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社会で使われている数学-数値解析の世界-⑤有限要素法

有限要素法

微分方程式を解くための数値解析には、近似を使った計算方法の1つとして、有限要素法がある。
ここでは、有限要素法の概要・使用例について書く。
これらにより、主に有限要素法とはどのような考え方なのかを知っていただきたい。

また以下では私自身が経験があるため、電波に関する微分方程式を解く場合を考えているが、物理的に似ているため光を扱うと考えて書く。
この理由は物理的には正確ではなくなるが、イメージしやすいようにするためである。
深く考えず、微分方程式を有限要素法で解くと、電波に関するなんらかの重要なものが求められること、この電波という部分を光に置き換えたと考えていただきたい。
光の状態を求めると表現している場合は、光の色や明るさがわかると思っていただきたい。

概要

有限要素法の例として、導波管と呼ばれる光の通る管を例として書く。
導波管は、

のような、内部が空洞な直方体のものを考え、赤い四角形で示した断面図、

を考える。
有限要素法では、全体の光の状態を求めるのではなく、ある区切られた部分を求める。
この図では、黒線で示した正方形の線上(境界線上)と内部の光の状態を求められる。
有限要素法では、分割と境界線(黒線部分)の2つが重要なキーワードとなる。

分割

有限要素法では求めたい部分を、

のように分割し、

青で示した点の光の状態を求める
この分割方法にはいろいろとあるが、今回は最も単純な正方形で分割したとする。
また、青で示した点の間の関係式が必要になるが、これを求められないから有限要素法を用いている。
このため、点の間の関係式を近似する。
この近似方法にはいろいろとあるが、最も単純には2つの点を直線でつなぐ方法がある。
これは単純すぎないかと思うだろう。
この例として、
$${ y=\dfrac{1}{x}}$$
という反比例のグラフ、

黒の実線部分$${( 0.5 \leqq x \leqq 3.0)}$$を分割した場合を考えてみよう。
この黒の実線部分を、

のように5分割し、青の点部分のみ$${y }$$の値を求め、これらの点を直線でつなぐと青線のようになる
これは、全て重なっているわけではないが、たった5ヶ所の値を求められれば、ほとんどの黒線部分が求められている。
さらに、倍の10分割に増やして同じようにすると、

のように黒の実線部分と青線が、ほぼ重なっている
これは、さらに細かく分割すれば、よりきれいに重なる
よって、細かく分割すれば、2点間を直線でつないでも近似できる
しかし細かく分割すれば、青の点の数が増えるため、求める値が増える。
このため、計算量が増えることになり、細かく分割しすぎると計算ができなくなる場合もある。

境界線

有限要素法では、境界線部分の扱いが重要となる。
導波管の場合、境界線で光は、

のように、黒の矢印で示した光が境界線に当たると、青の矢印で示したように反射、さらに赤の矢印で示したように透過する。
ここで反射した光(青の矢印)は求めたい部分に戻る光、透過した光(赤の矢印)は求めたい部分から漏れた光と考えてもらいたい。
有限要素法の特徴は、基本的には求めたい部分から漏れた光を扱うことができないことである。
漏れた光を扱う場合は、工夫が必要となり難しくなる。
これが、有限要素法の欠点とも言えるだろう。

使用例

有限要素法を使って光の状態を求めるとき、境界線の扱い方が重要となる。
ここでは導波管を考えたとき、どのように境界線を扱うかをPEC、PMLという物質の場合を例にして書く。

PECのとき

有限要素法を使う場合、境界線の扱いやすい例として、PECでできた導波管を考える。
PECでできた導波管を考えると断面図は、

のように、求めたい部分が青で示したPECで囲まれることになる。
PECの特徴は、光が当たると透過しないで、反射のみすることである。
つまり、漏れた光が無い
この場合、境界線は光が反射する条件とすると、有限要素法で計算できる。

PMLのとき

有限要素法を使う場合、PEC以外でできた導波管を考えるときは光が漏れるため、工夫が必要となる。
もし光が漏れたとしても、弱くなり無くなってしまえば、PECで囲めば良い
PECで囲むと、光は戻ってきてしまうが、無くなってしまえば何も戻っては来ない
これにより、光を弱めPECで囲めば計算ができるため、光を弱める工夫をする。
1番の簡単な方法は、求めたい部分を広くすることである。
求めたい部分を広げると、光がだんだん弱くなり、最終的には無くなるためである。
しかし、どのくらい広げれば光がなくなるかがわからない。
また求める部分が増えるため、効率が悪く計算できなくなる場合がある
これに対し工夫した方法として、

のように、赤で示したPMLと呼ばれる物質で求めたい部分を囲む方法がある。
このPMLという物質の特徴は、

  • 光が戻らず全て漏れる

  • PML内部では光は弱くなる

である。
このPMLで囲むことにより、漏れた光が求めたい部分に戻らず、弱めることができる
漏れた光を扱う場合、他の工夫もあるが、これは私自身がおもしろい方法だと思っている。
PMLの1番とも言える特徴は、実際には存在しないことである。
PECも実際には存在しないものだが、金属は光をほとんど反射するため、PECと金属は似ている。
これに対しPMLは、似ているものでも実際にあるのかは一切の関係がなく、計算で使うためだけに産み出されたものと言える。

まとめ

今回は、微分方程式を解くための数値解析の1つである、有限要素法について書いた。
有限要素法で知って欲しいことは、

  • ある区切られた部分を求める

  • 求めたい部分を分割する

  • 求めたい点の間を、ある線で近似する

  • 境界線の扱い方が重要

ということである。
特に境界線の扱いに関しては、求めたい部分から漏れた光を扱う場合は工夫が必要になることを知っていただきたい。
この扱いをどうするかが、研究対象にもなっている。

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