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萬御悩解決致〼 第三話10

 梶さんが僕たちを責めるのは、お門違いです。本来、梶さんは、梶さん自身で答えを見つけるべきなんです。いや、もう答えはでてますね。

 ここには沢山の捨てられた命がある。この施設も当初は、保健所と同じく一定期間を過ぎた命を殺処分に送っていた。だが、長年勤めるうち、梶さん、あなたはこの矛盾に納得いかなくなる。

自分たちは殺すために生かすのか。

まさに矛盾だ。
この施設に、捨て猫や捨て犬の命を持ち込む者は、きっと一つの命を助けたというヒーロー気取りの高揚感に満足して帰っていく。
もしかして、次から次に犬猫をここに持ち込む輩もいたかもしれない。持ち込めば満足で、自分はさも世界の慈悲を存分に披露したマザーテレサのように気持ちになれる。
 しかし、梶さんは違う。梶さんは常に持ち込まれた犬猫の殺処分までも見据えて、引き受けなければならない。
梶さんは言いたかったに違いない。

あなたは飼えないのか。

 勿論、飼えないから持ち込まれる。それはわかっている。だけど、飼えない事情があれば、飼う責任を誰かに押し付けて、もしかして殺処分になるかもしれないのに、自分だけマザーテレサになってしまえる、それでいいのか。
 たぶん、あなたはウンザリだった。そうした偽善者に。彼らを糾弾したかった。お前も猫殺しだって。
そして、あなたは二つのことを決めた。
一つは、この施設で猫を殺処分へは送らないこと。もう一つは、それに拍手するマザーテレサ気取りの偽善者を徹底的に粉砕すること。
 それが、自分の使命だと、あなたは、そう考えるようになった。

 まぁ、そんなところでしょうか。ですがね、今まで、縷々述べてきたことは全て、梶さんの心の問題なんですよ。僕が言いたいのは、僕たちが救いたいのは、ミーの命。これが一丁目一番地。それ以外は、梶さんの気持ちなんて僕らにはどうでもいい。そんなの、梶さんが考えて自分で答えをだせばいいだけの話だ。
僕たちが今ここにいる理由は、"仔猫の命を救いたい"、ただそれだけ。僕たちは、あなたを救いに来たんじゃない。ミーを救いに来たんだ。
勘違いするな!」

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