見出し画像

包み紙をラミネートする時代【文フリ広島 前日編】

「文フリ広島の日さ、あっちゃんの家に一緒に泊めてもらおうよ!」
「え、大丈夫ですか?あっちゃんさんがいいならありがたいですけど……」
「あっちゃんOKだってー!!!」
「マジですね?それならお言葉に甘えてしまうけど、本当の本当にいいんですね?」

そんなあまりにも軽やかなノリに流されて、私は文学フリマの前日にとき子さんのお友だちのあっちゃんのおうちに泊めてもらうこととなった。
あっちゃんにとっては「友人とき子とネットで繋がっているつる・るるるを名乗る人物が泊まりにくる状況」である。ねえ、本当に大丈夫?

ネット(ほぼnote)で繋がっている人たちと実際に会うようになってから、ネット上での友だち付き合いも現実での出会いを起点とした付き合いも結局は「人と人」なのだと思えるようになったけれど、それまで私自身「ネット上の友だち」という存在に若干恐れを抱いていた。
性別も年齢も経歴も偽れる、そこで育まれる友情は虚構。たとえ裏切られても文句は言えません。
私の母はそう信じていたし、家庭科か情報の教科書あたりで「ネットトラブルの例」として「ネット上の友だちが詐欺師だった」みたいな文章を何度も読まされたから。

けれどnoteを始めて、誰かを騙すためではなく誰かに聞いてほしいことをちみちみと書いている人たちと出会うにつれて、「出会った場所がネットだっただけで、現実で出会っていても仲よくなれただろうな」と思うようになった。
家が近かったから、同じクラスにいたから、同じ部活だったから、そんな繋がりを飛び越えてただただ文章に惹かれた人に会うこと。
それはとっても心躍ることではあったけれど、その繋がりを自分と相手以外に広げるのはちょっとドキドキしてしまう。
それでも広げたいと思ってくれたとき子さんも、とき子さんの友だちならOK!と言ってくれたあっちゃんも、すごい。

そんな話をしていたら、「ちょっと待ってよ!私もとき子さんに会ってみたいんだけど」と友だちにつつかれた。
私の本を買ってくれている友だちや家族や恩師も、これまで寄稿してくれたとき子さん鶫さんKaoRuさん戌亥さんをもはやほぼ友だちと思っているのかもしれない。ありがとう、いつか集いましょう。

さて文フリ前日、私は夜行バスを降りて前日から広島入りしていたとき子さんと娘さんのさーちゃんと再会、あっちゃんとも「はじめまして!」と言い合った。
あっちゃんに会うなり二人のフラダンスチームの近況を聞くとき子さん。その話を聞いて、私は唖然とした。
フラダンスは優雅な習いごとに見えて、むちゃくちゃ体育会系だったのだ。
大きな大会、熱の入った練習、手編みのレイ。
大会ではレイに込められた思いを聞かれたり、レイから落ちた花を踏んだら減点なんて厳しいルールもあるのだそう。
私だったら踏まないように花を足で押しのけたりしちゃいそうだけど、それもきっと減点対象だろう。
そんな状況で笑顔を絶やさず踊れって……なんか、鬼に囲まれて踊るこぶとり爺さんみたいな緊張感だな。

あっちゃんのおうちに着くと娘さんのぴーちゃんと息子さんのさっくんが礼儀正しく出迎えてくれ、私たちはいそいそとお土産交換タイムに移った。
とき子さんがあっちゃん邸に持ってきたユニバのカエルチョコに一同騒然。あっちゃん邸は一家でフラダンスをやっているだけでなく、一家でハリポタにハマっていることが発覚。みんなで寮の組み分け性格診断で盛り上がる。
「レイブンクローがいい!」と言っていた聡明なぴーちゃんも、「不正に目をつぶることがある」的な質問に毅然とNOと言っていたグリフィンドール志望のさっくんも、見事希望通りの入寮を果たした。
子どもたちが別室で熱く盛り上がりだしたので、大人はリビングで白湯を囲む。
とき子さんが語ることには、さーちゃんの友だち付き合いは私たちの世代とかなり異なるという。

「夜遅くまでスマホがピロンピロン鳴っていたから、時間決めてやりなって言ったら、『じゃあ退会するー』ってクラスLINEから退会しちゃったんよ」
「相手からの連絡も既読だけつけたらそのまま放置なの。私たちだったら何か返事しなきゃと思うよね?」

