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ヴィンテージ楽器電子化計画「MeloMIDIca」その①(計画前史)

ホーナー「Melodica」

ハーモニカで有名な「HOHNER(ホーナー)」というドイツの会社がある。創業が1857年ってことだから、そりゃもう古い会社だ。そこが出している鍵盤ハーモニカが「Melodica(メロディカ)」。ヤマハでいう「ピアニカ」みたいなブランド名だ。

いつからかは忘れたけど、あるヴィンテージのMelodicaにココロを奪われてしまった。

それがこのモデル、1950年代製のMelodica(ソプラノ/アルト)だ。他の普通鍵盤のMelodicaとは異なり、コンパクトな筐体に「独立したミニ25鍵」を備えた変わり種モデル。手の小さな子供向けだろうか? 1990年代ぐらいまで製造され(詳細不明)、ヨーロッパ各地の学校で使われていたという話もある。

Melodica Soprano。左が初代(木製)、右が後期型(プラスティック製)。
Melodica Alto。これは後期型の方(初代はバラしてしまった…)。

これ…かっこよくない?
鍵盤なのに、ウィンドシンセっぽい佇まい。マジかっこよくない?
ライブで『Truth』とか吹きたくならない?(オッサン思考)

つうか、ライブでかっこよく吹きてえ!!!

いや実は、ライブでMelodica吹いたことあるんだよね。
でも、全然ダメダメ。ロックバンドの中で演る場合は、音をマイクで拾わなきゃならないんだけど、それだとマイクの近くから離れられないから、大きなアクションができない。つうか所詮は「鍵盤ハーモニカ」なんで、マイクで拾うにしても元々の音が小っちゃいから限度があるんだよね。音を響かせる機構が一切ないから。

楽器に取り付けるタイプのアコースティックギター用のマイクやら、サックス用のマイクやらも色々と試したんだけど、元々の音が小さいから、すぐハウリングしちゃうんだよね。いずれにせよライブには不向き。

金町タイマーズ『幸せハッピー』(忌野清志郎カヴァー)
横浜ライブバー「風鈴」にて/2015年8月2日

でも、俺は考えたわけよ。

「だったら改造しちゃえばよくね?」

アナログ的に音を響かせる改造なんてのは到底ムリだけど、デジタル的な改造ならどうにかなりそう。鍵盤の1個1個にスイッチを仕込んでMIDIのノートオン・オフ信号に変換して、外部のシンセを鳴らせばいいじゃん、と思ったわけだ。吹き口にはブレスセンサーを仕込んで、やはりMIDIのベロシティとかエクスプレッションの信号として出すという仕組み。そうすれば、大きな音だって自由自在。ライブで使えるようになるぜ!

これが本計画の発端。
MelodicaのMIDI化計画、名付けて

「プロジェクト MeloMIDIca」

2016年の初頭のことでございました。


Melodicaをバラして後悔した

改造の方針を立てるために、まずは1台、分解してみた。初代の方が木製でバラし易かったから、潰すつもりで分解したのだ(後に大後悔)。

当初は、フレームは流用して、削ってスイッチを仕込めばどうにかなるかなと思っていたんだけど、試しにちょっと削ってみて分かった…これは「改造」レベルじゃとても無理だわ。

Melodicaを4枚におろしてみた。

フレームは、空気の通り道を作るために複数の板を貼り合わせている。スイッチを仕込んで配線経路を削って作ると、剛性が保てないのだ。

つうか、そもそも俺は「木工」の技術を持ってないんで、上手くいくわけないじゃん!

ドリルとカッターとヤスリで削ってみた。きたねえ。

そして、入手性の高い後期型(プラスティック製)の方は、そもそも削ってどうにかしようなんて目論見が通じない構造なのであった。そりゃそうだ。

後期型のプラスティックボディ。これをどうしろと?

