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遼州戦記 墓守の少女

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遼州戦記 墓守の少女 あらすじ

従軍記者クリストファー・ホプキンスは反政府武装組織の首魁、嵯峨惟基の取材の約束を取り付けた。そこで彼を待っていたのは残酷な戦場の掟と一人の廃村で墓を守る少女、シャムだった。保安隊日乗でのコスプレ娘シャムの過去の物語。

遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 1

 地球から遠く離れた植民惑星『遼州』そのお荷物とされてきた遼南共和国のどこにでもある安宿。クリストファー・ホプキンスはけたたましい自動車のクラクションが気になって記事を書いている携帯端末から目を離して窓の外に目をやった。空はどこまでも青く澄んで広がっている。

 昨晩、遼南共和国央都宮殿にクーデターを起こして突入した親衛旅団と防衛する教条派の武装警察の銃撃戦の中には彼の姿もあった。親衛旅団を支持す

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 2

 遼南共和国の北西の北兼州への人民軍の補給路である街道を走り続ける車があった。その外には視界の果てまで続く茶色い岩山だけが見えた。この山々は北へ向かうほど険しさを増し、氷河に覆われた山頂を抜ければこの星、遼州最大の大陸である崑崙大陸の北部を占める遼北人民共和国へと続く。中堅の戦場記者としてようやく自分の位置がつかめてきたジャーナリストクリストファー・ホプキンスは照りつける高地の紫外線を多く含んだ日

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 3

「あのスケベ親父、帰ってきてるの?」 

 レムが露骨に嫌そうな顔をしながら柴崎を見つめる。彼女の脅迫するかのような顔に恐る恐る頷く柴崎。その状況が滑稽に見えて思わずクリスは思わず後ろに立つキーラの顔を見つめた。彼女もレムの言葉に同意するように首を縦に振っている。じりじりと近づいてくるレムに柴崎は諦めたように叫ぶ。 

「俺に言っても仕方ないじゃないですか!まあ、あの人の情報は確かだって、隊長も言

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 4

「ホプキンスさん!」 

 会議室からそのままハワードの居るハンガーへ向かうクリスが本部の軋む階段を降りようとしたところに駆けつけたのはつなぎを着た整備員キーラだった。

 振り向いたクリスの顔を見て立ち止まった彼女の顔がさびしそうな色をにじませた。

 クリスにはどこと無く彼女達人造人間を恐れているような気持ちがあるのを自覚していた。そんな心の奥底の意識が顔を引きつらせるのだろう。またキーラもど

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 5

 夕暮れを告げる風が大きなもみの木を揺らす。少女が一人、そんなもみの木のこずえに座っていた。

「なんか変……」

 そう言う少女の手には横笛が握られ、器用にバランスを取りながら笛を口に乗せる。悲しげな旋律が木の上を旋回するように始まった。元の色が分からなくなるほど着古されたポンチョ、破れかけたズボンは澄んだ木々の陰に広がる闇の中でも彼女が一人でこの森に暮らしていることを知らせるものだった。峠から

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 6

 出撃の朝の緊張感は、どこの軍隊でも変わりはしない。昨日まで野球に興じたり山岳部族の子供達と戯れていた兵士達の様子は一変し、緊張した面持ちで整列して装備の確認をしているのが窓から見える。クリスは表で爆音を立てているホバーのエンジンのリズムに合わせて剃刀で髭を剃っていた。

「別にデートに行くわけじゃないんだ。そんな丹念に剃ること無いじゃないか」 

 ベッドに腰掛けたハワードはカメラの準備に余念が

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 7

「ほんじゃあ明華によろしく!」 

 嵯峨はスピーカーを通して叫んだ。キーラ達がハンガーで手を振るのに見送られて黒い四式はゆっくりと格納庫を出る。

「それじゃあ行きますか!」 

 格納庫の前の広場に出ると嵯峨はパルスエンジンを始動した。小刻みに機体が震えるパルスエンジン特有の振動。クリスはその振動に胃の中のものが刺激されて上がってこようとするのを感じていた。そして独特の軽い起動音。四式はパルス

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 8

「支援は出来ない?!じゃあ何のためにあなた達は遼南に来たんですか!」 

 そうスペイン語訛りの強い英語で叫んだのは、遼南共和国西部方面軍区参謀バルガス・エスコバル大佐だった。スクリーンに映し出されたアメリカ陸軍遼南方面軍司令、エドワード・エイゼンシュタイン准将はため息をつくと、少しばかり困ったように白いものの混じる栗毛の髪を掻き分けた。

「我々は遼南の赤化を阻止するという名目でこの地に派遣され

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 9

「はいはい!お湯が沸きましたよー。カップを出してくださいな」 

 歌うようにそう言うと嵯峨は慣れた手つきで携帯型のホワイトガソリンバーナーの上の鍋を持ち上げた。小型のコンロを扱うのに慣れているその手つきにエリートとして育ってきたはずの嵯峨の器用なところにクリスは関心させられていた。

「ずいぶん慣れた手つきですね」 

 クリスはレーションの袋に入っていた折り畳みのコップを差し出す。中にはインス

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 10

「ずいぶんと森が深くなりましたね」 

 クリスは退屈していた。食事を済ませ、こうして森の中を進み続けてもう六時間経っている。時折、嵯峨は小休止をとりそのたびに端末を広げて敵の位置を確認していた。共和軍の主力は北兼台地の鉱山都市の基地に入り、動きをやめたことがデータからわかった。そこから索敵を兼ねたと思われるアサルト・モジュール部隊がいくつか展開しているが未だ嵯峨の部下達との接触は無い。

「なる

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 11

「青銅騎士団ねえ。ムジャンタ王朝末期のムジャンタ・ラスバ女皇の親衛隊だな。じゃあナンバルゲニア団長。君の仕える主は誰だ?騎士なら主君がいるだろう?」 

 タバコをくわえたままニヤニヤしながら嵯峨は少女に近づいていく。

「アタシの主はただ一人。ムジャンタ・ラスコー陛下だ!」 

 少女がそう言いきると嵯峨は腹を抱えて笑い始めた。クリスは一瞬なにが起きたのかわからないでいたが、少女の主の名前を何度

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 12

 獣道を進む軍用の小型四輪駆動車。跳ね上がる前輪が室内に激しい衝撃を伝えてくる。

「シャムちゃん。ずっと一人だったの?」 

 しばらくの沈黙のあと、ハンドルを握るキーラが耐え切れずに口を開いた。セニアに比べると人間らしい感情が見える彼女の言葉を聞くとクリスは少しだけ安心することが出来た。

「そうだよ。ずっと一人」 

 こんな少女がただ一人で森の中でひっそり生きてきたのか、そう思うとクリスは

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遼州戦記 墓守の少女 従軍記者の日記 13

 次の朝からクリスはこの取材の目的のために動き出した。それは兵士達へのインタビューだった。北兼軍閥。この内戦の勝敗を握り続けてきた中立軍閥が急に共和軍に牙を向けた事実はクリスには非常に不可解に見えた。それを引き起こしたのは嵯峨と言う一筋縄では理解できないカリスマだが、彼になぜついていくことを選んだのか。自分でできる限りの情報を集めてみたい。そう思いながらインタビューを続けた。

 先の大戦では人民

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