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夫と子供と私の話⑧

去年⑦書いた時からは全く想像もつかない形で毎日が過ぎている。
色々やばい。家も仕事も子供も私自身も、なんかもう色々。
まだ全然余裕ないけど、こちらも書いておかないときっと忘れていってしまうし、何よりどんなに余裕なくても、私のこの悲しい気持ちは無くならないのだ。



怒涛の受け入れ準備を済ませ、夫を家に連れて帰る日が来た。
前の晩は精神科で処方してもらった睡眠導入剤を飲んでも効かず、ほとんど眠れなかった。

退院前日、夫に余命を伝える事を決意した私は主治医に相談を持ちかけた。
私から言うよりも一緒に病気と闘ってきた主治医に伝えてもらった方が夫も受け止めやすいのではないかと思ったからだ。
ていうか、今の時代家族にだけ伝えて本人には明かさないなんて時代錯誤な事私はおかしいと思ったから。

でも、主治医からの返事は簡単に言うと「ノー」だった。正確には「はっきりとは断らないけども、のすごく渋られた」だ。

「ええ〜?奥さんねぇ。僕は旦那さんと半年間のお付き合いがあるから言うんだけど、本人には伝えない方がいいと思うよ〜。まあどうしてもと言うなら、次回の外来でお伝えしてもいいですが、オススメしないなぁ」

コイツ、最初に会った時からムカついたんだよ。半年間ずっと「悪い人じゃない」って言い聞かせてきたけど、やっぱり大嫌いだわ。
15年一緒にいる家族が相談してるんだから、責任持って伝えてくれよ。ほんとムカつく。 クソほどムカつく。

時を置いて、今の私はそう思う。
当時は自分を守る為、あまり深く考えないようにしたけど、それでもすごくショックだった。


余命の事、言うべきか言わざるべきか心が揺れながら、家に到着する。
リビングに導入された電動ベッドでひと息つく間も無く、訪問診療の看護師さん達と新しい主治医が訪ねて来た。

この新しい主治医の先生は事前面談の際に私が余命を本人に伝えようと考えている、と言うと「もしご家族から伝えるのに躊躇われるようであれば、私からお伝えしましょうか」と申し出て下さった。
あっちの主治医とはえらい違いだ。
さすが緩和ケアの医師、本人だけでなく、その家族の事もケアしてくるんだと感動した。

1時間ほどかけて夫の最初の診察は進んでいった。
最後に主治医から夫へ「何か今話したい事、知りたい事などありますか?」と質問があった。

夫は体がとにかくきつい事、体力がどんどんなくなって不安な事など話した後、言った。

「余命の事は知りたくない。体調も悪いし周りがそわそわしているから時間があまりないのは感じるが、残りの時間を知るのは怖い」

新しい主治医とチラッと目が合う。
クソムカつくあっちの主治医の、クソムカつく顔が浮かぶ。

「私たちはお互いに信頼し合っていて、夫の事は私が1番よく理解している」

本当に恥ずかしい事に、完全に私の思い上がりだった。

ああ、私この人のこと全然分かってあげてないわ

目の前がぐらぐら揺れた。

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