見出し画像

西XX駅

トーストとコーヒーは料理とは言わないことは間違っていないとしても、腹の中でいくばくかの場所は取る。一時の空腹を押さえるだけの能力は体積として保有している。中年を過ぎ食欲の減退しつつある私は、ポエムでは最高の調味料などと言われる貴重な空腹を、浅慮で浪費したことを猛烈に後悔した。建物外観から十分に想定し得たリスクを、必然が生まれたなどと判断して注文に至った自分の不明を嘆いた。
 今日の午後の私は、こんなトーストとコーヒーのエネルギーで駆動するのだ。発揮される成果などおのずと知れていよう。私自身の消化能力を踏まえれば、このトーストとコーヒーのエネルギーを越えること等起こらないのだから。

 二度とこの店この街には来ないぞ、来る必然などないのだ。そう思いながら予定していた営業先に足を向ける。私の思いとは関わりなく商談は前向きに進み、次回の往訪予定までたどり着いた。この駆動は、あのトーストとコーヒーの成果なのだろうか、あるいは罠なのだろうか。私のプレゼンに満足したはずのお客様の笑顔が、かすかに顎を上げた能面のように見えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?