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萬御悩解決致〼 第二話21【最終回】

 日曜日の昼、奈央と二人でマックにいる。いつか奈央が、清水を探ってくれたら、マックを奢ると約束した。それを実行してくれたわけだ。
 だが、易々と奢られるわけにはいかない。いつか圭介が奈央に奢らせようとした時、俺は「自分の食うもんくらい自分で払うよな」とたしなめた。ここで奢られたら、俺の言動が一致しないことになる。男が廃る。だから、自分の分は自分で出すと言った。奈央は「あ、そう」と何のためらいも見せなかった。
 俺はせっかく二人で昼マックするんだから、奈央の横に座ろうと思っていた。だが奈央は異様にデカいバックを持ってきており、それが奈央の隣に鎮座していた。
 席は諦めよう。要は、午後をどうするかだ。午後はまるまるデートに使える。公園に行ってボートに乗るか。ユニクロで服を選ぶか。街中に行って食べ歩きするか。映画を観るか。動物園にいくか。おととい、昼マックに誘われた時から13ものデートプランを考え、大事に取っておいたお年玉も持ってきた。
 奈央に手持ちがなかったら奢ってもいい。女の子に奢らせるのはダメだが、俺が奢る分にはいいだろう。いや、奈央はそういう女ではない。男にたかって喜ぶような女では、断じてない。
「あ、時間だ。これから道場なの。じゃ、また明日」
「道場?」
「言ってなかったっけ。あたし、空手やってるの」
「あ、ああ。空手・・・。知ってる」
相良の件で、その腕前は、知っている。
「そうなの。今から稽古なんだ。あ、もしかして午後の予定もあった? ごめん。だって、悠、午後のこと何も言わないんだもん」
 確かに。何も言わなかった。というか、これはデートではないのか。奈央はただ約束を果たそうとしただけなのか。いや、約束なら、付き合うという約束はどうなった。
「行くね。また明日」
風のように奈央は去っていった。大荷物の中身はきっと道着なんだろう。
 俺はガラス越しに後ろ姿の奈央を見送った。しかし、やがて俺の視線は踊る人影に遮られてしまう。影は両手をあげ、体を左右に揺らしながら、バランスをとって大股で歩く。圭介だった。

"デューク更家のトルソーウォーク"

思わず呟いた。
たぶん圭介はYouTubeでも見てマスターしたのだろう。だが俺は違う。見ないでも歩ける。
そう、俺の家にもビデオはあったのだ。

        第二話 完

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