見出し画像

シン・寄生獣(?)

その存在は、広く人々に知られていた。
しかし、人々はそれを特別に意識することはなく、日々の暮らしの中で目立つこともなかった。

…その時までは。

各地で、あるウィルスによる疾患が流行り始めた。多くの人が罹患した国もあり、人々は未知の恐怖にかられ、藁をもつかむ思いで救いを求めた。

その隙を突くかのように、その存在は大々的に増殖し、人類に寄生し始めた。映画『エイリアン』のフェイスハガーのように、人々の顔の半分以上を隠すように寄生する姿は、名作『寄生獣』のパラサイトとは違ってあまりにも明示的であった。薄い本体と、寄生に使うループ状の触手を持つその存在は、様々な亜種を生みながら、一気に世界を席巻した。

それは人々の呼吸を阻害し、整然とした思考を妨げ、運動を著しく制限した。だが、この寄生体の真の恐怖はそこではなかった。それは人々の精神を蝕み始めたのだ。従順な人々から順に寄生されていった。寄生体は人々の精神を支配し、それを拒む少数の人々を敵視するようになった。巧みな生存戦略だった。

少なからぬ人々が記憶を改竄され、それが昔から世界中に存在していたという偽りの記憶を植え付けられた。精神の支配が深刻に進んだ人の一部は、良識も常識も、法すらも逸脱し、寄生を拒む者を迫害するに及んだ。変容を遂げた精神にとっては、それだけが唯一の「道徳」であり「正義」となった。

その寄生体は繁殖力を持たず、ひとたび人間から離れれば活動を停止する。しかし、その死骸あるいは残骸はあらゆる土地、河川、そして海まで汚染するに至った。膨大な数だった。

だが、その栄華も長くは続かなかった。人類の抵抗が始まった。パニックから覚めた人々から順に寄生体の精神支配を封じ、それを引き剝がした。ひとたび抵抗が始まると、それ自体は脆弱な存在である寄生体は一気に殲滅されていった。

いくつかの国を除いて。

極東のある国の人々の精神は、その寄生体にあまりにも適していた。他の国に比べ、精神支配から逃れるのも大きく遅れた。そして、社会の機能を担う重要な場所の多くで、深い爪痕を残した。一部の人々の精神は完全に寄生体の支配下に置かれた。彼ら彼女らは、もはや多数派となった、寄生体を拒否した人々をずっと攻撃し続けていくのだろう。

その寄生体は、この国でだけは適者生存だったのだろうか。

(2023年9月6日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?