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《エピソード33・執着》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。

溢れ戻る気持ち

Mとの距離が実感として縮まった。抱きしめ合うことは距離を縮めることでもある反面、離れていくということを知っていたからこそ、離れてしまう前に“彼女“としてつなぎとめたい気持ちも高まった。Mも少しずつそうなろうとしてくれていたように思えた。でも・・

夢へと消えたもの

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Mと最後まで過ごした夜。緊張もなくて、ただ

嬉しさと恥ずかしさとが入り混じったベッドの上だった。だからと言ってそのあとにもベタベタとくっつくことがないところにMのクールさがあって、だからこそまたそこに惹かれていたと思う。

くっついたままのようで、また少し離れる。その微妙な距離感が僕たちの関係を作っていた。

でも、もうMを抱くことは二度となかった。

彼と彼女という関係を作るための「告白」も相変わらず冗談めいていたし、むしろ冗談っぽく「好きだから付き合おうよ」と言うことで“付き合うという怖さ“を避けていたのかもしれないし。

同棲していた彼氏を失ったMと、S子やCちゃんとも離れた僕にとってそれが怖かったんだ。

僕たちにとってその微妙な距離感でいる方がお互いの関係を良好にできるという共通の答えみたいなのがあって、一緒にいる時間が増えるほどその思いは強まっていたんだと思う。

そんな時に着信があった。もう、ずっと連絡をとっていなかったS子からだった。

思い出

「もしもし、、元気?」

少し元気そうなS子の声だった。声を聴いた瞬間一気に思い出が心の中に蘇る。嬉しかった気持ちや腹立たしい思い出までもが一つの球になって僕にぶつかった。

「元気だよ。どうしたの?」

僕は、今は彼女ではないS子の問いかけにやけに淡々と返答できていた。動揺することなく、平坦に。

「元気かなと思って電話したんだ。家、戻ったよ。いろんなことあったけど、なんか、ごめんね」

S子は2人で住んでいた家を出て、自宅に戻ったと言った。そして最後に小さく、僕に謝ったんだ。

「ううん。謝らないでよ。こっちだって勝手に家を出たんだから。でも元気そうでよかった」

連絡を取らない間に、“あの男“とは色々とあって別れたり自宅に戻るのに問題があったり、起きた出来事をとにかく誰かに、いや、僕に伝えたくて電話してきたようだった。

夜の仕事もやめて自分自身を俯瞰的に見た時に、なにかが違っていたんだってことに自分で気づいたS子。その思いが「ごめんね」という短い四文字に集約されていたように思えた。

ダメだとは思ったけど、後日S子と会うことに“なってしまった“。

関係の終わり

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久しぶりに会うS子は、表情が明るく感じられた。鬱だったS子も自宅にいる愛犬に会えた喜びや、嫌でも長年過ごした家に戻ったこと、いろんな仕事を経験した後に感じたことなんかを噛み締めて、前向きになれているようだった。

「なんか、体つき変わったね。頑張ってるんだね」

夢に向かって体を鍛え直していた僕をみて、S子は素直に喜んだ。こんなに嬉しそうに話すS子を見たのは何年ぶりだろうか。

「表情がなんだか明るくなったね。楽しいことあるようでよかった」

S子にそう言うとS子も素直に喜んだ。出会ってから5年以上経っていた中で、こんなにも前向きで明るく話をしたのは出会った時以来だったかもしれない。

自分の今や未来が明るく想像できると、目の前にある何かも明るく感じる。よいことがあれば自然と表情は明るくなるし、その逆はまた暗くもなるだろうし。

そう思うと、一緒に住んでいた時がいかに後ろ向きで暗さがあったのかがわかった。

止まらない会話。Mとの話はしなかったけど、どんな日々を送っているのかはたくさん話した。また野球選手を目指していたことや、体を変えるためにトレーニングしていること。月 18万の借金返済をしていることも。S子は一つ一つに喜び笑みを浮かべた。

きっと、あの時にS子の瞳に映っていた僕とは別人だったんだと思う。

S子との時間はあっという間に過ぎた。Mといる時の感覚は、腫れ物に触るように慎重で神経質になっていたけど、慣れ親しんだ時間を過ごし彼女ではなくなったS子を相手にすると気楽で落ち着いていて。しかも、お互い後ろ向きな状況ではなく、進んでいるからこそ笑顔が絶えなかったし。

あの日を境に、また何かが動き始める。Mと僕。そしてS子との間にあんなことが起きるなんて思いもしなかったんだ・・・

続きはまた。

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