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『裏世界ピクニック5 八尺様リバイバル』感想など

一口に言って最高。。読んでない人はぜひ読んでください。おすすめです。以上。

裏世界ピクニックは1巻から読んでいるけど、もうこの世界観、たまらない。

ほどよく不気味で怖くない

好きなポイントは、都市伝説系(作中では「ネットロア」としている。権利的な問題なのかな)で、あんまり怖くないのだ。ほどよく不気味で、後味もさっぱりしていて読みやすい。なので怪談が苦手なひと(自分のように『新耳袋』が怖すぎて脱落した人)でも安心して読める。
全体の構成は都市伝説ごとの短編集になっていて、主人公たちがその都度危機を乗り越えていくという物。
でも裏では冴月という黒幕がいて、それが本書を束ねる一本の紐になっている。

『裏世界』という発明

あとは、SF的な科学考証不要な「裏世界」の発明はすごいと思う。ミノフスキー粒子並みの発明だ。
異次元とか、多元宇宙論とか、マイナス宇宙とか、そういった言葉はほとんど出てこない。
主人公は文系の大学生で、そもそも原理に興味がない。彼女は、超常現象を抽象的に捉えるから、読んでいるうちにどんどんサイケデリックな世界に引き込まれてしまう。

作中での色使い

5巻では色使いがすごく良かった。自分はあまり視覚的な「色」には感性を刺激されないけど、文章で読む「色」は視覚的な情報の数倍刺激的だった。
青色の瞳とか、沈まない夕日に照らされたオレンジ色の昭和な外観の下町や、銀色にきらめく裏世界の異物など。
読み終わった後も頭の隅にこびりついて離れない。
ウルトラマンティガとかウルトラマンマックスにそんな話ありそう、と思わせる実相寺 昭雄的な、不思議で孤独な世界。
また、映画では「赤は危険信号」という常識がある。カットシーンの中で赤いランプに照らされた人物や建物が映ったときは、その先に危険が待ち受けていることを暗に観客に知らせているからだ。

しかしそれは表世界の常識。ここで描かれるのは裏世界なので、青い色が危険信号となっている。こういった裏返しの設定も面白い。

ミラーワールドに迷い込む主人公

今回特に好きな話は、中間世界に入り込んでしまう「ファイル16 斜め鏡に過去を視る」という話。

シンプルにいうと、仮面ライダー龍騎のミラーワールドに入ってしまう。現実世界からは光を反射する物体からしか空魚を観測できない。
そんな中で空魚が鏡で見ていくのは鳥子の過去の視界。
明らかに空魚に対して好意を向ける鳥子の心情を知りながらも、答えを出さずに濁し続ける空魚。空魚の中で二人の関係があいまいになっていく。今では鳥子の考えていることが分からなくなってしまった。
そんな空魚が、鳥子視点で過去を振り返って今の関係を改めて考え直す、という話。
一つの出来事に対して、二つの自体が進行していて、それがよくまとまっているのは傑作の条件でございますよ。
ひとつは鳥子と空魚のヒューマンドラマ、もう一つは自分にそっくりだけど手が鎌になっている化け物から逃げ続けるというスリラー。
裏と表の中間、恋愛と友情の中間から空魚が抜け出すことで、自体は解決する。
しかし、恋愛としては前巻のラストでほぼクライマックスを迎えて、この話で完全な決着を着けてしまった。
今後の二人の行く末はどうなるのだろう。
より二人の関係は親密になっていくのか。
それとも着かず離れず、の百合を維持していくのか、というのも気になるところ。

挿絵めっちゃよくない?という話

また今回、挿絵がすごく良くなっていて驚いた。1巻の頃よりも断然いいなと感じる。
特に鳥子視界の空魚を助ける回想シーン。shirakabaさんという方が挿絵を担当されているのだけれど、空魚の顔が本当にふつくすぃい。
鼻と口から水を垂れ流していて、本人からしたら最悪のショットだろうけども、shirakabaさんの書くイラストがとてもきれいで、鳥子が好きになるのも分かるというか。(まぁ鳥子はその時点では冴月のことを忘れられていなかったけど)今の鳥子が当時を振り返ると、こういう風に見えるんだろうな、というのが伝わってきてすごく良かった。
アニメ、漫画化しているにもかかわらず、自分としてはこの挿絵が一番最高だと思う。
夕日の街中もシルエットだけの二人とかの画が見たかったなぁ~。
今回の表紙も結構好きだ。前巻の雪の表紙もよかったけど、今回の何気ない3人の日常を切り取った一枚、とても良い。光に当たっている個所の線が赤色になっていて、プリズムを通して裏世界ピクニックのキャラを覗いているみたいで、あたかも小説と言うプリズムを通して彼らの世界を覗いている読者みたいな。
画がパリッとしすぎず柔らかい色使い表現が、オカルト系の小説なのに怖すぎない、少し不思議な世界観と、ものすごく作品とマッチしている。
本当に最&高だ。

