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2023年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

年が明けてあっという間に1ヶ月が経ってしまったけれど、遅ればせながら、グローバルのポップ・ミュージックのシーンの動向について、僕の観点からの記録を残しておきたい。

今回の年間ベストの選曲とは直接的な関係はない話にはなるが、2023年は、今まさに何度目かのキャリアハイを迎えているTaylor Swiftの圧巻の存在感が印象深い一年だった。世界中を席巻した超巨大ツアー「The Eras Tour」は、社会現象と呼ぶべき破格のスケールで展開され、また、その並々ならぬ熱狂は世界各地のスタジアムから映画館へと広がっていった。僕も、日本で2023年秋に公開されたライブフィルム『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』を映画館で観て、圧倒されてしまった。あらゆる演出の規模が破格で、まさにライブエンターテインメントの究極型を観たとさえ思えた。このツアーは、今もなお観客動員数の世界新記録を更新中で、今週には、いよいよ日本公演(東京ドーム4days!)も開催される。長きにわたるポップ・ミュージック史に金字塔として刻まれるツアーになることは間違いないはず。また、Beyoncéのツアーの規模と熱狂も破格で、その意味で2023年は、Taylor SwiftとBeyoncéの年であったと断言できると思う。(本日2月5日の第66回グラミー賞授賞式では、Taylor Swiftが年間最優秀アルバム賞を受賞。同賞を4度受賞した初のアーティストになった。)

もちろん他にも、2023年を象徴するエポックメイキングな出来事がたくさんあった。上述した2人のように、様々なアーティストがコロナ禍の空白期間を取り戻すかのように積極的にワールドツアーを敢行し、来日公演の数も直近の数年間と比べると大きく増えた。僕は、The 1975、Måneskin、Arctic Monkeys、Coldplayなどの単独公演や「SUMMER SONIC 2023」に参加した。コロナ禍における足止めは非常に長いものではあったけれど、だからこそ、こうして再び来日公演が増え始めたことへの歓びは大きい。時期的に、そろそろ今年の「FUJI ROCK FESTIVAL」と「SUMMER SONIC」のラインナップが発表され始めるはず。期待して待ちたい。

今回は、2023年に発表された海外の楽曲の中から、僕が特に強く心を震わせられた10曲をセレクトして、ランキング形式で紹介していく。海外の全ての楽曲を一人でカバーすることは到底不可能で、記事のタイトルで予めエクスキューズしているように、このランキングは、「僕の」個人的な観点から選んだ10曲に過ぎない。決して2023年のシーンの全容を俯瞰的に総括するような内容ではないし、カバーし切れていない名曲も山ほどあるけれど、その前提の上で、この記事が、あなたが新しいアーティストや楽曲と出会う一つのきっかけとなったら嬉しいです。




【10位】
Anohni And The Johnsons 「Why Am I Alive Now?」

2016年の『Hopelessness』が過激なエレクトロサウンドをまとった作品であったのに対して、7年ぶり(Anohni And The Johnsons名義としては10年以上ぶり)となるニューアルバムは、しなやかでソウルフルなサウンドをフィーチャーした温かな手触りの作品となった。ただ、彼女は依然として、この不条理に満ちた世界に嘆き、怒り、そして音楽を通して抗い続けている。新作のタイトルは、『My Back Was A Bridge For You To Cross』(私の背中はあなたが渡るための橋)。今作は、1971年にリリースされたMarvin Gayeの『What's Going on』に込められた精神性を継承した作品であり、同時に、これから先の未来、次の世代へとバトンを渡すための作品でもある。あれから半世紀以上が経っても、戦争や環境問題をはじめとした数々の社会問題はなくなってはいない。それどころか、それぞれのイシューの深刻さは年を重ねるごとに増している。それでも彼女は、僅かに残されている希望、未来への可能性を、決して手放さない。その意思の強さ、切実さに、静かに心が震える。


【9位】
Sampha 「Spirit 2.0」

約6年ぶり、待望のソロとしてのオリジナルアルバム『Lahai』が、事前の想像を遥かに超えるような大傑作だった。今作のテーマは、超越性(beyond-ness)であり、「何世代もの人々、音、場所をタイムトラベルしながら、私たち人間が互いにつながろうとしたり、私たちよりも大きな何かとつながろうとしたりする様々な方法を探求している」作品であるという。国籍やジャンルの異なる多彩なゲストを招きながら、未だ開拓されていない音楽の新しい可能性を模索し続ける彼の姿は、もはや求道的ですらあり、そして、そのストイックで果敢な探究心こそが、彼がKendrick Lamarをはじめとした名だたるアーティストたちから共演を求められ続けている理由なのだと思う。


