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医療に役立つ抗体をデザインする。

今回は生命工学科の浅野竜太郎先生にインタビューしました。ぜひご覧ください!

<プロフィール>
お名前:浅野竜太郎(あさの りゅうたろう)先生
所属学科:生命工学科
研究室:池袋・津川・浅野研究室
趣味:旅行、釣り、スポーツ観戦、映画鑑賞

抗体とは何か


―抗体について簡単に教えていただけますか?

まず免疫についてなのですが、免疫とは自分以外のものを全部排除する仕組みのことです。何か変なものが体の中に入ってくると排除されるということです。

逆に自分にもともとあったものは受け入れるんですが、この免疫という現象において大きな役割を担っているのが抗体分子です。抗体分子が入ってきたものを排除しようとするのです。

―ここの研究室はPIの先生が3人もいらっしゃるんですね。

ここの研究室の面白いところは主たる研究対象である生体高分子(注1)がそれぞれ違うんです。具体的には核酸と酵素と抗体です。これらは、他の分子を認識して見分ける能力を持っているのですが、そのような生体高分子はこの基本的にはこれら3つ以外にはないんです。その3つを組み合わせたりしながら、治療やセンシング(注2)ができないかということを研究しています。

研究室の特徴を説明したスライド

2つの研究室を行き来した大学生時代


大学生の頃は、工学部でがん治療抗体に関する研究をしていました。医学部の先生とのコラボで、細々と行われていた研究でした。

―どんなふうにコラボしていたのでしょうか?

工学部には、がん細胞を扱うための設備(注3)はなかったのです。なので、工学部ががん治療抗体の開発を行い、最終的な評価は医学部の研究室の方が行っていました。つまり、一生懸命がん治療抗体の開発を進めてやっと出来上がったものを、最終的に評価するのは医学部の方だったので、ある意味一番いいところを自分でできないわけです。

―最後だけ自分でできなかったんですね。

そうです。このがん治療抗体の研究をしているのが、修士2年生の先輩と僕の2人だけだったんです。この先輩がすごく歯痒い思いをしていたんです。

いつも結果はダメだったと伝えられるばかりで、一生懸命やって完成させたものがどう評価されているか知りたい、とのことでした。

そんな状況から、ある日、先輩が僕に言ってきたんです。「自分はあと少しで卒業だけど、君ならこの状況を変えられる時間がある。だから変えなきゃいけない。自分で最後まで評価できるようになれ」って。

―かっこいいですね!

何を言ってるんだろう、この先輩はって(笑)。

…というのは冗談ですけど、たまたま先輩とそんな話をしているところに通りかかった中ボス(注4)も話を聞いて賛成してくれました。最後の評価まで自分でやりたいですと、大ボス(注5)に直訴してきたらいいと言われました。そこで、次の日の朝、さっそく教授室に行って話をしました。

―行動が早いですね…!

大ボスも最初は驚いたけれど、でも君がやりたいと言うなら医学部側のボスに話を通すからと言ってくれて。大ボスと一緒に車でまず、手土産のお菓子を買って、向こうの研究室にいきました。「細胞を用いた最後の評価までやりたいからご指導ください」と、一緒にお願いをしました。そのような経緯で、がん細胞を用いた評価法まで学ぶことになりました。

―より医学的な研究の知識や技術を身につけることになったんですね。

間違いを認めて、変わる勇気


―そのような研究をしているなかで、大変なことはありましたか?

ターニングポイントとなったことがいくつかありますね。例えば、間違いに気づいたときに、それを認めて自分のやり方を変えないといけないことがありました。

―間違いを認めて変える、ですか。

はい、具体的には、タンパク質を安定化させるある試薬があって、これを調製時に用いることをやめるということがありました。

この試薬を用いると確かにタンパク質の調製がうまくいくんです。でも、だんだん実験をしていて違和感を覚えるようになりました。いつもデータが綺麗すぎると思ったんです。

―綺麗すぎる?

この試薬の濃度に綺麗に比例してがん細胞が死ぬんです。比例しているということは、がん細胞に影響を与えている可能性があります。
もしこのタンパク質を安定化させる試薬が、がん細胞に直接影響を与えていたら、本来調べたいタンパク質のがん細胞への効果が分かりませんよね。もちろん、事前にがん細胞への影響は調べられていて、問題がないことになっていたんです。

でも、どうしてもおかしいと思って自分で調べ直したら、この試薬だけでがん細胞を殺していたんです。

―ええ!

だからこの試薬を使っていた半年から1年位のデータを全部捨てて、ボス達にもちゃんとそのことを伝えました。

―半年から1年分の実験が水の泡ということですか?

そうですね。そしてこの試薬を使わなくなったことで、全然実験がうまく行かなくなってしまったんです。結果が出ないことで、今までやっていた調製の方法をやめたらどうかとか、抗体の種類を変えなさいとか、いろいろ指導されました。

―辛い……。

でもそこで思いきって、抗体の種類を変えて、調製の方法も切り替えてみたり、いろんなことを変えて試してみたんです。そして、抗体を変えたときに、思いがけずすごくいい結果がでたんですよね。

そういう研究の苦悩と試行錯誤の中で、抗体を変えたときにパッと光が見えたことが今に繋がっています。

何かに一生懸命取り組んでいて、でもなかなか上手くいかない。そんな大変な時期をどう過ごすか? ピンときた方は、浅野先生のこちらの記事もぜひ合わせてご覧ください

おまけ〜研究室を彩るグッズたち〜

研究室オリジナルパーカー
左は2018年度、右は2021年度のデザイン
川柳 in the ラボ(注6) で特別賞に選出されたときの賞品

おまけ2〜研究者あるある川柳〜
上の写真の川柳 in the ラボで当選された作品をご紹介します!

2015 特別賞を受賞した先生の作品
「どうしても ギブ子*じゃないと ダメなのか?」
        
*gibcoとは、試薬・キットのブランドのこと。値段は張るが、重宝されることが多い。
とてもお金がかかるので、もっと安いもので代用できないかと考える。しかし、やっぱり往々にして代え難い…
そんなgibcoをギブ子と呼び、心の葛藤を愉快に表現している。

教え子達の川柳当選作品(多数あるうちの一部)
「菌体に 勤怠管理 される日々」 by いしんめとりー(2022年 優秀賞)

「かわいいね 細胞になら 言えるのに」 by cell family(2022年 冊子掲載)

研究に没頭する日々の充実感や、少しの悲哀(?)が垣間見えますね。

注釈

(注1)生体高分子とは、人間の体など生体を構成している高分子のこと。
(注2)医療におけるセンシングとは、センサー技術を用いて患者の健康状態をチェックすること。診断や予防医療に用いられる。
(注3)がん細胞を扱うための設備には、細胞培養器や抗体の細胞への結合を評価の機器などがある。
(注4)中ボスとは、研究室においては研究室を主催している先生に次ぐ先生のこと。
(注5)大ボスは研究室を主催している先生のこと。
(注6)研究者あるある川柳を募集するコンテスト。


文章・インタビュアー:地域生態システム学科4年 
ノコノコ
インタビュー日時:2020年11月19日
記事再編集日時:2024年3月16日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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