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分野を超えた繋がり~研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ~

今回は、生物生産学科の大津先生にインタビューしました。学生時代の進路選択や、子育てと研究の両立についても伺いました。

〈プロフィール〉
お名前:大津直子先生
所属学科:農学部生物生産学科
研究室:植物栄養学研究室
趣味: 音楽(鑑賞・演奏)

植物の硫黄代謝の研究で世界レベルに


―先生の研究について教えてください。
 
ざっくり言うと、植物の代謝の研究と微生物の研究をしています。
 
植物の代謝については、大学時代から硫黄の代謝回路を解明する研究を続けています。
 
植物は硫黄を吸収すると、硫黄を含むグルタチオンという物質を生成します。グルタチオンの状態で硫黄を貯蔵して、硫黄が必要な時にグルタチオンから硫黄を取り出して利用しているようです。
 
このグルタチオンから硫黄を取り出すときに必要となる酵素の正体は、今まで分かっていませんでした。しかし、私たちの研究グループで、グルタチオンから硫黄を取り出す遺伝子の解明に成功しました。経路を同定して、それが環境によってどう変わるかも解明し、世界的にも認められる成果を出すことができて嬉しかったです。
 
また、この研究をきっかけにして、世界の研究者と話ができるようになったことも楽しかったです。学生時代に名前を聞いたことがあった研究者と、肩を並べて世界レベルのお話ができるようになりました。

 微生物の研究については、根粒菌やリン溶解菌など、植物の養分吸収を助けたり、生育を促進したりする微生物について研究しています。例えば、ドイツの土壌にいた根粒菌からは、ドイツの冷涼で乾燥した環境で高い窒素固定能力を維持する株を見つけました。微生物も、生育している環境に適応しているところが興味深いです。

「根源的な仕組みを知りたい」という気持ちをたどって、研究者に


―なぜ植物栄養学を専門に選んだのですか?
 
高校の時は物理が好きで、世の中のおおもとの仕組みが分かるので面白いなと思っていました。でも、大学に入ったら物理の計算量が増え、数学のようだと感じてしまいました。一方で、生物は生命活動の仕組みを分子レベルで解明していく学問になってきたので、面白いなと思いました。
 
生物の中で農業系を選んだ理由についてですが、昔から木々の緑に囲まれているのが好きだ、という感覚を持っていました。また、親から食事の大切さを教わっており、食べることは健康な生活の基本だという思いがありました。
 
農業系の中で、最もミクロレベルで生き物の仕組みやメカニズムを扱う分野が農芸化学でした。特に植物の光合成や養分吸収機構など、動けない植物がその場で生長するための巧妙な仕組みに興味を持ちました
 
最終的に、いくつか研究室見学に行ったところ、植物栄養学の研究室で採れたてのお芋をもらいまして、牧歌的な雰囲気に惹かれて研究室を決めました。
 
ただ、研究者という職業を選ぶことについては自信が持てず、ずっと悩んでいました。民間で研究職に就くことも考えましたが、理論を応用して何かを作ることよりは、根源的な問いをたてて細かい研究を突き詰めていくこと自体が好きだなと感じていました。最終的に、博士論文を書き上げた時点で「ここまでやり切ったから、この先もなんとかできるかな」と思えました。その時にやっと、研究者としてやってゆく自信がつきました。

 ―先生から見た植物栄養学の面白さを教えてください。 

植物栄養学は、ミクロからマクロまで扱っていることが面白いと感じます。植物自身の遺伝子、細胞、代謝産物も扱いますので最先端の分子生物学もできますし、植物だけでなく土壌微生物も扱います。そのため、土壌の分野ともつながりがあります。 また、栄養分は土と植物にとどまらず、水や大気も含めて循環しているので、地球環境とも大きく関わっていきます。 若い頃は植物だけに目を向けていましたが、経験を積んで様々な分野への広がりが見えるようになり、ますます面白いなと感じています。

研究は人のためにあり、人が行うのが研究だ。


―研究者としてのこだわり、大切にしている点を教えてください。
 
私がポスドク(注1)時代にお世話になった先生がおっしゃっていた言葉が、印象に残っています。
 
バリバリと忙しく、最先端の研究をなさっている先生でした。ある時、「学生への指導に時間が取られてしまうという風に感じることはないのですか?」とお聞きしたら、「研究は人のために行うものであり、研究を行うのも人なのだから、人を一番大事にしないといけないよ」と。
 
その言葉がきっかけで、人を大切にすることが基本だと思うようになりました。周りの人や、学生さんを大事にしなくてはならないのです。私自身も、周りの人にたくさん助けられています。

―研究をしていて大変だなと感じることはありますか?
 
これはどんな仕事でもそうだと思いますが、子育てとの両立です。研究と子育ての両方を経験できて楽しかったですが、やはり大変でした。
特に大変だったのは、自分の思うようにスケジュール通りに仕事を進められないことです。子どもが熱を出してしまったらどうするかなど、いつ何があってもいいように2週間先まで見越して調整を頑張りました。ただ、研究者は自分で自分の時間をやりくりできるという点で、比較的両立しやすいと思います。
 
どうしても子育ての時期は仕事の効率が下がってしまいます。今までの1/3くらいしか仕事が進まないと感じる時期もありました。そんな中で、「よし、子どもが泣き止んだ!今だ」と、効率よく短時間で仕事を終わらせていく技を磨くことができたように思います。その経験は今も生かされていて、仕事は早い方かなと思っています。
 
子育ては一時で終わりますが、仕事は一生続きます。また元のペースに戻れる時が来るので、ゆっくりでもいいから、いろいろな支援を受けながら、継続することが大切だと思います。

―研究をしていて楽しいと感じるポイントはありますか?
 
実は論文を書くのがとても好きで、自己表現の手段のように感じています。
 
論文は、自分が取り組んだ研究内容を世界に公表する手段です。行ったことを詳細に記入するだけではなく、何が新しくて、そこからどのようなことが考えられるのか、ストーリーとして書いてゆき、さらに研究内容について「すごいでしょ」とアピールまでしてしまう。
 
研究者として論文を書くことで、結果を受けてどうやって考察し、表現していくかを考えるプロセスが面白いと感じています。
 
あとは、様々な分野の方と共同研究する機会があることも楽しいです。自分とは異なる分野の方とお話しすると、新たな学びや気づきが得られて、自分の世界が広がります。

注釈

(注1)ポスドク(ポストドクター、博士研究員):大学院博士後期課程(ドクターコース)の修了後に、大学や研究機関で任期付きの職に就いている研究員のこと。


文章:わらび
インタビュー日時: 2022年 3月 31日
インタビュアー:わらび
記事再編集日時:2024年 1月 11日
 
※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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