倉 つづり

エッセイと妄想

倉 つづり

エッセイと妄想

最近の記事

誕生日

私はずっと彼が好きだ。 その想いはずっしりと重たくて、今も引きずってしまう程で。 何より。 同じ時代を生きられた特別をもっともっと噛み締めていたいのだけれど、後ろ姿も見えないのは切ない。こんなに好きな人なんて、もう一生現れないね。現れて欲しくもない。 大好きな作家の新作が頭に入ってこないのも、洗濯物が乾かないのも、排水溝が早いペースで詰まるのも、外がなかなか暖かくならないのも、毎日眠たいのも全部、今月から越してきた上の人の生活音が五月蠅いせいだよね。 他に何か理由があ

    • 決意表明

      昔からよく変わり者だと言われてきた。 変人とか、変態とか。 平凡より変人や変態に憧れていたし、願ったり叶ったりであるのだけど、心のどこかで後ろめたさみたいなものを感じていた。それは演じていたに過ぎない。まるで誰かの小説みたいに。 田舎の中学から少し大きな街の高校に進学し、本物の変人に出会った。こうはなりたくないしなれないと。 変人にもいろいろあって、それは天才だっりただの気持ち悪い人だったりする。 誰にも持っていないようなものを持つ天才に私はなりたかった。誰も思いつか

      • 囚われる

        感化されやすく、囚われ過ぎてしまい、執着する性格である。 これは憧れゆえの願望なのか、好きを拗らせた執着なのか。執着自体が悪いことではないと思うけど、あまりに囚われていては何かを見失いそう。何かってのはよく分からないけど。 あの人への憧れがなかったら、わたしは今行きたい場所も貯金をする理由もなかったんだろうか。それとも別の誰かに憧れて似たようなことをしていたんだろうか。でもこれまでのわたしのやってきたことがあまりに他人軸で、その人たちがいなくなったらどうするんだろうと不安

        • 風邪

          約4年ぶりに風邪をひいた。 学生の頃は年に数回風邪をひいて寝込んでいたのに、オリンピック並みの頻度になったことに感動した。 「あなたの風邪はどこから?」「わたしは熱から」タイプで、まず馬鹿みたいな高熱スタートのわたしだったのに、今回は喉の痛みとゲボが出そうな咳。流行りのウイルスでもなかったため、逆に仕事休みにくいじゃん…休むとしても有給削らなだめなの…とそれはそれでしんどい。 喉が痛いことで普段は喉が痛くないことがわかる。身体のだるさも普段のものと違っていて、これは風邪

          恵比寿

          初めて訪れた時、そのまちは夏で、しっとりした風がある夜だった。 アイスコーヒーは、底にペーパーナプキンが張り付き、まだ1口分しか減っていないのにたくさん汗をかいていた。 2階のカウンターから街を見下ろす。 本当ならもっと綺麗に映るはずだった世界は、外装工事の足場やネットに遮られ、膜を隔てていた。 素晴らしいに違いないと期待すれば裏切られたような気持ちになり、大したことないと低く見積もるのは自分の本心に嘘をついていることが解り、素直に喜べなくなる。 どうせ予測してしまう

          眠り

          寝るのが苦手になったのはいつからだろう。 やっと眠りの糸を掴んだと思ったらもう朝日が差してくる夏。夏の方が眠りが浅くなるのは、動物的なものかしら。 物心ついた頃から、多分もう小学校高学年の頃から、寝つきが悪い。秒針の規則的な音が強迫的に感じ、眠らなければ、もう0時を回っただろうか、どうして父や母や弟がそんなに眠れているのか。私だけが取り残されていて、違う時間軸に飛ばされてしまっていて、家族はみんな眠らされているような。周りがよく眠っていることにも不安や焦りを感じ、そうこう

          願い

          行動ではどうにもならない事がある。 好意を自分に向かせたり、連絡が取れなくなった人と再び会うことだったり、不治の病を治すことだったり。 そういう時は願うしかない、祈るしかない。 どうか、どうか。 でもやっぱり。頭の隅では分かってるんだよね、ダメだって。 でもやっぱり、祈らずにはいられないことも。 無駄でも、叶わなくても、実らなくても。 神様どうか一刻も早く首の寝違えを早く治してください。

          イントネーション

          私はよくイントネーションがおかしいと言われる。 「しめじ」と言えば友人に「それ猪木の発音だよ」と指摘され、「乞食」と言えば父から「それは古事記の言い方だ」と言われる。 私の生まれた地域は少し浜言葉寄りの訛りがあるとは思う。 両親も少し訛りがある。なぜか弟だけは全く標準語だけど。 上京した時に通じなかった方言があったり、訛りを指摘されるのは恥ずかしいけど納得できた。 でも同郷の人や両親にイントネーションを指摘されるのは恥ずかしいと言うよりもショックが大きい。 みんなど

