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萬御悩解決致〼 第三話⑥

猫の家キャット・ハウス
看板には、そうあった。
外された「保護猫愛護センター」の古い看板が隅に置いてある。その傷み具合から、掛け替えられて、だいぶ時間が経ってるのがわかる。
 建物はプレハブ作りの倉庫然としている。インタフォンを押すと、50代くらいの温厚そうな男の人が出て来て、中に通された。入ってすぐに受付のカウンターがあって、そこで名刺を渡された。「キャット・ハウス代表 梶幸雄」とある。
「すいません。名刺なくて」
と、翔子が生徒手帳を出す。
梶さんは、身分証のところを見ながら、「お電話頂いた上田さんの娘さんですね。申し訳ないけど、名簿に名前、住所、電話番号を書いてもらえますか。それから、猫を保護した場所と時間も」
梶さんと翔子のやり取りの間、プレハブの内部を眺める。
「中、見ていいですか」
奈央が言って、どうぞ、と答えをもらう。
両方の壁沿いに全部で40個くらいケージがあって、殆どに猫が入っている。ケージの中は清潔で、よく手入れが行き届いている。猫も穏やかだ。寝てるか、毛繕いしている。手前の猫から順に見て行くと、だんだん毛並みや肉付きがよくなっているのがわかる。手前ほど、保護された期間が短いのだろう。プレハブの奥にスペースがあって、椅子が置いてある。貰いに来た人が、猫と触れ合う場所かもしれない。
「ちょっと、お話し聞かせてもらっていいかな」
梶さんが言って、みんながカウンター付近に集まる。

「猫を預かるにあたって、幾つか質問していいかな」
「はい」代表して翔子が答える。
「まず、この猫は確かに捨て猫かな」
「と言いますと?」
「いや、迷い猫ってこともあるのでね」
「迷い猫?」
「飼い主がいる猫。時々、拾って来て、後でトラブルになることもあるんだよ。捨て猫だって、ハッキリわかるとありがたいんだが」
それなら、と翔子がスマホを出す。
「最初に見つけたとき、写真撮ったんです」
写真には、段ボール箱に入った猫がいる。箱には乱雑な字で"もらってください"と書かれている。
「確かに。この写真、撮っていいかな」
「転送しましょうか」
「このまま直に写すことにするよ。お嬢さんのアドレスを私が知らない方がいい」
トラブル関係には、なかなか慎重な人のように見える。俺はちょっと所長さんに好感を持った。

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