【8位】
Wednesday 「Bull Believer」

2023年のUSインディロックシーンの中で特に際立った存在感を放っていたのがWednesdayであり、彼女たちが、シューゲイザーとカントリーを独自のブレンドで新結合させることによって生み出した「カントリーゲイズ」という音楽性は、とても新鮮で、何よりも鮮烈な響きを放っていた。今、様々なアーティストが、「カントリーミュージックの再解釈」というテーマと向き合いながら、それぞれが試行錯誤や創意工夫を重ねているが、轟音ギターサウンドとの掛け合わせという非常に大胆なスタイルをありにしてしまった彼女たちのバランス感覚は本当に凄い。8分半の超大作"Bull Believer"は、音源のインパクトも絶大であるが、間違いなくライブの場で更に化けるはず。3月の初の来日公演への期待が高まる。


【7位】
Blink-182 「Anthem Part 3」

ポップパンクの要素を取り入れた新世代のロックバンドの躍進やエモラップのムーブメントなどが象徴的なように、近年のシーンにおける大きな傾向の一つとしてポップパンクリバイバルが進んでいて、その必然として、2023年は、このジャンルの最重要バンドであるBlink-182の存在感が改めて際立った年となった。(「Coachella」へのサプライズ出演&新作のチャート初登場1位)僕は、年間ベストをセレクトする際、なるべく新世代のアーティストの楽曲を多く選出しようと意識しているけれど、初めてこの新曲を聴いた時の胸の内の高揚にはさすがに抗えなかった。新世代のアーティストたちに負けない瑞々しいエネルギーを爆発させた新作『One More Time...』には、同時に、2020年代のシーンで轟くことを見据えた的確なファインチューニングが施されている。決して懐古的ではなく、現在進行形のジャンルとしてアップデートされ続けるポップパンクの輝きを凝縮した同作は、世代や時代を超えて、これからもたくさんのキッズの心を昂らせ続けていくはず。


【6位】
Yungblud 「Happier (feat. Oli Sykes of Bring Me The Horizon)」

振り返ると、僕は2022年の年間ベストでもYungbludの楽曲を選曲していて、僕にとって彼は、近年、全世界的に加速している「ロック復権」のムーブメントを牽引する一人として、ずっと目が離せない存在であり続けている。2022年のアルバム『YUNGBLUD』が、ポップパンクを軸とした痛快な作品だったように、今回セレクトした新曲も、突き抜けるような疾走感が果てしない高揚と快楽をもたらしてくれる素晴らしいロックナンバーだった。何より特筆すべきは、同曲において、彼が敬愛するOliver Sykes(Bring Me The Horizon)とのコラボレーションが実現したこと。僕はその場に立ち会うことはできなかったけれど、「NEX_FEST」においてライブでの共演が実現したことも、きっと彼にとってとても大きな出来事になったと思う。世代やジャンルを超越した新しい繋がりが次々と生まれていく現行のシーンの動きから、引き続き目が離せない。


【5位】
Sigur Rós 「Gold」

アイスランドが誇る孤高のバンド・Sigur Rós。この数年、定期的にJónsiのソロ作がリリースされていたし、バンドとしてコンスタントに来日公演をしてくれているので、シーンにおける彼らの不在感はあまり感じられなかったが、Sigur Rósが新作のスタジオアルバムをリリースしたのは約10年振り。その新作 『ÁTTA』が、あまりにも感動的な傑作だった。アルバム全編を通して、この星の起源を辿るような悠久の美しさに触れる感覚を何度も味わうことができる。また、言葉にならない想いを託したJónsiの歌唱は、彼らの過去作と比べても、より切実な響きを放っているように思えてならない。今作について、Georg Hólmは、「戦争、経済的混乱、文化戦争、そして残酷なまでに分断された言説によって引き裂かれたパンデミック後の世界において、『ÁTTA』は癒しと団結の絆のように感じられます。それは音楽が求めるものであり、自ら語るものです」と述べている。今作におけるJónsiの歌声が、時にシリアスな戦慄や思わず鳥肌が立つような気迫を感じさせるのは、今作の背景に現行の社会情勢に対するシビアな認識があるからなのかもしれない。ほとんどの楽曲がドラムレスで、ビートの力で牽引していくタイプの音楽では全くないにもかかわらず、今作は結果として、切実で眩い輝きを放つJónsiの歌の力によって、バンド史上最もエモーショナルな作品になっている。個人的に、『ÁTTA』 は、僕が2023年の一年間を通して、坂本龍一の『12』と並び、最も繰り返し聴いた新作アルバムの一つ。これまでのSigur Rósの作品と同じように、これからも何度も繰り返して大切に聴き続けていく一枚になると思う。


