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人魚歳時記

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ふと目に映った風景を、言葉でスケッチしています。
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記事一覧

人魚歳時記 皐月 前半(5月1日~15日))

1日 鉄柵に絡んだクレマチス。家の中から聞こえるピアノ――通りかかった家の前で、既視感か…

椿野人魚
2日前
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人魚歳時記 卯月 後半(4月16日~30日)

16日 朝、ウドをいただきに駅前のT宅へ伺う。犬の散歩を兼ねているので遠回りする。 菜の花…

椿野人魚
2週間前
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人魚歳時記 卯月 前半(4月1日~15日)

1日 植えた覚えのない球根たちが、庭のあちこちで頭を出している。 ムスカリの青。イチゴ菓子…

椿野人魚
1か月前
38

人魚歳時記 弥生 後半(3月16日~31日)

16日 さっき家から出たら、足元にはたくさんの、淡い水色の金平糖が散らばっている―― 逢魔…

椿野人魚
1か月前
32

人魚歳時記 弥生 前半(3月1日~15日)

1日 寝不足の朝は雨。灰色に濡れる庭から聞こえる鳩の声が心に優しい。病院への送迎。診察終…

椿野人魚
2か月前
41

人魚歳時記 如月 後半(2月16日~29日)

16日 ブルーデイジー、クロッカス白と黄、シルバー・ディコンドラ、植物を買う。お昼、車の…

椿野人魚
2か月前
11

人魚歳時記 如月 前半(2月1日~15日)

1日 やはり暖冬なのか、日中はストーブつけずとも過ごせそうだ。前日との寒暖差が激しいために、強風が唸りをあげている外へと、恐る恐る出てみる。鳶が撃ち落されたみたいに風の勢いで空を下降していった。記憶にある二月の、あの凍てつく空気はどこにもない。やはり暖冬なのか。 2日 朝、窓を開くと向かいの屋根で、鵯が咥えた金柑を雨どいに落としてチョンチョンと遊んでいた。木立の中を歩くと、落ち葉の中から雀の群れが空気を震わせて飛び散った。畑の脇の石仏に、誰かが供えた昨日のお握りは、彼らの食

人魚歳時記 睦月 後半(1月16日~31日)

16日 傷んだ林檎。冷蔵庫の隅に忘れたままの、ラップにくるんだ一握りのご飯。鏡開きに割り…

椿野人魚
3か月前
21

人魚歳時記 睦月 前半(元日~1月15日)

元旦 お蕎麦の上の海老の尾までバリバリ食べて越した年は夜に降った雨でしっとりと心地よい。…

椿野人魚
4か月前
19

人魚歳時記 師走 後半(12月16日~31日)

16日 弱雨の中で鳥が鳴いている。明けた薄墨色の空を見ていたら、血が通いだした様に色づき…

椿野人魚
4か月前
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人魚歳時記 師走 前半(12月1日~15日)

1日 庭で洗車。馬の体を洗うようだ。佇まいが少年のように感じて「坊や」と密かに呼んでいる…

椿野人魚
5か月前
15

人魚歳時記 霜月 後半(11月16日~30日)

16日 洗濯物を干し終えて戻ると、昨日穿いていた靴下がくるりと丸めて部屋の隅に転がってい…

椿野人魚
5か月前
17

人魚歳時記 霜月 前半(11月1日~15日)

1日 稲刈りが終わった田んぼの、コンバインのわだちに、昨日の雨が溜まっている。どろどろの…

椿野人魚
6か月前
20

人魚歳時記 神無月後半(10月16日~31日)

16日 鼻と唇の渇く秋晴れの中、所要があり隣の市まで車を走らせていると、旧街道脇に「ホルモン無人販売所 二十四時間営業」という看板を掲げた、軒の低い廃屋同然の平屋がある。なにかこう禍々しく、その家(店?)の周りに咲く秋桜が余計に可憐にいじらしく目に映った。 17日 左右から、特急と急行が行き会って、ようやく上がる遮断機。踏切を渡ると、頭上で音がする。見上げれば、送電電がいまだにカチャカチャ揺れて、乾いた秋の空気の中でぶつかり合っている。 18日 遮るもののない田圃の中の一