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萬御悩解決致〼 第三話⑤

 駅で待ってると、傘をさした三人がやってくる。仔猫は小ぶりの移動用ケージに入れられていて、圭介が持っている。気になるので、女子と挨拶した後、圭介に訊く。
「誰のケージだ?」
「ああ、僕の。うちのピットブルが子犬のとき使ってた」
「ふうん」
三人で電車に乗り込む。30分くらいだという。
奈央。翔子。圭介。俺の順で横に座る。ケージはいま翔子の膝の上にあって、奈央と翔子が代わる代わる小窓を覗いている。早速、圭介に気になることを訊いてみた。
「奈央たちが傷つくって、どういうことだ」
「もし知ってしまったら、ということだ。知らなければ何の問題もない」
「あ、そう。問題ないのか」
じゃ、なぜ俺はここにいる。話題を変えた。
「奈央、この件にいやに熱心だよな。最初、関心なさげだったのにな。図書室でも必死に探してたし」
「たぶん、この仔猫を飼いたいんだよ」
え。そうなのか。そんなこと言ってたか。
「だけど家の事情で飼えない。だから、最初に仔猫が持ち込まれたとき、あえて近づかなかった」
そういえば、そうだった。クラスのリーダー的存在の奈央なら、真っ先に行って、仕切ろうとしてもよかった。
「俺ん家みたいに、親が動物嫌いとか」
「奈央の家、何やってる?」
「レストラン」
夫婦で洋食屋をやっている。時々、うちの家族も行く。オムライスがうまい。
「気にしない客は気にしないが、食べ物屋にペットがいるのを非衛生的と思う客もいる」
「ああ、なるほど」
圭介、翔子越しに奈央を見る。奈央はケージの小窓に顔をくっつけるように近づけて笑っていた。

駅を降りると、雨はほとんど上がっていた。女子二人、その後ろに男子二人、並んで歩く。仔猫のケージを持つといったが、女子組は、自分たちで持ちたいと言った。別れがたいんだろう。
「子供だけで行って大丈夫か」
ちょっと心配になって訊いた。
「大丈夫だそうだ。大人が書く書類があれば、もらって後で郵送する。とりあえず今日の目的は、仔猫を預かってもらうことだ」
「そうか。ところで、その団体大丈夫か」
「大丈夫だ。気になってHPを開けてみた。猫の扱いも丁寧だし、衛生管理、健康管理もしっかりしている。里親になって猫をもらっても基本的には無料だ」
「金を取る団体もあるのか」
「譲渡金と称して、10万単位で要求する団体もある」
「10万! そんなに取るのか」
「この団体じゃない。そういう団体もあると言うことだ」
「猫を渡すだけだろ。何でそんなにいるんだ」
「感染症の確認とか、不妊手術とか、飼育期間中の餌代とか」
「にしても高すぎないか」
「要は、商売にしてると言うことだ。だが、本人たちは必要経費だと信じている。安心しろ。今日、行くところは、そういうところじゃない。じゃないが、違った意味で面倒かもしれない」
「どんな」
「里親になる条件が、とても厳しい。飼育条件を確かめに、家庭訪問までするらしい。それも譲渡して半年くらいまで。そこで日々の飼育状況にも、細かいチェックがはいるとのことだ」
「へえ。そんな細かかったら、なかなかマッチング成立しないんじゃねえの」
それについて、圭介は何も言わなかった。

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