ミリタリー描写もいいね

銃器描写は、うん。よし!
「銃口を人に向けない」を守っている、という描写は良かった。某終末少女漫画では冗談(?)で実弾が入った銃を友人の頭に向けている描写があって、ものすごく強い抵抗感があった。世界観は好きになれそうだったのに、そのシーンだけで続きを見る気がしなくなってしまった。作者としては、終末世界で銃口を友人に向けるという「画」が先にあって、あとから流れを作ったのだろうというのは想像できるけど、せめて明確な殺意が欲しかった(殺意とも取れなくもない描写だったけど、そしたら理性が足りないキャラにも見えかねないような…)。
自分が思う事として、銃好きになればなるほど、銃の恐ろしさを良く知るというのはある話なんじゃないかなと。

例えば、ホローポイント弾が、着弾した直後からバラバラの破片になり人体をミンチにしながら突き進んでいくということを知っていたりすると、冗談でも銃口を人に向けられない。
裏世界ピクニックの彼女たちは、ゲーム的な箱庭世界にいるものの、銃の恐ろしさは熟知しているし、それに見合う脅威もしっかり存在する(過剰防衛じゃない)というのがミリタリー描写として良いなと感じる点だった。
AKとM4という銃も表世界の日本でもそれなりに存在している気がするし、それを持った人がふらっと裏世界に入ってしまうというのも説得力もあるのでは。自衛隊の89式小銃にしなかったのは政治的な理由(出版社側の校正とか)なのかな。てか拳銃はマカロフかぁ、ベレッタとかガバメントとかグロックでもよかったんじゃん、とか思ったり。これは銃器を好きになった作品に影響されるか。。。でも口径が違うけど、二人とも弾丸はどうやって調達しているんだっけ。

気になる次巻は…?

それから、多重人格の話がでていて少し不穏だった。
今巻の副題でもある「ファイル19 八尺様リバイバル」の中で、1巻に出てきた怪異とのリベンジマッチがあったのだけれど、その中で、過去に出てきたキャラクターの言っていることに矛盾が生じていた。その際に「多重人格障害」の話が出ていたのだけれど、妙に説明が長く、キャラクターもその話を掘り下げていて、メタ読みしてしまい、めっちゃ不穏だった。
空魚のって天涯孤独の女子大生という設定。その設定自体、こういうジャンル物の小説では無個性で受け身なキャラは描かれがちなので、「あーいつものやつね」と思ってしまうけど、もしかしたらそれ自体が作為的な物だったりするのだろうか。
つまり、冴月という正体不明の黒幕。消息不明のキャラクター。
面と向かって対決する場面もあったけど、この世界ほど視覚情報があてにならない設定もない。
もしかしたら、作中にずっと冴月は「いた」のではないか。つまり、空魚という人格は冴月という人格の隠れ蓑に過ぎない、みたいな。
今巻でその話があるということは、次巻では人格が分裂して最終対決!?もしくは、語り部が気づいたら冴月に変わっていたみたいな!
とか思って、次巻の副題を見たら「寺生まれのTさん」。

寺生まれのTさん

いや、おい!マジかよ!
なんてこった、俺たちのTさんがついに小説デビューかい!
いやもう、ひっくり返ったよね。
寺生まれのTさんは、もうネットロアでは知らない人はいないだろうし、ちゃねらーだったらみんな知ってる有名なコピペ。
何かの怖いコピペの最後のほうに登場し、「破ぁ!」の一喝で悪霊を退散してしまう怪談ぶち壊し系有名人だ。
具体性のないただ寺生まれというだけの人物なのに、Tさんという頭文字が変なリアリティを醸し出し、全てワンパンで解決してしまうところが『ワンパンマン』のサイタマっぽくてじわじわ笑えて来てしまう。
ハリウッド大作におけるトム・クルーズやドウェイン・ジョンソンのような絶対的な安心感みたいなのがある。
でも、表紙をみるとボーイッシュな女子に見える。
あれ、ボーイッシュカンフーキャラはすでにいるけども、どうやって差別化するんだろう。
もうあれやこれやいろいろ気になるので、読んでこよ。さらば。

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