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対馬ってどこやねん!人生模索中!

伊丹空港からの帰り道、梅田の高速出口を降りた空港バスはビルの隙間に潜り込んでいく。僕は機内モードのままだったiphoneを握り締め、窓の外をぼーっと眺めていた。
生まれも育ちも大阪で、つい4日前そこにいたはずの風景に全然馴染むことができずにいた。これまでに大きなギャップは今まで経験したことがない。
連休中日の梅田はとにかく人がごったがえしており、それはごく自然で当たり前のことなのに、僕は受け入れることが逆に不自然に思えた。
赤信号でバスが止まり、小さな横断歩道に人がどんどん溜まっていく。
わずか数十秒の間で、何十と人が群れていく事実が違和感を生む反面、この信号を待っている若者たち数人だけでも志多留や佐護に住めば現地はどう変わっていくのだろうかと考えをめぐらせている。

-----僕は対馬から繋がれたテープが切ることができず。

田舎に住むという可能性

以前から田舎暮らしには興味があり、いなかパイプというサイトでたまに情報を集めていた。軽い気持ちでいなか求人ウェイティングリストへ登録したのは半年以上前だったと記憶している。
去年の12月中旬、もう登録したのを忘れていた頃。
Y氏からメールが届いたことで、対馬への門が開かれた。

地域づくりコンサルティングということで、対馬市のコンサルや観光コーディネーターとして民泊の斡旋事務局等の仕事を想定しています。自分で事業を立ち上げ、仕事を作っていける方を探しています。もし関心がありましたら、一度Skypeでお話しさせていただければと思います。

第一印象は、対馬ってどこやねん!と想定外のオファーに驚いた。
とりあえずGoogle先生に聞いてみると、

思っていたより遠かった。
僕の田舎暮らし想定ではちょっぴり田舎で四国あたりだったので、スーパー離島の対馬は外の外、ストライクには程遠いどボールだった。
今の会社に不満がないわけではないが、人間関係が悪いわけでも、給料が悪いわけでもない、無理して対馬に行くことなんてひとつもなかった。

-----でも何かひっかかる。

対馬に行かなきゃ何もわからないし、はじまらない

ロクに準備もできないまま、気がつくと3月はやってきた。
Skypeの面接も終え、僕が良ければどうぞとレールが轢かれている。
(これは想定外の出来事でした、普通にアウトやと思ってました)
ご縁だといえば、聞こえは良いが、そもそも時間がなかったのも確か。
「百聞は一見にしかず」、インターネットがどれだけ普及しても変わらない。☆のレビューではなく、自分の感じたことがすべて。
現地で聞いて、見て、触ったもので判断すればいい。
もし違っても比較の対象ができるから前進するのは間違いないし、なにより30を過ぎた僕が必要とされていることがとても嬉しくて、Y氏の元へ行くことを決心した。

-----対馬で働く気持ちは天秤にかかったまま

対馬に来るかどうかもわからんおっさんを歓迎してくれる会!?
無責任に絶対行きますなんてこの段階で言えなかった、とにかく恐縮するしかなかったが魚の美味しさにめっちゃ感動した。
これは最強。間違いなく人生で一番旨い!!!

はじめての限界集落

将来の勤め先になるかもしれない志多留の世帯数は39、男32人、女性38人の集落だ。(H28.2時点)もちろん、ほとんどが高齢者。
想像のはるか右斜め上、圧倒的限界感に打ちのめされた。
(写真)はすでに人が住んでいない廃家。
ここで何をすれば良いのだろうか、無力感につつまれながら、そもそも対馬にさほど思い入れのなかった僕は働くことが難しいと判断する。

-----みんなが対馬へ思う気持ちが強すぎて、僕が場違いである気がした。もう少し自分に合った環境を模索する必要があるのかもしれない。

ごんどうメソッド

民泊ごんどう、僕が2日目で宿泊したところ。
「いい旅のススメ
」あとがきでも登場する対馬でも有名な民泊。
今後のお仕事でもお世話になるところで、Y氏と一緒に宿泊しました。

