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編み姫

 今、来春の羽化に向けてせっせと羽を編んでいる。 
 陽当たりの良い窓もロッキングチェアもないけれど、すっぽり頭まで包んでくれる寝袋の中に、買い込んだ毛糸と一緒に籠るのも、案外悪くないものだ。
 それにしても、羽を一枚編むのに毛糸玉が八玉も要ることにはおどろいた。四枚でしめて三十二玉、色は烏の羽根から紡いだ黒と、りんどうの花びらを練り込んだ青、他に装飾用の翡翠とルビーも。それだけ買うと私の財布は空っぽになってしまった。
 けれど、一年後の私に必要なのは、使い古した紙切れではなく空を飛び回るための羽なのだ。
 さあ、母から受け継いだ編み図に従い丁寧に編み上げよう。一年後の、お披露目の瞬間を心待ちにしながら、私は今日も毛糸たちに向かって指揮棒を振る。

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