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待合室の施錠(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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※note毎日連続投稿1616日をコミット中!
1520日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。






おはようございます。
山田ゆりです。





今回は
待合室の施錠(ショートショート)
をお伝えいたします。






ルミはライブに参加するためにこの地に来た。

昨夜、新幹線で着き、駅近くのホテルに泊まった。
思わず何度も深呼吸したくなるほど空気が澄んでいる。

風でバサリバサリと揺れる木々。
小鳥たちのさえずり。
時々通る車の音。
黒猫がゆっくり道の真ん中を歩いている。
新聞配達のバイクの音が断続的に聞こえる。
東の山が明るくなってきた。
街は今日になり始めた。


ホテルの部屋の窓からは遠くに出港したばかりの連絡船の白い波の足跡が見える。
といっても高層ビルからの眺めではない。
周りはほとんど2階建ての民家で、6階建てのこのホテルだけが異様な高さになっていた。

駅の周りには空き地が多かった。
通常、駅の周辺は賑わいがあるものだが、ここは何もないところに突然新幹線が通ることになり、急遽、人や物が集まったという状態になっている。



この地に住むサエちゃんに会った。
サエちゃんとは推しのライブで友達になった。
3年ぶりの再会である。人懐こそうな眼は変わっていない。

何もないところだとサエちゃんから聞いていたが本当に何もないところだった。


ライブ会場は駅から遠く離れていてそこまで行くには、バスしかなかった。
勿論、地下鉄はない。
バスの時刻表を調べたら、なんと、一日2本しか通っていない!

幸いなことに、新幹線の駅から会場まで、ライブ専用バスが出ることになりルミたちはそれに乗ることにした。
しかし、距離的には15分くらいのところなのにバスの到着時間は30分後になっている。どうして?とサエちゃんに聞いたらこう答えてくれた。


「途中、バスが通れないほど細い道があるから遠回りするの」

駅の周りには何もない。ライブ会場までのバスは一日2本しかない。
しかも、バスが通れないほど細い道があり迂回をしながら2倍の時間をかけていく。
これは話のネタに尽きないところだとルミは嬉しくなった。



しかし、次の話は考えさせられた。

サエちゃんの住む集落は、隣の集落とは田んぼ道で繋がっている。
数年前までは一日数本、バスが通っていたが今はバスが来なくなった。

また、30分おきに来ていた電車は、朝夕の通勤時間帯以外は1時間おきになった。
だから、今の電車を逃すと無人駅の固い椅子がある待合室で一時間近く待たなければいけない。
無人駅にはタクシー乗り場は勿論ない。



それより驚いたのは、その待合室は夕方の定刻になったら鍵が掛けられてしまうということ。
終電の時刻までにはまだ数時間あるというのに。
中に入れない待合室の中は煌々と電灯がついている。電気量の無駄と思えるがそれはおそらく、真っ暗にすると防犯上よくないからなのかもしれないとサエちゃんは言う。


つまり、雨が降っていても、夜の駅の軒先に濡れながら立っているしかない。
吹雪の夜はもっと悲惨だ。明るい待合室には入れずに震えながら待つしかない。
トイレに入りたくても、トイレも定刻になると施錠される。


お腹の弱いルミにとって、駅のトイレはありがたい存在だ。
でもここは、救世主に手を差し伸べたら強く払いのけられた、そんな気がするトイレである。




ある日、一人の男性が真冬の夜にその無人駅にやってきた。
既に施錠させられた時間である。
待合室の中は煌々と電灯がついていた。
ガラス越しに時刻表を見て、自分の腕時計を見る。

傍にご老人が寒そうに立っていた。
「あぁ、若いの。あと40分しないと来ないから。」

そのご老人は手を擦りながら若者に言った。

「いつもこうして鍵がかかっているのですか?」

「ああ。昔はこの駅に駅員さんとその家族が住んでいたんだ。

でも世の中厳しくなって、人員削減だとか機械化だとかで、ここは無人駅になっちまったんだ。
昔は終電まで待合室に入れたのだが、社長さんが変わったのか、ある日から鍵を掛けられるようになっちまった。

電車を利用する人が少なくなってきたと言われるが、車を運転できない我々老人は電車が頼みの綱なのにのぉ。」



その電車はどんな時間帯でも2両編成だった。

しかし、その後、通勤通学の時間帯は4両編成で、それ以外の時間帯は1両編成に変わった。
しかもこれまでは都会の地下鉄からのお古を使用していたが、それをやめ、超レトロな感じの車両に変わった。


そのレトロさが若者に受け、観光客が増えた。
電車はこれまでの1時間おきから20分おきに変わった。


また、自転車も無料で乗せることができるようになり駅前の放置自転車が激減し、これまで学校へ親が車で乗せていったのが、今では学生が自転車ごと電車に乗るようになり、学生の利用者が増えた。


また、レトロではあるが、バリアフリーが完璧に施され、車いすも乗車できるようになった。



定年退職者の再雇用制度で70歳までの雇用延長が義務付けられ、市電の会社は無人駅に小ぶりな駅舎を建て、そこに60代の定年退職者を住まわせた。
駅舎は今風なものではなく、電車に合わせて超レトロな感じに作った。

彼らのすることは難しいことは無い。
駅周辺の管理だった。


ある程度の裁量は任せられていた彼らは線路周りに花を植え始めた。

これまで殺風景だった線路周りが季節ごとに黄・赤・紫など季節ごとに彩られていった。


待合室は終電まで入れるように変わった。
雨の日も雪の日も、待合室の中で待つことができるようになった。


廃線を噂されるほどだったその市電は見事にV字回復し、今では線路の数を増やして10分おきに来るようになった。


利便性がさらに良くなり若者からお年寄りまでたくさん利用するようになった。





数年後、夫婦がその待合室に来た。

「僕がこの駅を始めて訪れた時のことは忘れない。
お年寄が寒さに震えながら外で電車を待っていたんだ。

この市電の経営者を公募していることを知り僕はやってみようと決意した。

君は都会からこんな田舎に来ることを嫌な顔ひとつせずついてきてくれた。
全ては君のお陰だ。ありがとう。ルミ。
さぁ、帰ろう。」



ルミは微笑みながら最終電車に仲良く乗った。






今回は
待合室の施錠(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。



◆◆ アファメーション ◆◆
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