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巨影

 息苦しいのは単純に考えて酸素不足のせいで、さらにその原因を辿っていけば、空気を通さない密室に閉じこもっているからだということになります。
 だから、私の四方八方を囲っている、これ、この壁やら天井やらの正体を突き止めなくてはなりません。こいつを形作っている、私の意識の構成を見極めなければなりません。
 壁は非物質的で普段は無色透明だけど、じっと目を凝らせば、しゃぼん玉のようにとある光景を映したり表面に凹凸を作ったり伸縮したりとあらゆる動きを見せます。
 無視していれば問題なく過ごせるのですが、些細なきっかけでその存在を思い出してしまうと、魂が呼吸困難に陥ります。しかし時折、プラネタリウムで見る宇宙映像のように壮麗な世界が垣間見えたりもするのです。

 意味もなく苦しくなるのは、本当はそこにあるはずの理由の姿が見えないからです。見えないのは、小さなものが堆積していて一つ一つを捉えることが困難だからです。
 それらは小魚の群れが海面に映す巨大な魚影のごとく、見る者の心を惑わせます。触れれば雲散してしまう脆く儚いものもあれば、個々に対処していかなければならない場合もあります。何にせよ、数が集まると厄介です。

(2013/12/10)

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