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簡単なことじゃない

今夜も夫は義母の住む実家に泊まりに行って留守だ。最近は三日に一度くらいの割合で夫は実家に泊まりに行っている。
義母は抗がん剤の治療もできないくらい体が弱ってしまって、先週でとうとう大学病院の受診も終わりになった。後は地域の病院で緩和ケアを受けることになる。あまり痛みが出たり、抗がん剤治療の時のように具合が悪くならなければいいのだが。
先のことを考えないわけにはいかないけれど、夫はあまり暗い話はしたがらない。「ずっと考えていても仕方がないよ」そう言ってネコにふざけた声をかけたり、テレビを観て歌を歌ったりしている。そんな夫の姿を見るとその時だけはホッとする。
でも、平気なはずはないのだ。昨日の夜も夫が眠ったのを見て、私もうとうとし始めたのだが、しばらくして夫のうなされる声で目が覚めてしまった。悪い夢を見るのかもしれない。口には出さないけれど、いつも心のどこかに不安や恐怖があるのだと思う。
「簡単なことじゃないよな、死ぬってことは」布団に入って暗い天井をお互い見ながらそんな話をする。義母の足にはむくみが出てきて、歩けなくなる日も近いかもしれない。「みんな、人には言わないけれど大変な思いをして親を見送っているんだろうね。」
夫は中学生の時に父親を亡くしている。その後は残された義母が苦労して息子3人を育てた。夫にとってはかけがえのない存在だ。後悔のないように残りの日々を過ごさせてあげたいと願っている。

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