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気まぐれ美少女ゲーム感想vol.3 さよならを教えて


・タイトル『さよならを教えて』
・メーカー「CLAFTWORK」
・プレイ時間「10時間程度」
・推しヒロイン「高田望美《たかだのぞみ》」 
・私的評価「★★★★★☆☆」


 まあ、言わずと知れた三大電波ゲーの一つです。プレイする前からいくつかの考察サイトや動画を観ていたこともあり、例の結末や選択肢やCG、音楽を巧みに使った狂気の演出は事前に把握済みでした。この文章でも結末に関わる重要なネタバレはさけますが、未プレイなら見ない方が吉かも。そういった評論を事前に摂取していたのであまり評論めいたことはせずに、感想、つまりは感じたことをつらつらと書き連ねていきたいと思います。

 このゲーム、鬱だ狂気だ言われているみたいですが、私は寧ろ極めて理性的な作品だと思いました。精神を病んでしまっている主人公の独白はかなり読ませるし、感情移入もしやすい(それはそれで問題なのですが)。ちゃんと文章がしっかりしているし、読み物としてとても面白かった。けして滅茶苦茶な作品ではないし、しっかりとしている。これがまず素直な感想です。

 物語は日を重ねるにつれ狂気の度合い、現実からの浮遊感を増していき、後半、特にラスト二日では驚異的な(脅威的な)変貌を遂げます。あの有名な、あまりにも救いがないオチへ(主人公にとっては幸せなのかも)。

 理性的で冷めた語り口の前半と、

僕はグラウンドに立っている。恐らく、グラウンドに立っている。 

 みたいな可笑しな文章が頻発する後半(恐らくってなんだよ)とのギャップ、段々と可笑しな作為が際立っていく演出、登場人物たちの垂れ流す独特の価値観や奇妙な蘊蓄……。最初に極めて理性的と言ったのは、その一つ一つが、物語にとって重要な舞台装置となっているからです。(ex.宇宙や意識の話やオカルト関連、主人公の過去の小動物殺傷事件、姉や両親からの抑圧)などのこれらのエピソードやアイテム(マクガフィン?)は、主人公の内面を構築するのに多大な影響を及ぼしたのは想像に難くないでしょう。

 また、本作において畏怖と聖性の象徴として登場する「天使様」……メインヒロインの巣鴨睦月に主人公が幾度か仄めかされるように、この作品は「救済」、それもけして叶わないような救済を裏テーマに添えているのではないかとも思いました。登場する女子生徒や女性や主人公自身でさえも主人公を救いたいと願っているのに、どこまでも救われない。報われない。それどころか悪化の一途を辿っていく。そのやるせなさというかやりきれなさの方が印象に残って、狂気や鬱の演出より、どちらかというとそのドラマの方に心が動かされてしまいました。

 ネットの評論をいくらか見たのですが、なかには主人公は「睦月が処女じゃないことに絶望している」とか「他者に自己を投影することでしか生きられなかった」みたいな、露悪(?)な解釈の仕方もあって、私はどちらかというと本作に登場する人間は(多少歪んでいるのかもしれないが)基本的に全員が善人だと思っているので、少々面喰いました。睦月が恋愛がらみ? の問題で心を病んでいるのは仄めかされた程度で明示されてはいなかったような気もしますし、主人公の人見がちゃんと「天使様」ではなく「睦月」と呼ぶ(呼びかける?)シーンもあることから、本作の妙はそういった下世話な問題とはかけ離れたところにあるのでは、と思いました。ある意味純愛。

 メインヒロイン以外で好きだったのは屋上にいる望美ちゃん。父親に凌辱(家庭内暴力を受けている)されている、という設定なのですが、真相を知ってから改めて鑑みると、「あー……」と掠れた溜息が。この作品、本当に主人公を責め苛むんですよね。少しくらい、救いがあっても良かったとは思うのだけど、あの狂気が終わらないからこそ、意味がないことに耐えられない(ありのままの自分を直視できず、逃避している)からこそ、「決別(さよなら)」ができない、ひいては「さよならを教えて」ほしいのでしょう。

 他力本願というか、けして悪い意味ではなく、主人公も他者に救いを求めることが(タイトルの中で)出来ているのだから……もう少し……現……あ~~~~これ以上書くとネタバレになりそうなのでやめます。オチをばらさずに論じたり感想書いたりするのはかなり難しいです、この作品。興味ある人は是非プレイしてみてください。私は土曜の夜から始めて日曜の朝の五時まで夢中でするくらいには面白かったです。ただのめりこみ過ぎには注意。


雑感

 なんか自分本位な感想メモのようになってしまったので、もう少し具体的な美点を書くと、音楽とか演出がとても良いです。完全クリアした後もたまに音楽を聴くために起動しています。狂気を孕んでいるようで美しいというと陳腐ですが、黄昏の憂鬱というか、ほの暗い気持ちを掻き立てられるような楽曲が多い。文章シナリオと文章以外で構築された世界が渾然一体となってあの狂気の世界を象っていると思うと凄いゲームだな、と……。三大電波ゲーはもう一作品入手したので、いつか感想を投下するかもしれません。

 

 


 

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