突然の退会も既読無視も、とき子さんや私の世代にとってはいじめの理由にされてしまうんじゃないかとヒヤヒヤする出来事だけれど、少なくともさーちゃんの周りはそれでまったく問題ないらしい。

話は変わってぴーちゃんの成長を見たいと、とき子さんがフラダンスをせがんだ。「踊って踊って!」とはしゃぐとき子さんに「いいよー」と笑顔で準備するぴーちゃん。
そうして見せてくれた踊りは、本当に素晴らしいものだった。
さっきまでのケラケラ笑いながらお菓子を食べていたのと同一人物とは思えない、凛とした空気をまとったダンサーの本気にとき子さんが泣いていた。

ホグワーツの4つの寮の紋章が描かれたクッキーを食べていた子どもたちがいそいそと小袋を集めだした。これにラミネートをかけて、栞にするという。さっきまで気迫すら感じさせる雰囲気で踊っていたぴーちゃんが率先してクッキーの袋をラミネートシートに並べ、弟のさっくんとさーちゃんもうきうきとそれを見守っている。

うっ……かわいい。
この子たちはいま、包装紙にラミネートをかける時代に生きているのだ。私の家にはラミネーターはなかったけれど、大事な友だちからもらった包装紙の皺を伸ばして丁寧に本に挟んだ記憶がある。
いつからそれをしなくなったのか全然思い出せないけれど、包み紙で盛り上がれる時代はきっと思っている以上に短いものだから。
どうかどうか、この時代をめいいっぱい楽しみきってほしい。

ラミネートされた包装紙

夜、お子さま三人組の熱望によって人狼ゲームをすることに。

人狼ゲームとは、村人陣営と人狼陣営に分かれて、自分の陣営の勝利を目指すゲームです。村人陣営は議論を重ね、誰が人狼なのかを推理していきます。人狼陣営は正体を隠しながら、村人陣営の議論を引っ掻き回します。

【初心者でもわかる】人狼ゲームのルール・役職・やり方を解説します!

こんな説明を三人組から聞いた大人たちは混乱した。
とりあえず人狼になったら人を襲って、村人だったら人狼を当てればいいんだね?そんなざっくりとした理解でゲーム開始。進行役のゲームマスターの「恐ろしい夜がやってきました」というセリフに怯えたさっくんが「恐ろしいって言わないで!!!」と半べそで言う。わぁかわいい、なんて思いながら役職の書かれたカードをめくったら、私が人狼だった。

とりあえずとき子さんを襲って脱落させてはみたものの、村人たちは理路整然と推理を進めてゆき、私は一気に畳み掛けられて追放され、「村人チームの勝利です」となった。
なぜかあっちゃんと私は人狼に、とき子さんは圧倒的に村人に当たる率がやたらと高く「村人として平穏に生きたい……」「役職がほしい!ゲームに参加してる感がほしい!」と互いを羨ましがる。
一方子どもたちは「もし本当に占い師ならそんな言い方はしないよ」「お母さん声震えてるよ」と鋭く追及し、容赦なく人狼を追放する。

張り合いのない大人たちに子どもたちは「人狼はすぐに“自分は村人です”って嘘ついた方がいいよ」「“占い師です”って名乗り出て村人たちを混乱させる手もあるよ」と口々に教えてくれるのだけれど、あいにく私たちは嘘をつき慣れていない。タジタジになりながらついた嘘はあっという間に見破られて、私たちは何度も追放された。

フラダンスに感動して、ハリポタで盛り上がって、人狼で完敗して。
次の日は文学フリマの本番なのに、もはやこちらがメインのような、そんな顔の使い方をしてしまった。
泣いたり笑ったりしすぎて、頬と目元の疲労度が、もう半端ではないのだ。
とき子さんのノリのよさと、あっちゃんファミリーの懐の深さに甘えた広島旅行。
この楽しすぎる旅行の記憶は、包装紙の皺を伸ばすように丁寧に丁寧に心のなかに刻んでおきたい。

おいしすぎる手作りパンのお昼ご飯。

爆笑のとき子編はこちら。

この翌日、文学フリマ当日の話はこちら。


この記事が参加している募集

noteでよかったこと

子どもに教えられたこと

お読みいただきありがとうございました😆