結局、フレームは自分で作って、そこに外装と鍵盤を移植する方針を採ることにしたのであった。

それなら、貴重な初代Melodicaを削って台無しにするんじゃなかったよ…。


スイッチを仕込んでマイコンに繋げた

フレームを技術的にどう作るかは置いといて、まずは木の板にスイッチを仕込むところから始めてみた。

楽天市場で買った木の板(アガチス工作材)に、Melodicaから採寸した鍵盤位置を鉛筆で書き、ノコギリとドリルと彫刻刀とを駆使して加工する作業。

いま見たら、2016年と同じものが売っていたよ。

一日に穴1個をノルマとして、ひたすら削る削る削る。穴は全部で25個。ほぼ1ヶ月。人生でもっとも時間を無駄にした自信はあるw

その甲斐あって、やっとフレームの試作が完成。Melodicaから剥ぎ取った鍵盤部分を移植して、なんとか形にすることができた。

Melodicaの鍵盤部分をそのまま移植。
裏側の配線。きたねえ。

この時期、木の板との格闘と並行して、実はマイコンの勉強も始めていたりする。そりゃそうだ、スイッチ入力をMIDI信号に変えるには、マイコンが必要だからね。

選んだのはTeensyというマイコン。有名な初心者向けマイコン「Arduino」と全く同じツールで開発できるけれど、Teensyはスイッチ入力のピン数が多かったり、動作速度が速かったり、メモリが多かったり、簡単に「USB MIDI」を使ったMIDIデバイスが作れたりと、まさに俺のプロジェクトにピッタリのマイコンだったのだ(なんで日本で流行ってないんだろ?)。

プログラミングなんぞをするのは十年以上ぶりだったけど、そこは昔とった杵柄。中学高校大学とマイコンをいじりまくってた俺だ。ちょっと勉強すればMIDIデバイスを作るのなんざ、造作もない。

というか、21世紀に入ってから、マイコンで何かするのが本当にラクチンになってるよなあ。かつては、ン十万とンヶ月かけてやっとできてたことが、4~5千円で、1週間かからずにできちゃうし。いつの間にか未来になってるんだなあ。

てなわけで、木の板に仕込んだスイッチからMIDI信号を出すところまでを記録した動画が、こちら。

この動画、投稿日はなんと2016年7月16日! なんだよ、6年前にはここまでできてたのかよ。


計画、停滞。

後は、ブレスコントローラー部分を作って、配線をプリント基板でコンパクトにして、木製のフレームをちゃんと設計するだけ…だったのだけれど、なぜか計画は停滞。

時折、ワンシーズンに1回ぐらいは思い出して、ブレスコントローラー部品を発注して動作させてみたり、「Maker」系の道具を使わせてもらえる店で木工の技術やレーザープリンターの使い方を習ったり(Maker's Baseで講習を受けた)、プリント基板をCADで設計する方法を調べたりはしていたんだけど、なぜか本腰を入れて進める気にはなれなかった。

細かい理由ならいくつもある。プリント基板CADが無料版だとショボかったり…プリント基板を製作する会社(P板.com)で見積もりを取ったら3万円もかかることが判明したり(何度も試作を繰り返したら、すぐ10万を超える!)…近所のMaker系クラブ?のファブラボ関内で講習を受けて、入会を申し込んだのに返事が来なかったり…。

いや、これはみんな言い訳だな。

要は、これからかける時間とお金と労力に見合った成果が得られるかどうかが分からず、なんとなくやる気を失っていたってことだ。莫大な時間とお金と労力を投入すればできるかもしれないけど、そこまでしてやりたいものではないんじゃないか。しかも完成したとしても低クオリティのショボいものにしかならないんじゃないか。そんなことを自分に言い訳しつつ、かといって諦めることもできず、放置していたわけだ。

――つい最近までは!

レーザープリンターでフレームを作るところまではやったんだよなあ。


…からの、計画再開!

今年に入ってフリーランスになり、仕事合間に時間ができたので、フと思い立ってフレームの製作やらプリント基板の発注やらを調べてみたんだけど…なんだか6年前より、あらゆる事がラクチンになってるじゃないの!

フレームは、わざわざ木工の技術を習得しなくても、3Dプリントで作ってくれるサービスがあるみたいだし、料金も高くはない。プリント基板も中国あたりに発注すれば格安でできるっぽい。そして何より、制作に必要なソフトは、機能が十分なものが、無料。その使い方も、YouTubeにはチュートリアル動画が山のように上がってる。

ナニコレ、天国かよ!

というわけで本業のヘヴィな案件が片付いたGW明けあたりから、本腰入れて取り組むことにした。なんだかクオリティの高いものができそうな予感。そしてその予感は、進めれば進めるほど実感に変わってきている。

次回からは、GW明けに取り組み始めた、プリント基板や3Dプリント部品の設計・発注話を書いていこうと思う。今まさにやっているところだから、首尾よく完成するかどうかは不明だけど、まあ何らかの形にはできると思う。

形にできなかったら、また6年寝かせればいいだけだし

(次回に続く)


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