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記憶の引越し

廃棄された道のりがなおもつづく
パタパタと店仕舞いされていく記憶に
まだ店が開いているか聞いても意味がない

店は開いたまま閉じているのと同じだ
閉じているときにものがあふれ繁盛しているように見えた店は
開いているときには空っぽだ
店の記憶ごと全部移動してしまった
どこに移動したのか聞いても無駄だ

記憶は移動すれば消えるだけ
記憶を消さないために異なる物をそこに建てたりもするが
記憶そのものを立てることはできない
記憶が小さくしぼんでいくとき
記憶はたしかに誰かに移り住みたがっている

記憶はそのままでは移れないので
ネコが大好きだった記憶は
窓辺に猫が寝転んでいる見知らぬ家の記憶に
移り変わっている

記憶が全部移り住んでしまった後に
大好きだったネコがあまえてきても
ここには窓が開きっぱなしの空っぽの家があるばかり


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