眺めることになります。


尾瀬の開山直後の大雪原も、

春になって雪解け水がチョロチョロと流れる様子も、

湿原の奥に沈む夕日を眺めることも、

静かな湿原でカエルの大合唱を聞くことも、


シトシトと降る雨の下、湿原の真ん中でたたずむことも、

全部、水芭蕉やニッコウキスゲに負けない魅力です。

開山直後 燧ヶ岳と朝日
雪解けの頃
こんな天気の日だって尾瀬の池塘では
カエルの大合唱が聞けます

山小屋のスタッフだけ楽しむのでは勿体無いです。

そのような楽しみが、
多分言葉や写真での説明が難しいのか、
全部埋もれてしまっています。


人混みでごった返す中眺める水芭蕉よりも
魅力的なこと、

それは大衆的な情報に流されることなく
情報を探したり、
実際に現地で自身の五感で感じたりすることで発見できるんじゃないかと思います。


SNSで個の情報が発信できる時代であり、
多様な価値観が受け入れられるようになりつつある時代だからこそ、

「水芭蕉」のような、
典型的な目的に捉われない
多様な楽しみ方が発信できて
なおかつ
それに価値観を見出せる人が増えるといいな、
と。

そうしたら水芭蕉のシーズンに限らず、
お客様に尾瀬に来てもらえる。
より多くの人に自然の良さを知ってもらえる。

そして関心が高まれば自然を楽しむ環境を整えることができる。


湿原でぼんやりしながら、そんなことを考えました。


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