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やり抜く力:アンジェラ・ダックワース①


「成功の決め手は何か」
 
人間の能力、資質、才能などを論じたり、話したりすることは、日常生活において、よく見られる光景です。
 
そんな時に出てくる言葉が、「天才」とか「凡才」とか、いわゆる、才能のあるなしに関する言葉であり、特に、「天才」などという言葉を使うときには、何か先天的な能力、知的能力にせよ、身体的能力にせよ、超人的に秀でた才能・能力が生まれながらに備わっているのだと思って、何の疑問も持たず、「あの人は天才だ」と言ってしまうときがあります。
 
ここで、天才とは何かと改めて問うことにすれば、ほとんど何の努力もせずに、他の人が一生懸命、努力しているのを尻目に、ごく自然に豊かな驚くべき才能を開花させ、大きな結果を見せつけるたぐい稀な人間であるというような概念で、天才を語ることが果たしてできるのかと言うことです。
 
アンジェラ・ダックワースが、2016年5月に出した『GRIT:The Power of Passion and Perseverance』という本が大きな話題を呼び、世界的な反響を巻き起こしたとき、日本でも、早速、翻訳が出て『GRIT やり抜く力』のタイトルで出版されました。
 
そこには、天才とは、グリットを持った人、すなわち、「やり抜く力」を持った人が天才と呼ばれるにふさわしい人であると書かれていました。
 
なぜなら驚異的な実績につながる結果をしばしばそういう人(やり抜く力を持った人)が出していることがその証であるという内容を、多くのデータを示しながら述べていたのです。
 
なぜ一部の人は成功し、他の人は失敗するのでしょうか? アンジェラは、画期的な研究から得た新たな洞察を共有しながら、才能が成功の保証にはならない理由を説明します。
 
アンジェラは、グリット (非常に重要な目標に対する「情熱」と「忍耐力」の組み合わせ) を持つ人が、あらゆる分野で優れた業績の達成者になっていることを発見しました。
 
「アンジェラ・ダックワースの研究」
 
アンジェラ・ダックワースは、ニューヨークの公立中学校で1年間数学を教えた経験を持っていますが、その時、分かったことはIQだけが優等生と劣等生の違いではないということでした。
 
成績がとても良い生徒でも、それほど高いIQではない子もいたし、頭がすごく良くても成績の良くない子もいました。このような経験から、アンジェラは教壇を下りて 大学院に行き 心理学者になりました。
 
様々な 超挑戦的な環境に置かれた子どもや大人についての研究、 ウエストポイント陸軍士官学校での研究、全国スペリング・コンテストで、どの子どもが競争でより勝ち残るかなどの研究、民間企業での販売員の研究、その他の研究を通してわかったことは、成功を左右しているのは、単なるIQではなく、社会的知性でもなく、ルックスでも 身体的健康でもありませんでした。
 
成功を左右しているのは「やり抜く力(情熱+粘り強さ)」、すなわち、アンジェラの言葉でいう「グリット」でした。
 
いかなる分野であれ、優れた業績を達成している人々は、例外なく、「やり抜く力」を持った人であり、ただ、才能があるからとか、天才だからとかの理由で成功するのではなく、「グリット」こそが、成功の秘訣としてはっきりと浮かび上がってきたのです。
 
「やり抜く力とは」
 
アンジェラ・ダックワース(1970-) は、中国系アメリカ人で、ペンシルベニア大学心理学部教授です。
 
近年、アメリカの教育界で重要視されている「グリット」(やり抜く力)研究の第一人者として著名であり、2013年、マッカーサー賞を受賞。教育界、ビジネス界、スポーツ界のみならず、ホワイトハウス、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、米国陸軍士官学校など、幅広い分野のリーダーたちから「やり抜く力」を伸ばすためのアドバイスを求められ、助言や講演を行っています。
 
ハーバード大学(神経生物学専攻)を優秀な成績で卒業という経歴の持ち主であり、その天才的とも思われる彼女が、一般的に言われている「天才(IQの天才)」の概念を離れ、「やり抜く力(GRIT)」こそが、平均的な才能を持つ人々を天才的な業績へと押し上げているという事実を世に示しました。
GRIT(やり抜く力)が、情熱(Passion)と粘り強さ(Perseverance)から成るとして、それでは、才能をスキル(高度な技能・腕前)に引き上げるには「努力」が必要であることを、「才能×努力=スキル」で表すと、そのスキルが大きな達成を生むには、これまた「努力」が必要である、すなわち、「スキル×努力=達成」となります。
 
結局、「才能×努力×努力=達成」と書き換えることができますから、大きな達成、業績を生み出す方式は、才能に努力を加え、さらに努力を重ねることによって天才が成したと思われるような業績が生まれるのです。
 
この「努力に努力を重ねる粘り強い力」のことを「やり抜く力」と、アンジェラは言ったのです。言われてみれば、何だか当然のことを言っているみたいだ、となりますが、多くの人はそこまで努力しませんから、成功する人にはなりません。
 
「やり抜く力、最初の扉」
 
ここで問題になるのは、全く興味のない事柄に対して、情熱が湧かないのにどうして努力する力が生まれるのかと言う、いわば当然の素朴な疑問です。
 
この疑問に対しては、各自、自分が興味を抱いている事柄、楽しむことのできる事柄に対して、グリット(やり抜く力)の最初の扉を開かなければならないということに尽きます。
 
何かの対象に向かって、グリットの強化を図りたいと思うならば、その対象は、自分にとって、興味のある対象、楽しいと感じることのできるものでなければなりません。あるいは、これは自分にとって重要であると考えているものであるべきです。
 
アンジェラのグリット理論は、最初の扉を開いたところに大きなポイントがあります。
 
情熱とは、それに没頭できる興味が自分にあること、自分がそれに取り組んでいて苦痛でなく楽しいと感じることができるものによって引き出される情的なエネルギーです。興味と楽しさ、これがカギとなります。
 
人によって興味や関心はさまざまです。学問、スポーツ、音楽、絵画、登山、研究、機械、天文、旅、著述、発明、経営、政治、医療、教育、挙げればきりがありません。
 
グリット(やり抜く力)の対象となるものは、自分にとって何か。大谷選手の活躍は「天才的」とされますが、アンジェラ・ダックワースの見方からすれば、「やり抜く力」、すなわち、野球への情熱と粘り強さ(努力に次ぐ努力)の驚異的な働きがあるはずだということになります。

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