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ここが地獄でも天国


何かを思い出しては、忘れる。
その繰り返しなのだ。波が寄せては引くように思い出すけど、海の中が思い出せない。
きっと深いから怖くて潜れない。暗いから引き摺り込まれたくない。息が出来ない苦しい思いはしたくない。

わたしを思い出にしないでほしいというのはかなりの我儘だ。忘れるなんて以ての外、死んだも同然だからやめてほしい。忘れてほしくないから、あの一節のように別れる男に花の名前でも教えておく?毎年咲くたびに思い出すだろうけど花はすぐ枯れてしまうから嫌だ。どうせならずっと残る呪いがいい。一生面影を追い続けてろよ。
その反面一緒にいるあいだは重荷になりたくない、そう思いながらも願うものは重たい。 重たい女だよ、本当に。

そのくせ自信がなくて嫌いなものは直ぐに突っぱねて、距離を置くための理由は付けられても、そばに置いておきたいけど理由のない好きは沢山あって、何かしら理由をつけて自信を持とうとしている。
ただなんとなく好き、それでいいのに。漠然と感じるものを愛だと呼べるなら。それでいいのに信じることが出来なくて相変わらず額縁に入れてキャプションを付けようとしている。わたしだけのモナリザなんていないのに。
 
親指でなぞることしかできない。
爪が短く切りそろえられた指を。眠っている頬や眉頭を。iPhoneに表示された名前を。
忘れないようにワンカットで覚えておきたいのにワンシーンでしか覚えられない。容量が足りないの?


いつもそう、忘れたくないことが増えていく。
いつか思い出して泣くかもしれないのに。
思い出す昔のわたしはいつも楽しそうだね。


カチャンと玄関のドアの鍵閉まる音が耳に残ってる。静かに離れようと思ったら段差を降りたスニーカーが砂利を噛んだ。その音を合図にひと呼吸開けて小さな音を立てて鍵が閉まった。やっぱりあなたは優しいね。全部がやさしくて、ずるい。その優しさが、下心とかそういうのを混ぜ込んだものではなくあなたが培ってきた優しさだから。そう思いたい。裏がないことを信じてる。いや、信じようとしている。疑い始めたらキリがない。相変わらず何かちょっとしたものに紐付けて手繰り寄せては不安を絡めて悩まされる。でも行動で返してくれる。分け合ってくれる。それを信じる。直感ではなく違和感を信じろ。今のところ感じる違和感は多分ないけど、それに慣れてもいけない。恋愛って億劫で面倒だ。そしてすこしだけ窮屈かも。賢くいなくちゃ。

側から見れば、じゃあ正面からはどう見えてる?
どう見えてもいい、2人が分かる関係でいい。
曖昧な関係で突然終わりが来ても良いように、何かにつけてありがとうと感謝を伝えている。
忘れないでほしい、あなたの行動や言動ひとつで、わたしが喜んだり笑ったりしたことを。
わたしの行動や言動も何かが前提なのを忘れないで。何が理由なのかを考えて。


白黒はっきりさせたいわたしがグレーゾーンを愛していることに驚いている。
ああ、いつか終わりが来るかもしれない、忘れられるかもしれない、今日が最後かもなんてそんなことを思っている時にある曲がリリースされた。

心の損得を考える余裕のある 自分が嫌になります
好き過ぎてどうにかなる
人生狂わすタイプ ここが地獄でも天国 バカになるほど 君に夢中






実際はDOPING PANDAのHi-Fiを聴いて踊るくらいには浮かれてると思う。
新しい恋のようなものを始めたけど、最近ありがとうと同じくらいに気遣ってごめんねを言ってる気がする。多分それは、わざわざ時間を割いてくれてありがとうとか自分を相手より下にしてると思うから本当に悪いこと以外で謝るのをやめよう。主導権はわたし。終わらせるのもわたし。
我儘言っても叶えてくれるんだからありがとう、嬉しいでいいじゃん。ちゃんと連絡も返してくれる。もう少し目に見えて浮かれても良いと思うよ。大丈夫、臆することなく目の前の人を見つめてね。今は少し夢を見て信じてみて。今を楽しんでも良いんじゃないかな。先読みのし過ぎなんて意味の無いことは止めて今日はおいしい物を食べようよ、未来はずっと先だよ。答えのない関係だから。


嘘じゃないことなど 一つでも有ればそれで充分
知れば知るほど遠のく 真実を追いかける最中に 私が私を欺く

目に見えない運命や誓いの小指なんてない。
あるのは確実な約束をとりつけるためのiPhoneをフリックして、あなたの頬をなぞる親指。

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