          イントネーション

          えんぴつ

          えんぴつを持つと、 その軽さに驚く。 子どもの頃なんてのは、 このちっぽけな軽さを全力で握りしめ まさに“手に汗握って” 日々格闘していたわけだ。 おとな、と呼ばれるようになった今 気づいたことがある。 えんぴつの性質の正しさ。 いちいち削らなくてはならないし 芯は力を入れ過ぎたら簡単に折れるし 使っていればいつかなくなってしまう。 握りしめているものは意外と軽くて 時がくればなくなる儚さを孕んでいる。 えんぴつを改めて好きになった。

          2月

          気が遠くなるほど寒い。 帰っても家に灯りがついているわけではないし、 帰ってもすぐに暖まれるわけではない。 それでも朝が来るのが少し早くなったのも 夜が来るのが遅くなったのも解る。 ところで私は2月生まれです。 寒いと言っておきながら、 他人より寒さには強めな方だと思っている。 真冬生まれの故かはわからないけど。 冬生まれあるあるがあればぜひ教えてください。

          無題

          自分の足りなさを人のせいにするなよ 賢い方だ、だなんて思い上がるなよ 馬鹿にする対象ばかり見つけて 吐く唾を用意している場合か。 悔しい悔しい悔しい なんて小さい、 なんて世界を知らなすぎる 捻くれても、腐るなよ。

          ろうそくの火

          「ろうそくの火を消すように、ふっと消えてしまいたい時がある」 彼女は言う。 「煙の匂いだって、すぐにわからなくなるでしょう?」 「そのくらい簡単で後腐れないのがいいわ」 虚ろな目、乾いた唇、なのに少し笑っている。 ろうそくの火を消すにもエネルギーが要る。 少し強く息を吐き出す、それだけなのに。 でも覚えていてください。 風に揺れたり、息を吹きかける誰かがいるかもしれないけれど、 その火は自分から消えることはないんです。 蝋が溶けて無くなるその時まで、自分からは

          ろうそくの火

          夜な夜な

          私が20歳ころの話。 大好きだった芸人さんがいた。 もともと好きな芸人さんの後輩のやってるコンビの相方で、 ほんとに突然夢に出てきて、気づいたら恋愛的に好きになっていた。 ガチ恋勢というやつ。 突然夢に出てきて好きになったなんて、今思えばうらやましい限りである。 叶うことがなくても恋をするのは楽しい。女子だもんね 失礼ながらマイナーめな方だったので、ファンとして会いに行ったり写真を撮ってもらったり握手をしてもらったりは簡単だった。 でも、だからなかなか熱が冷めなくて

          仕事

          ずっと代わりがきかない仕事がしたいと思っていた。 だけど本当に「代わりのきかない仕事」なんてのは、 ほんのほんのひとつまみだと気づいた。 例えばアーティストとか才能を生業にしているような人たち。 でもそれは、私達大多数に価値がないということではなくて 世の中はそうじゃないと回らないし、これまでもそうやってここまできたのだろう。 ほとんどの仕事は、偉大と呼ばれるひとが死んでも、誰かが引き継いでいく。これまでの状態を継続させようとするか、さらにより良いものにできるように。或い

          26歳

          26歳のわたしは、あの頃と違う。 狭い勉強部屋じゃなく、ひとり暮らしをしている部屋がある。 夜中にコンビニに行く気軽さもあるし、 門限はないし、朝まで呑み明かすこともできる。 ひとりで飛行機に乗って遠くに住む友達に会いに行けるし、 恋人と夜を過ごしたりもする。 でも もうセーラー服を着て学校に行くことはないし、 好きな先生を寒い廊下で待ち伏せすることもない。 彼の部活が終わるのを教室で待って、一緒に帰ることもないし 友達と放課後にプリクラを撮りにいくこともない。

          ポスト

          探すと見つからない。 見つけると、ここに居ましたかと安心する。 真っ赤なそれはたいてい少し汚れていて、雨風や時には雪にさらされていることを物語る。 ポストに郵便物を入れるときにどきどきするのは、 これまでに投函してきたそれらにいろんな思いが纏わりついていたからだと思う。 遠くに住む祖母への手紙だったり、ファンレターだったり、履歴書だったり。あと携帯電話の下取りとか。 長い歴史の中でも様々な人達がそれぞれの思いで投函するそれを 「カトン」とか「スン」とか喉を鳴らして受け