無職転生について

(備忘録的雑記06)

当方、ランスシリーズ全くやってないんだけど、松下さんのこの読解よかったですね(さやわか・松下哲也「対談 新しいタイムラインを立ち上げる」、『クライテリア』4号)。

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これを見て、『無職転生』(アニメ化を受けて『転生したらスライムだった件』に「小説家になろう」サイト累計ランキング首位の座を取られるまで、5年6ヶ月間にわたって首位を維持していた作品)の特殊性と主題について見当が付いた。

『無職転生』というのは、ひきこもりニートが家族に不孝を尽くした挙句、異世界に転生する作品で、人生のやり直しに当たって今度こそはまっとうに生きようと決意し過去の自分を嘆く点で、なろうの他作品と異なる特徴を帯びているんだけど、主人公に何回か大きな不幸が起きる。これは、転生によるつごうのよさと釣り合いを取るための調整だが、なろう作品でそういう不幸調整へのこだわりはあまり無い。

二人目の妻を得た中盤、妻を二人とも亡くしてしまった老いた主人公と対面する場面があって、この場面を挟んで大きく話が変化する。この老いた主人公の語りと絶望が作品終盤をある意味上回る切迫を抱えているんだけど、このような捻りは「隠し真エンド」と言えるモチーフだったからなんだろう。転生でのやり直しいを帳消しにするぐらいのバッドエンドを置くという、「ポルノ要素が導く因果応報」。

無職転生というのは、なろう作品には珍しい内省性があり、主人公が自罰的になったり、自罰性が転じて偏狭になってしまうときに光る場面が目立つのだが、エロゲ要素が導く内省が、通常のなろう作品が線的進行の単調さを誇示するのとは別のスペースを広げてしまっている。ほとんどのなろう作品は、むしろ内省が無く、あくまで多幸的に突き進むがゆえに、奇形的に突出するので、陰影の作り方において特異性が備わっている。

なろう作品って、「全部ゲームシステムやステータス、スキルなどになってしまう」メインストリームにおいては、内省性なんか全くなく、そのゲームアバターとして内面も身体も全部変容した状態で進行する異様さこそがむしろ目立つので、そこからみると無職転生って例外的な作品なんだよね。

エロゲ参照の厄介さって、「ポルノがロマンスに転じる」&「ロマンスがポルノに転じる」のが桎梏になっているところにあって、エロゲはそれを逆手に取ったとも言えるけど、エロゲのインスパイアを入れる他ジャンル(漫画・アニメ・ラノベ)はその分識別困難さのハンドリングに苦労をしたところがある。神のみぞ知るセカイの場合、サンデーラブコミというロマンス様式に落とし込んだわけだ。

エロゲをドラマ構築で参照した無職転生の一方、転スラはむしろ少年誌ジャンルに意識的に寄せた点で特徴的なため、転スラが表に出てくると無職転生はエロゲ参照ゆえにモードが古く見えてしまう(オーバーロードのエロゲ要素がもはやレガシーに見えるように)。ただ、転スラはポルノもロマンスも捨てているがゆえに全年齢化しやすかった。というのは、なろうでロマンスをやったら00年代後半以後のソフトポルノっぽくなってしまって、全年齢的にならないわけだ。これは、オバロ→転スラ→蜘蛛へと至る「アロマンティック、アセクシュアルな主人公」の系譜だな。

エロゲ参照からJRPGっぽい枠を参照、にすることで「身軽」になってるのが、なろう以降だと思われる。なので、「セカイ系という課題」から切れているものが多い。

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