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『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第103回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載103回 辻元よしふみ、辻元玲子
 
※本連載は、2008年刊行の書籍の改訂版です。無料公開中につき、出典や参考文献、索引などのサービスは一切、致しませんのでご了承ください。

九、帽子の章
 ①二角帽までの時代

 ◆フードの「ターバン巻き」が流行った中世

 帽子は、他のものにも増して遺物が少ない。記録もなく、歴史的経緯をたどるにしても、憶測の要素を差し挟むしかない部分も多い。
 とはいうものの、ごく古い時代の人類にとって、ヘッドギアは防風・防水のためのフードや頭巾が最善であり、それは中世に至るまで、旅人の被り物として最も有用なものだっただろう。
 ギリシャ、ローマの時代には戦闘用の兜や、桂冠のような装飾を除いて、今の帽子というようなものがさして日常的に流行していたようにも思われない。古代から中世にかけて、フリギア帽と呼ばれる、当時、繁栄した王国の名からとられた頭巾のような被り物が広く用いられたが、あくまでもアウトドア専用、旅行用というものだった。
 中世に入り、男性たちは外で頭にフード(フランス語でシャペロン)を被るのを常識としたが、さらにそのフードを、ターバンのように頭に巻きつけることが、ルネサンス期ぐらいまで大いに流行した。そのほかには、折り返しのあるフェルト製の帽子も狩猟用として流行した。ロビン・フッドやウィリアム・テルの帽子というと思い浮かぶタイプのものである。
同じころ、ヘニンと呼ばれる奇妙な形の、背の高い帽子が貴婦人たちに大流行したことは特筆しておきたい。ちょうど紳士の足下には、これまた奇妙にとんがった珍妙な靴を履いていた時代である。なにか、けったいな風俗が流行した時代だ。
 ルネサンス期になると、頭にフィットした、ごく小さな帽子が流行した。ツバのないボンネット型の帽子で、今のベレー帽の原型のようなものや、後の軍帽や学帽の先祖となるタイプの帽子など、さまざまな様式が見られた。これらの多くは、聖職者の被り物をモデルとして登場した。
 
 ◆装飾過剰なハットの時代に

ダブレットが隆盛を極めた十五~十六世紀を経て、帽子の様式はさらに変化し、全身のコーディネートの中で、これまでよりも重要なアイテムと見なされるようになってきた。十六世紀末の英国では、ヘンリー八世やエリザベス一世の時代に主流だったチューダー・ボンネットというベレー帽型のものから、後の時代のシルクハットの遠い先祖にあたるカポテインという帽子に流行が移り変わった。
その他の国では、装飾過剰の衣装につり合うように、帽子はまた巨大化する。ドイツ傭兵ランツクネヒトは奇をてらった巨大な円盤のような帽子、テラーバレッツを好んで用いた。ルイ十三世からルイ十四世の時代のフランスでは、巨大なツバ付きのハット(フランス語でシャポー)が大隆盛を極め、その上に目立つ羽根飾りやリボン装飾など付け、とにかく豪華な被り物が流行った。三銃士の時代の伊達男というと思い出す「ダルタニアン」風のイメージである。


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