【4位】
Billie Eilish 「What Was I Made For?」

2023年についてポップ・ミュージックの観点から振り返ると、Taylor SwiftとBeyoncéの年であったと位置付けられるとするならば、映画の観点から振り返ると、まさに2023年は『バービー』の年だったのだと思う。ジェンダーにまつわる鋭すぎる問題提起の数々によって、時代の価値観を大きく前に突き動かすことを目指したこの映画が、『ザ・スーパーマリオ・ブラザース』を抜き、2023年の世界興収で堂々の1位に輝いたことは非常にエポックメイキングな出来事だった。また、その大ヒット作を鮮やかに彩ったサウンドトラック(エグゼクティブ・プロデューサーを務めたのは、Mark Ronson)も、今この時代を象徴するアーティストが多数参加した非常にパワフルな大傑作だった。その中でも僕が特に心を強く動かされたのが、Billie Eilishがこの映画のために書き下ろした新曲「What Was I Made For ?」。劇中の超重要シーンに起用されている楽曲のため、映画を観た人ならきっと納得してもらえると思う。世界で最も高い人気を誇る人形・バービーと、現行の音楽シーンにおけるトップスターの一人であるBillie Eilishが、「アイデンティティの喪失」というテーマのもとで共鳴し、その結果として生まれたこの感動的なバラードは、彼女の言葉を引用すると、単なる映画の挿入歌ではなく、「私にとって超意味がある曲」となった。Billieは続けて、「この映画はあなたの人生を変えると思うから、この曲もそうだったら嬉しい。泣く準備をしておいて」という言葉を残していて、彼女にとって、映画『バービー』(&グレタ・ガーウィグ監督)との出会いが、いかにかけがえのないものだったのかがよく伝わってくる。2023年を象徴する映画であり、サントラではあるけれど、この歌の中で歌われているのは極めて普遍的なテーマである。「What Was I Made For ?」と自らの存在意義を問うこの歌は、きっといくつもの時代/世代を超えて切実な響きを放ち続けていくはず。


【3位】
Olivia Rodrigo 「Vampire」

2021年にリリースした『Sour』の大ヒットによって高まった期待を鮮やかに超えてみせた最新作『Guts』は、彼女自身が公言しているように、極めてエモーショナルなロックアルバムである。ポップパンクをはじめ、エモ、グランジ、インディーロックといった90年代以降のロックを聴き込んできた彼女自身のリスニング体験を色濃く反映した作品であり、一方で、彼女いわく、「これまで男性が作ってきたロックを再現するようなものではない」作品でもある。ピュアなロックへの愛とスマートな批評性、その両立によって生まれたこのロックアルバムは、続けて彼女の言葉を引用すると、「ロックが大好きだったから、自分らしいサウンドのロックで、かつフェミニンな感じがして、ストーリーテリングがしっかりできて、か弱さや親密性のあることを語れるものを探求した」結実として生まれたもの。自らの感情の繊細な機微を過不足なく、時にドラマチックに描き出す卓越した歌唱力を通して、Olivia自身のリアルな心境を克明に刻んだ今作は、2023年のポップ・ミュージックのシーンを鮮やかに席巻した。ありのままの感情をロックに託し、そしてそれが、世界中の人々の心の中で「私の歌」として響きわたっていく。これは一見シンプルなことのようでありながら奇跡のような出来事で、それを成し得ることができるのがロックという魔法の音楽であることを、Oliviaは私たちに思い出させてくれた。彼女は、第66回グラミー賞のロックソング部門に、The Rolling StonesやFoo Fightersに並ぶ形でノミネートされた。また、主要部門における存在感も目覚ましく、2023年を代表するロックアイコンが、同時に時代のトップスターでもあったという事実を、ここにしっかりと書き記しておきたい。


