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【エピローグのようなプロローグS46】


 中学を卒業して、タツくんとカナコちゃんは大角建設に就職してきた。タツくんは半分正規でカナコちゃんはアルバイトだ。大角建設は、会社の規模を少しずつ大きくしている。
 まあ、見習いのタツくんもアルバイトみたいな給料ではあるけれど。18になって、重機の免許が取れるようになれば、正社員の約束である。
 タツくんもいろんな重機の免許を取りたいと言っている。眺めてて面白かったのだろう、この間は、フォークリフトの操作の仕方を熱心に訊いていた。見つけた社長に、えらくどやされていた。それだけ危険ということなのだ。
「タツ、お前、なに訊きよるんか!」
「へえ。フォークリフトのいごかしかたを」
「馬鹿タレ。いごかすんには免許がいるんじゃ。お前も、余計なこと教えんじゃねえぞ」
と社員さんも叱られる。
「資格がのうて事故ったら大事じゃ。敷地内でもいかんのじゃ。3年したら、リフトでも大型でも、なんでも取らしちゃる言うとるじゃろが。待たんかい」
「3年は長いですなあ」
と、タツくん。呑気な返事に笑ってしまう。
「3年は下積みじゃ。それまでは、よう見とって仕事の手順しっかり覚えることじゃ。荷運び、力仕事をおろそかにすなよ」
 目を細めて大角社長がタツの頭を軽く叩く。はい、すんませんでした、とタツくんが言う。実は社長はタツのことが大好きなのだ。
 カナコのアルバイトは、いわば何でも屋で、事務所の掃除、車の洗浄、道具の管理、ホワイトボードへの書き込み(内容は奥さんの指示)、昼飯の注文、電話の取次、などなど本当に雑用ではあるが、本人嬉々としてやっている。いろいろ社員さんに声かけられたり喜んだりしてもらえるのが楽しいらしい。
「カナちゃんは、骨惜しみせんと、よう働くの」
と声をかけると、
「そーじゃのー。べんきょーより楽しいわ。みんなにほめてもろうて、お金までいただけるんじゃもの」
とニコニコである。ホントに性格がいい。カナコは会社で揃えた社員用の作業ジャンパーが特に嬉しかったらしく、
「これはカッコええのー。大人になった気分じゃ」
とテンション高めであった。
 家を出た私に会社とアパートを紹介してくれたのは、健ちゃんのお父さんじゃった。アパートの入居の費用は健ちゃんに借りた。
「いつでもええけえ」と言ってくれたが、お金を返しても受け取らない。
 大角さんの方は、ちょうど奥さんが事務仕事を引退したいと思っていたそうだ。そのタイミングで私が入れた。今は仕事を教わり教わり、引き継いでいる。会社も好調のようで、将来は専門の事務職が必要なんだそうだ。それに私がなれればいい。
 5時まで仕事をして、5時半から9時半まで定時の商業高校。それから帰って、寝るまで勉強をする。タツくんではないが、私も早く簿記の資格が取りたい。だから、一生懸命、勉強する。自立する。それがちゃんとできたら、お父ちゃんにも連絡しようと思う。お母ちゃんとも仲直りができると思う。
 お父ちゃんは、工場をやめて、神社の修繕の仕事をしたり、花容橋の架け替えの工事に行ったりしているようだ。橋の方は、大角建設も絡んでいるので、現場で顔をあわすことはないけれど、ちゃんと仕事が回ってるようで安心できている。カナコちゃんのお父さんとも現場で会うこともあって、こちらの様子もわかっているらしい。
 最近は工事が多い。ちょっとずつ、景気がよくなっていると思う。そして、わたしの周りもちょっとずつ、良い方向に回っていっているのかも知れない。
 そうそう、もう一人のケンちゃん。山本研二くんは、意気揚々と出版社に漫画を持ち込んで、見事に返り討ちにあった。でも、彼は全くめげてない。美術系の高校で絵をしっかり学びつつ、新作で捲土重来のチャンスを窺っている。友達の幸子ちゃんは高校の理数科に行った。将来は電気の技術屋さんになりたいそうだ。売るんじゃなくて作る方とか言っていた。多少、山本くんの影響があるのかもしれない。 

 神木町の私たちのお話はこれでお終いである。それぞれが、勿論私を含めて、それぞれの生き方を考え、模索し、頑張っている。だから、みんなの人生は素敵なものとなるはずと信じている。
 私たちのお話はお終いでも、神木町は続いていく。十年後、二十年後、町はどうかわってゆくだろう。私たちのお話はお終いって書いたけど、ひとり残しておこうか。ヨッちゃん。彼の物語はまだ終わっていないから。

 小説「神木町」第一部完

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