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元ツンデレアイドルのマネージャーは苦労がたえない 1話

「明日から来なくていいよ」

その一言が、俺の人生を180度変えるなんて

その時は誰も知らなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇

「お先に失礼します」

『お、〇〇くんお疲れ様』

コンビニを出ると
外は、もう夜の8時だというのに
まだまだ暑かった。

24歳。独身。彼女なし。フリーター。

それが今、俺が持つ肩書きの全てである。


半年前。
苦労してようやく内定を掴んだ会社から
わずか1年でクビに。

そしてその会社は今はもう無い。

今になって調べてみると、5年ほど前から
かなり業績が悪かったらしい。

今は、しばらく働く気になれず、
近所のコンビニで働いてる。

「晩御飯どうしようかな…」

暑さのせいか、あまり食欲もないし
今日は抜きでもいいかな

なんて考えながら歩いていると

『はなして!やめて!』

切羽詰まった女性の声が聞こえた。


慌てて辺りを見渡すと
細い路地で、真っ黒の服に帽子を被った女性と怪しげな男性が揉めていた。

俺、もう失って困るものないしな

そう思うと、身体が勝手に動き出した。

「離してあげてください」

『は?お前には関係ないだろ?』

「彼女、嫌がってますよ」

男性の手を掴みながら言うと
男性は何か大声で叫びながら殴ろうとしてきた、

ところを素早くかわし
逆に服の襟を掴んで、体落をかける。


男性が地面に倒れ、動かなくなったことを確認し
女性に声をかけた。

「今のうちに、安全なところに逃げましょう」

『は、い』


·····

とりあえず
近場の公園に行き、ベンチに座ってもらう。

「怪我はないですか?」

『…大丈夫です』

「それならよかったです」

『あ…あの…助けてくれてありがとうございます』

「全然です!俺柔道の黒帯もってて、なんか助けないと!って思って咄嗟に動いちゃいました」

『黒帯!すごいですね』

「もし、よろしければ家の近くまで送っていきますよ」

『…え、いいんですか…?』

「俺としても心配なのでぜひ」

『ありがとうございます』



··········


歩きながら
お互いのことを少しずつ話す。

『お仕事の帰りですか?』

「仕事と言うかバイトの帰りでした」

『大学生…とか?』

「いやぁ…実は半年ほど前に仕事クビになってしまって……」

『あ…そうだったんですね…ごめんなさい』

「謝らないでください!」

『じゃあ今、お仕事探してるんですね』

「一応、そんな感じです」

そんなこんな話してるうちに
彼女の家の近くまで来たらしい。

何度も何度もお礼を言われるとなんだか恥ずかしい。


「じゃあ俺はここで…」

少しいたたまれない気持ちになりつつ
その場を立ち去ろうとした時

『あ、あの』

袖をそっと掴まれた。

「は、はい」

『もし、まだお仕事見つからないのであれば…』

彼女はずっと目深に被っていた帽子をぬぐ。

『私の、マネージャーになってくれませんか?』

「…え」

普通の女の子と思って接していた彼女は、元超人気アイドルの齋藤飛鳥さんでした。

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