【2位】
Boygenius 「Not Strong Enough」

第66回グラミー賞のノミネーションにおいて、主要部門のほとんどを女性アーティストが独占したことは、極めて象徴的な出来事であったように思う。そしてその中でも特に目覚ましい存在感を放っていたのが、Phoebe Bridgers、Julien Baker、Lucy Dacusの3人によって結成されたスーパーグループ・Boygeniusだ。大躍進のきっかけとなったのが、3月にリリースされた初のフルアルバム『the record』で、僕は、長年にわたってインディーロックのシーンを追いかけ続けている者として、今作の無類の完成度に深く感動させられた。それぞれがシンガーソングライターとして活動する3人は、お互いの感性を調和的なムードの中で重ね合わせながら、インディーロックという脈々と続く表現を2020年代のシーンにフィットする形へ鮮やかにアップデートしてみせた。たおやかでありながら、時に激しく昂るロックサウンドに乗せて歌われるのは、女性やクィア(3人はそれぞれがクィアであることを公言している)が抑圧された世界の中で抱く苦悩や葛藤であり、その意味で今作は、依然として変わらない世界/変わるべき世界に向けて鳴らされる切実な「反抗声明」でもある。そうしたメッセージの強度こそが、今、彼女たちのロックが世界で強く希求されている大きな理由の一つなのだと思う。彼女たちは、10月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのライブを大成功に収めてみせた。3人同士が、そして、彼女たちと境遇や志を共にする者たち同士が、お互いに連帯の意志を共有し合うBoygeniusのライブは、単に「音楽を届ける」「受け取る」以上の深い意義を誇る空間・時間であり、そこで巻き起こる大合唱は、この不条理な時代・分断の時代において、何よりも鮮烈で切実な輝きを放っている。


【1位】
Måneskin 「Honey (Are U Coming?)」

長い音楽史を振り返ると、ロックは、絶え間ない自己批評の繰り返しによってアップデートされ続けてきたジャンルであることが分かる。一つ前の時代の先人たちの表現をそのまま継承/踏襲するだけでは、新しい時代において有効性を持つリアルな表現は生まれ得ない。歴代の優れたロックアーティストたちは、そのことを深く意識した上で、自分なりの批評性を加えながら新しいロック観をシーンに提示してきた。例を挙げていけばキリがないが、例えば、僕が特に敬愛するDavid Bowie、Radioheadは、その最たる例だと思う。ロックとは、過去のレガシーに縋り続けるのではなく、時代の変遷と共に変化し続ける音楽であり、それこそが、僕がロックの世界に深く魅了され続けている理由そのものだ。前置きが長くなってしまったが、全世界的に、ロックがユース・カルチャーの王道だった時代が完全に過ぎ去ってしまったかのように思われた2010年代を経て、この2020年代に、「ロックの救世主」として世界各国に熱狂を巻き起こしまくる新世代のロックバンドが現れた。それが、Måneskinだ。長きにわたって続いた若きロックスター不在の時代。王座が空いているのであれば、自分たちこそがその座につけばいい。ロックスターの役割を全面的に引き受けることこそがMåneskinにとっての批評性であり、それはもちろん、トレンドへの迎合でも逆張りでもない。理知的な感性によって導き出された解として、4人は、ロックの王道を歩むことを本能的に選び抜いたのだ。もしかしたら当の本人たちにとっては、「ロックの救世主」を引き受けたつもりなどないかもしれないし、批評性なんていう小難しいことは考えていないかもしれない。本能的に、「かっこいいから」「好きだから」ロックを鳴らす。ただ、それだけ。その結果として、4人の歩みは全世界的に進みつつあった「ロック復権」のムーブメントと重なり、今やMåneskinは、世界各国のアリーナを沸かしまくるバンドになった。2010年代以降、意識的にグローバルのポップ・ミュージックのシーンを追い続けてきた(同時に、ロックが、ヒップホップやEDM、ラテンポップなどによって著しく相対化されていくのを見てきた)僕にとって、4人の大躍進はあまりにも感動的な出来事だった。そして、2023年にドロップされた渾身の最高傑作『RUSH!』は、ロックを新時代へと力強く突き動かす決定打となったと思う。既に始まっている「Måneskin以降」のロック史に、僕は果てしないほどに大きな希望を感じている。なお、2023年にリリースされた楽曲の中から1曲をセレクトする上では非常に迷ったが、より最新のモードを色濃く投影しているであろう"HONEY(ARE U COMING?)"を、常に今こそが一番最強である4人を象徴するナンバーとして選んだ。


2023年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】Måneskin 「Honey (Are U Coming?)」
【2位】Boygenius 「Not Strong Enough」
【3位】Olivia Rodrigo 「Vampire」
【4位】Billie Eilish 「What Was I Made For?」
【5位】Sigur Rós 「Gold」
【6位】Yungblud 「Happier (feat. Oli Sykes of Bring Me The Horizon)」
【7位】Blink-182 「Anthem Part 3」
【8位】Wednesday 「Bull Believer」
【9位】Sampha 「Spirit 2.0」
【10位】Anohni And The Johnsons 「Why Am I Alive Now?」



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