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スカイブルーが似合いたい

もしかしたら、水色の服を持っていないかも。
そうハッとしたのは、ミッチーこと及川光博氏が「今年のツアーのテーマカラーは、スカイブルー(水色)です」と発表したときのこと。ミッチーのワンマンショーでは、観客のかなりの割合がテーマカラーを身に着けて踊り狂うのが恒例だ。
ところがクローゼットを開けると予感的中、スカイブルーどころかそもそもパステルカラーの服が一枚も存在しなかった。

動揺を静めるべく、いま持っている服を16色(参考:サクラクレパス)に分類してその割合を求めてみる。条件としては以下の通りである。

・普段着ではない、パジャマとスーツは除く
・シャツもズボンもワンピースも、それぞれ1着としてカウントする
・柄の色ではなく、地の色(遠目に見た色)で分類する
・複数色が拮抗する場合など、判断できないものは「その他」に入れる

結果、てまり飴みたいなグラフができあがった。
黄緑と水色の服は一枚もなく、灰色の比重がやや大きかったものの、そこそこカラーバリエーションには富んでいるらしい。

ジョブズは絶対に目指せない

とはいえ上記の服をまんべんなく着ているわけではない。月曜は赤、火曜日は青と一週間でレインボーが作れたらそれはそれでおもしろいけれど、残念ながら私はそれほど器用ではない。
ここ数年で一番着ている服は、ぶっちぎりでインドで買った紺とピンクのワンピースであろう。
このワンピースは薄手の長袖なので重ね着して春と秋、そして日焼けしたくない夏も着られるという、季節の半分以上をカバーできてしまう優れものなのだ。
おまけに西葛西で毎年行われているインドのお祭りディワリに着ていけばインドの人たちからテンション高く迎え入れてもらえるという、コミュ力増強アイテムでもある。

コミュ力増強インドワンピース

このワンピースのことは大好きではあるのだけれど……こういう服が似合うことと、パステルカラーが似合うことはたぶん両立しえない気がする。
そもそも水色の服を買ったことがない時点で、着ようと思ったことがない時点で、それが似合わないであろうことは薄々わかっているのだ。

そういえば一昨年、私は自分の誕生日プレゼントとして「おしゃれな夫」をリクエストし、ポール・スミスの鮮やかな水色のシャツを着こなす夫に目を見張った。
我が家の水色大臣は、夫なのである。

「今年のツアーカラーがスカイブルーなんだけど、私は似合わない予感がしてるんだよね」と、水色大臣に相談する。
すると、さらりと笑って彼は言った。
「俺、自分が似合ってるかどうかなんて考えたこともないよ。汗染みが目立たないかどうかしか気にしてない」
汗染み……。
たしかに彼は服を買うとき、いつも脇あたりを入念に指でつまみあげてチェックしている。汗が染みたときに色が変わるかどうかを慎重に見極めていたらしい。
服に求める条件は、人によってかなり違う。夫の最優先事項は、脇汗。私はたいてい、シワになりにくいことと着心地のよさ。特定の色を求めて買い物するようになったのは、ミッチーツアーに行くようになったここ一、二年のことである。

脇汗ファーストの夫は「まぁ、着たいものを着るのが正解じゃないかな」と模範解答の神みたいなことを言ったあと、こう言葉を続けた。
「俺にできて、あなたにできないことはないよ」

それはちょっと違うんじゃないか?あなたに似合って私に似合わない服なんていくらでもあるでしょうよ。
そう苦笑しつつも彼の言葉に背を押されて、私は服飾系リサイクルショップたんぽぽハウスに行った。
棚にずらりと並んだ服のなかからスカイブルーを引っ張り出し、試着室に入る。

これまで自分の顔や体格に対して「しっくりくるかどうか」という、直感に近い感覚で服を選んできたけれど。
いざ着てみたら案外………
案外………

いや、スカイブルーハードル高いな!!!

つるんとした爽やかな色味は、一歩間違えば美容院で首から巻かれる布のようだった。
なんだろう、友だちが怪我で入院していたときに着ていた作務衣に見えなくもない。
クレヨンしんちゃんが幼稚園で着ているスモックも、たしかこんな色合いだったな。

そもそもスカイブルーは普段着には見えにくいという新たなハードルに悶絶して、手ぶらのまま店を出る。
その後は友だちと会うたびに「ねぇ、スカイブルーが似合わないんだけどさ」と相談をねじ込んだ。本当は転職のこととか新刊の話とか、相談すべき重要めいた話はたくさんあったのに。
そこそこ親身になってくれた友だちが、「水色の似合う人ってそもそもあんまり思いつかないかもー。ちょっと挙げてみようよ」と言い出した。

ディズニーのシンデレラ。
不思議の国のアリス。
氷の国のエルサ。

日本人には、無理ってことかい……?

「諦めるのはまだ早いよ」と、とろんとした目で彼女は言った。

「金髪か白髪にすればいいんじゃない?」

新たなハードルを生み出さないでほしいな。

*  *  *
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たんぽぽハウスのがっつりした紹介はこちら。東京、千葉に15店舗を構える古着屋です。


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