美味しい食事と適量のビールで満足することを許されませんでした。笑
ごんどう夫妻はとにかくアツい、とにかく対馬のこと他人のことを考えている姿勢にハッとさせられることばかりだった。
不特定多数に向けて、無償の愛情を注ぐこの方法は誰もが真似できるものではないが、人とコミュニケーションの本質であると確信できる。
誰かが良いと強く思えば、誰かに伝染し、それは大きな広がりを見せる。
薄っぺらい嘘ではない、ちんけなマージンはとらない、一泊6,500円を貫いた結果がすべてを物語る。
順風満帆など遠い。8年前にはじめた民泊、奥さんは涙を濡らす日々も少なくなかったという。
営業とは何か、生きるとは何か、本で読む正解より限りなく近い答えがこんなところで見つかった。

-----波が高くなってくる、僕にもできることがありそうな予感。

佐護ヤマネコ稲作研究会

椿が美味しいのを知ってるか?

椿をすり潰して、団子みたいにしたら美味しいのかなと途方もない答えが頭に浮かんだが、もちろん不正解だった。
雨上がりに、花の部分をねじり取ると水がたまっているという。
それを一気に口の中へ入れると甘くて、それはそれは超美味しいらしい。
ジュースなんかなかった時代、それを飲むのが楽しみで子供同士取り合いっこになって椿を探したそうだ。(この話は3回聞きました笑)

3日目は、佐護ヤマネコ稲作研究会の送別会に飛び入り参加させていただいた。絶滅危惧種であるツシマヤマネコとの共生を目指し、お米を作り続けている。対馬に来れば、研究会で作ったお米を全国に営業する役目をもらえる。

僕はこれまで対馬に排他的イメージを持ってやってきたが、これも見事に打ち崩された。
少し意地悪な質問、でも自分にはとっても大事な質問。
「まったくの田んぼ素人でここに住みたいって言う若者がいたら受け入れてくれますか?」
答えは、イエス。来るもの拒まず、若いやつ来い。そういう印象を受ける。
同じ質問を別の人に問うてみる。
誰がそんなこと言うてるんや、若者が来るだけで嬉しいとまたイエス。
僕は考えを改めなければいけなかった。
もちろん、すべての人が受け入れてくれるわけではないだろう。
大阪から対馬に来ようとしている若者(佐護では)に疑心の目がなかったとはいえないが、受け入れてくれる人がたくさんいるという事実は確かだ。
みんなお酒も入り、気軽に声をかけてくれるし、話をしていても面白い。
普段ネットをブラウジングしているだけでは、手に入らない人の温かさ、昔から繋いできた知恵袋がそこにつまっている。

帰り際、研究会の兄貴に「はよ対馬に来んね」と声をかけられた。
「はい」と相槌を打つと適当やなーと笑われた。

-----Y氏の家で3人会議、3時前、布団をかぶって脳内に響くのは、くるり「ハイウェイ」

(写真)は帰りの飛行機から。対馬は山が9割。

ビルに囲まれるか、山に囲まれるか

バスは阪急バスターミナルに到着した。
スーツケースをごろごろ転がしながら、人の合間を縫っていくことに少し恐怖を感じていることに気づいた。
なんか怖い、人が怖い、みんながこっちを見ている気がする。
そりゃそうか、つめはみかんの食べすぎで真っ黄色、今朝シャワーで寝癖だけをとった髪の毛はワックスもつけずボサボサ(ただ面倒だっただけ)で、上下ジャージの姿(本当に面倒だっただけ)は完全に風景からはみ出しているように思えた。
しかし、本人の努力(身だしなみ)がただ足りないのはそっと置くにしても、やはり怖かったのではないだろうか。
地元対馬の高校を卒業し、はじめて大阪へ出てきた学生の気持ちに遥か及ばないのは承知しているが、ほんの少しは共有できる気がした。

出発のチャイムが鳴り響くなか、大阪環状線内回りに飛び乗る。
ようやくiphoneの機内モードが解除されていなかったことに気づき、飛行機アイコンをオフにすると、すぐに入ってくるメールがやけに生々しい。
手すりの向こうに目線を飛ばせば、山奥ですれ違った柔らかいおばあちゃんの表情がふいにフラッシュバックする。
そういや、去年に死んだ祖母もそんな顔していたなと今になって懐かしい。
僕は返信を打ちながらまた現実へ帰るのか、もう一度対馬へ戻るのか、もうほとんど答えが出ている問いを繰り返しループさせていた。

※追記
ーーーーー食べたみかんたち

みかんを三個も食べてしまう、恐るべきコタツ。(内山の民泊にて)


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