Watcher #28
いつものプチオフ会が定番化して、ただの飲み会になっていた。
馴染みのメンバーとは、オフラインでのやり取りのほうが多くなっていた。
例えば、SNSに誰かが面白い写真をあげたとする。
しかし、オンラインでわざわざ絡むことは殆どない。
飲み会のときの話のネタにする。
「この前上げてた写真さあ···」と。
普段オンラインでやりとりしてるメンバーが、オフラインで会うからオフ会だ。
オフラインが常態化した今では、プチオフ会あらため、ただの飲み会である。
そんな飲み会でのこと。
あいさんが三木さんに聞いていた。
普段は詩なんて書かないクセに、恋をすると詩人化する人いるじゃん。
みんなに聞いたら、自分は違うけれど「そんなやつ居るよね」ってなると思う。
つまり、あるあるじゃん。
あれってさ、人間にとってなんの機能なの?
あいさんがまくしたてるように一気に三木さんに質問した。
知らないけど···求愛本能が人間の独自に進化したものかな?
三木さんはそう答えた。
でさー、まだ気になることあるんだけど···
あいさんは三木さんの答えをちゃんと聞いたのか、あやしい拍子で話を続けた。
詩人化をバカにするの人も一定数いるじゃん、SNSなんか見てると。
でも、ポエム遺伝子が残ってるってことは、ポエム受容体になる人がいるってことじゃん。
おれは心のなかで「なんだよポエム遺伝子って···」とツッコんだ。
ポエム発信遺伝子とか、ポエム受容体遺伝子持ち人類と、持ちじゃない人類に別れてるよね。
なんで?
三木さんが答える前に、おれは答がわかった。
「そんなことわかるわけないだろ」だ。
予想どおり、あいさんの疑問の答えを三木さんは、持ち合わせず、こう答えた。
そんなこと、考えたこともなかったです、面白い視点ですね···
三木マイルドだ。
思わずそんな言葉が浮かんだおれは、人のことを···あいさんの“ポエム遺伝子”をバカにできる立場じゃなかった。
そんな話がありつつ、今回のプチオフ会いつもながらほどほどに盛り上がって解散した。
会話の流れであいさんは男性陣に、
詩人化して詩を書いとことあるか?
と聞いてきた。
おれも含めその場の男は全員”ない“と答えた。
ウソをついた。
おれは書いたことがある。
しかもごく最近だ。
自分でも驚いた。
あいさんのことを考えていたら、衝動的に。
有無を言わせない“愛”の完璧な定義をを知っている人はいるのか?
少なくともそれを知っている人を自分は知らない
もしどこにも居ないのであれば、全ての「愛すること」は失敗することが宿命づけられている
完全な愛にたどり着けないと感じられるのは、誰かを完全に愛しようと実践した者だけだ
それは、神様に会えないことと同じ構造なのかもしれない
詩人化にあらがえず、正気を失いつつも、完全には消え去らなかった理性が、詩成分をかなり抑えてくれた感はある。
いや、でも自分が書いた文章なんて客観的に見れるわけはないから、油断はできない。
今日の会話からして、あいさんはきっと、あいさんの言う“ポエム受容体”を持っていない気がした。
でも、おれは別にそれでかまわない。
あいさんはレズビアンだから、どの道おれの想いが届くことはない。
それに、そもそもあいさんへの想いを書いたものでもないじゃないか。
正気にもどれおれ。
その願いはすぐに叶った。
“あれ”だ。
自動車くらい大きな肉塊がズルズルと道の向かいから這ってきた。
ナメクジのようだ。
肉塊はおれの近くまで来ると止まった。
肉塊の側面が唇のように開いた。
開いた時に、光のたま粒がいくつか中からもれた。
中の舌のようなモノの先から強い光を出した。
サーチライト?
こちらの様子をうかがっている。
自動車のハイビームのようにまぶしい。
鬱陶しい···
まぶしい光を遮るために、目をカバーしていた手で、しっしっと払うゼスチャーをした。
すると、肉塊の側面が閉じた。
そんで、ズルズルとおれが来た道を進んでいった。
“あれ”には飲み会の帰り道に遭遇しすぎだ。
最近“あれ”はただ、酔っぱらって見えている幻覚なんじゃないかと思いはじめている。
あいさんはがさつに見えて繊細だ。
今日だって···
”受容体“は、三木さんの話の中で覚えた言葉だろう。
三木さんが使っていた言葉で質問すると、話が通じやすい···
まあ、おれたちはよく三木さんの話を聞く。
言葉が感染っただけかもしれないw
昔···まだおれが夜更かしを覚えたての頃。
テレビをぼーと見ていた。
深夜バラエティすら放送を終えたド深夜。
チャンネルを適当に変えていたら、影絵劇の映画がやっていた。
正確な国はわからないが、英語じゃなかったし、雰囲気的に欧州の映画だろう。
そのなかで、愛の詩が読まれていた。
有名な詩を引用したのか、その人形劇のオリジナルの詩だったのかわからない。
少なくとも、日本語字幕の文で検索してもヒットしなかった。
深夜のぼーとした中で、何故か頭に残った一編があった。
「秘しても告げても愛は愛」
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