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子どものためは自分のためかも【音声と文章】

山田ゆり
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地元のその進学校にのり子の中学からはのり子を入れて3人しか入学しなかった。

当時ののり子に親友と呼べる人はいなかった。
だから移動教室へ向かう時も、お弁当を広げるお昼時間も、のり子はいつも独りぼっちだった。

仲の良いもの同士が机をくっつけながらワイワイ話をしながら食べている中で、のり子はひとり自分の机にいて黙々と食べていた。

自分から話しかけられないということの他に、のり子のお弁当は恥ずかしくて人には見せられないものだった。

尋常小学校しかでていない田舎のおばちゃんといったのり子の母親が作ってくれた弁当は、白いご飯にサンマ半分がどんと乗り、梅干し、ほうれん草のおひたしが入っていてそれでおしまい。

綺麗に飾ってあるならまだしも、サンマはただ弁当に殴り入れたのではと思うくらいテキトウに入っていた。

卵焼きが入っていることはほとんどなかった。

そんなこと言う前に自分で弁当を作ればいいと言われそうだが、当時、のり子は料理をしたことが無かったので自分が弁当を詰めるという発想が無かったのである。


遠目でチラリと見る皆さんのお弁当は、卵焼き、ソーセージ、ハンバーグ、ブロッコリー、ひじき、ミニトマトなど、色とりどりのお弁当で美味しそう。

サンマが寝ている弁当をひとに見られるのが怖かった。

だから、のり子は下を見てご飯を多めにすくって早めにご飯を食べ終えていた。
そのころから早食いの習慣ができたのかもしれない。


あれから月日は流れのり子は結婚し子宝に恵まれた。
子どもたちのお弁当作りには人一倍気を使った。それはのり子の苦い思い出があったから、子どもたちにはあんな思いをさせたくないと思ったから。


高校生の娘がある日、のり子に向かって言っていた。
「○○(娘の名前)のお弁当って、いつも美味しそうだね。一番凄いのは、冷凍食品が入っていないこと。全部手作りってすごくねー!っていつも言われる。

お母さんの作るお弁当は、いつも開ける前に皆から注目されているんだよ。」



それから数年が経った。

娘が都会で進学就職し、一人暮らしを始めた。

「高校生の時、みんなで机をくっつけてお弁当を食べていて、それぞれ、食べたいおかずを相手からもらって食べていたんだけれど、みんなのお弁当は色とりどりではあるけれどほとんど冷凍食品のオンパレードだった。

その中で、私のお弁当は絶対、冷凍食品は入っていなかった。
ハンバーグでもパスタでも炒飯やピラフでも、全てお母さんの手作りだった。
お醤油やドレッシングも小さな別容器に入っていた。

毎回、皆の箸が私のお弁当に集まり、みんな「おいしい!」っていつも絶賛されていた。

あの時も嬉しかったけれど、こうして一人暮らしをしてみて、毎日のお弁当を全て手作りでしかも彩りよく作ってくれたお母さんの愛情を身をもって感じている。ありがとう、おかあさん。」


その一言で、のり子の学生時代の、ただただ早く呑み込んでいた昼食時間の居心地の悪さの感覚が薄れた。


良かった。娘たちはすくすくと育ってくれている。


愛情を注ぐことができる家族がいることをのり子は改めて感謝したのである。






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子どものためは自分のためかも

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