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希望の光(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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※note毎日連続投稿1700日をコミット中! 1660日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも数分で楽しめます。




おはようございます。
山田ゆりです。



今回は
希望の光(ショートショート)
をお伝えいたします。


203X年11月。

俺はむしゃくしゃしていた。
なんだ、あの店長は。

俺が高卒だからって人を馬鹿にしている。

出来立てのクロワッサンがはいった箱を移動する時にちょっと足元が滑った。

俺はとっさにクロワッサンが落ちないように足を開いて踏ん張った。
するとそのまましりもちをつく形になった。
クロワッサンは無事だった。
それを見ていた店長が

「なんだお前、そんなものも持てないのか!」と眉間にしわを寄せてニヤリとした。


俺は必至でクロワッサンを守ったんだ。そのお陰で尾てい骨を打ってしまいそのあたりが痛い。

この場合、商品よりも俺の身体を心配するのが普通だろう?

あぁ、明日も明後日も、あいつの顔を見ないといけないのかと思うと、嫌になっちまう。



俺は尾てい骨とお尻を撫でながら帰宅の途についた。

くっそー。なんか面白いことねぇかなぁ。




周りに家がないところを歩いていた。
すると、少し前に若い女性が歩いていた。

その女性は黒っぽいコートに黒の靴、黒のカバンを持っていて黒づくめだったこともあり、街灯が少ないこの道を歩いていてその存在に俺は気が付かなかった。
その恰好から、お通夜の帰りだと分かる。


真っ暗と言えば俺もそうだ。
この間の休日に買ったばかりのフード付きのトレーナーとジーンズ。
シューズも買ったばかりのものだ。


歩調は俺と同じくらいだった。
彼女の後ろを歩いていてさっきのイライラがモヤモヤしてきて、今度はムラムラしてきた。



頭の中で勝手に妄想が始まる。
その妄想がどんどん広がり、俺は自分を抑えきれなくなってきた。

あの店長がいけないんだ。
もっと優しくしてくれさえすれば。



俺はポケットから出した手を顔のあたりまで上げて彼女に近づこうとした。



すると一台の車が後ろからやってきた。
そのライトの向きがこちらに向かってきているのを光の当たり具合ですぐに分かった。

このままでは車が突っ込んでくる!

俺はとっさに彼女を後ろから抱き、彼女と一緒に左側の草むらへ転げ落ちた。
小中高と野球部だったから、とっさの行動ができたのかもしれない。
車は電柱に激突して止まった。


「大丈夫ですか?」
俺は彼女から離れ、具合を聞いた。

「ありがとうございます。大丈夫です。」
何でもなさそうな彼女を確認してから俺は車の方に向かった。

車の前が電柱にめり込んではいるが、運転手はエアバックに守られ、大事には至っていないようだった。

すぐに俺は救急車を呼んだ。
まもなく2台の救急車とパトカーがやってきた。


事情聴取をされ、彼女と運転手は救急車で運ばれた。


その日のことは翌朝の地方紙の地域欄に割と大きく掲載された。

俺が人を助けたということが大きく報道された。

彼女をとっさに守った行動と、
迅速に運転手の安全を確認して救急車を呼んだこと。
そして、俺が着ていた服に着眼した報道がされた。


街灯が少ない薄暗い夜道を、黒っぽい服装で歩くことはとても危険である。
事件・事故に巻き込まれる可能性が高くなる。




政府は、今後の服は、普段は分からないが暗いところに行くと光る素材を服のどこかに入れなければいけないという決まりを作った。

それは今年の10月から始まったそうだが、俺はそんなこと全然知らなかった。


そして、俺がその日着ていた服は先日購入したばかりのもので、後で気が付いたのだが、あのトレーナーもジーンズもシューズも、暗いところに行くと、星空のようにキラキラ光っていた。

あの時、居眠り運転していた運転手が、キラキラ光る俺に気が付いたそうだ。



つまり、政府が決めたその制度で事故を小さくすることができたということだった。

内容としてはどこにでもある、人命救助の話。普通だったらそれほど大きく報道されない。

しかし、政府が決めたことが人を助けたという良いアピール材料になったということである。



そして、その事故のお陰で、俺は翌日から店長からは一目を置かれ、仕事がとてもしやすくなった。

おかしなものである。
あんなに嫌々でやっていた仕事だったのに、人間関係がうまくいくようになると会社に行くのが楽しみになった。


アルバイトだった俺はその後、正社員に登用され、チーフ、マネージャー、と昇格していった。
前向きになった俺はジョギングや筋トレに励むようになった。

関わる人もプラス思考の人間が多くなった。
ある程度のお金を得られるようになり、服装にも関心が行くようになった。



自分を大切にすることを体感し、自信がついてきた。
あんなに根暗だった俺が、女性に積極的に話ができるようになり、結婚もできた。
そして俺は新しいお店の店長になった。





俺はあの時、一歩間違えれば犯罪者だった。
本当は人助けをするはずじゃなかった。

ちょっとした運が俺に味方してくれた。

あの時着ていたトレーナーは、今見るとダサくて着れないが、俺の運命を大きく変えたものだから、もう少しクローゼットの隅に掛けておくことにした。


暗がりで光るそのトレーナーはどん底の俺を救ってくれた希望の光だ。





今回は
希望の光(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。








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