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萬御悩解決致〼 第三話⑦

「さて、次の質問だけど、どうして学校に持っていったのかな」
登校中見つけたんだから、学校に持ってくしかないだろう。どうして、そんな当たり前のことを訊く?
「駅前だと、交番あるよね」
「交番だと、保健所に持っていかれちゃうから」
教室で、誰かが喋ったことをなぞっている。たぶん翔子は拾ったとき、そこまで考えてはいなかった。
「そうか。よく知ってるね」
「仔猫は殺されちゃうから」
「殺処分のことだね。でも、すぐには執行されないんだよ。一定期間、保護して、飼ってもいいって人が現れたら、譲渡する。大きくいえば、こことやってることは変わらない」
「でも、こちらでは殺さないんですよね」
「そう。そこが大きな違いだね。うちは殺さない。里親が現れるのを辛抱強く待つ」
「それでも、里親が現れなかったら?」
梶さんは、答えを溜めた。そして、翔子の質問には、直接答えなかった。
「お嬢さん、毎年どのくらいの犬や猫が保健所に持ち込まれると思うかな」
「え、あの、わかりません」
質問に質問で返されて、翔子は戸惑う。
「約5万8千匹。そして、譲渡される数は3万6千匹。残ったもののうち殺処分されたのは、1万4千匹。犬が3千、猫が1万1千。
 自己満足かもしれないが、ここに来た子だけは、せめて寿命を全うさせてやりたい。私はそう思って、世話してる。だからむやみに数も増やせない。
 ここは原則、猫の持ち込みはお断りしているんだよ。それでもいつの間にか増えてしまう。やむえない事情で飼えなくなった猫を持ち込まれたり、無言で勝手に置いていかれたりしてね」
「あの、じゃどうして今回は受けてくだすったんですか」
「話してみたかったんだよ。捨て猫を拾う人と」

「あの」奈央が訊く。
「なにかな」
「あの、ここも昔は、殺処分に送ってたんですよね、猫」
「そうだよ。
保護猫愛護センター。
これが以前の名前だ」
「ああ、看板が外してありますよね」
「"猫の家"になって、もう4年になる」
「きっかけは、あったんですか」
「どうしても、貰い手のない猫がいてね。多頭飼いで碌に世話もされずに大人になって、だから毛並みも性格も悪くて、人を極端に警戒して。結局、貰い手が現れなかった。三年たって、私たちには心を開いても、他の人とは無理でね。だから本来なら、保健所に回すしかないんだが、3年も世話すると、やっぱりね。それなら寿命までここで穏やかに暮らしてもらおうと。もう、一切他の猫も殺処分には送るまい、と」
「それで"猫の家"に名前をかえたんですね」
 やっぱりここでよかった。奈央は翔子と顔を見合わせて、安心の笑顔をみせた。

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