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否哉(いやや)

否哉(いやや)は、美しい女性の後ろ姿だが、振り返れば、その顔は老女のそれで、見た人を驚かすと言われる妖怪。

鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より「否哉」
「むかし 漢の東方朔 あやしき虫をみて怪哉(かいさい)と名づけしためしあり 今この否哉もこれにならひて名付たるなるべし」

鳥山石燕の解説によれば、中国の前漢の武帝が東方朔を伴って旅行に出かけた際、行く道の途中に頭、目、牙、耳、鼻、歯が人間の様に揃って生えている姿の奇妙な虫を「怪哉(あやしかな)」と名付けたという故事に倣い、この妖怪は「否哉」と名づけられたことが述べられている。

怪哉

つまりこの解説に沿えば否哉(いなかな)と読み下す事ができるだろう。
ではこの妖怪は何を否定/拒否しているのだろうか。

鳥山石燕のこの絵をよく見ると水面に映っている否哉の顔はどこか満足げにも見える。まるで自分の美しさに見惚れているかの様だ。おそらくその目には自分の顔が、その後ろ姿と同様に美しく見えているのかも知れない。

つまり、この妖怪は現実の自分の老醜を受け止められず拒否している=否哉(いなかな)のではないか。

この動画の彼女はフィルターが外れていたのにも気が付かず、未だ自らの美しさを誇示するかの様に振る舞っている。

昨今では出逢う人々の多くが画面越しという事も珍しくない。そこで自己顕示欲に負け、素顔を晒す事を厭ってフィルターをかけ、やがて自分自身も、そのフィルターをかけた姿こそが自分の姿と思い込む様になった時、私達もこの妖怪 否哉になってしまうのかも知れない。(了)


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