見出し画像

ロビーに漏れる、音に興奮していたあの頃

 映画にまつわる思い出を改めて考えてみると、たくさんありすぎて迷ってしまいます。
 上映時間のあいだ、画面がただ青一色の映画を見たことがあったり、映画が始まって終わるまで、観客が自分ひとりだけだったり、終電を逃し、寝る目的で入った映画館だったのに、映画が面白くてぜんぜん寝られなかったなど、映画は本当に楽しい思い出を与えてくれた、そしてこれからも与えてくれる、相棒です。

 私は子どもの頃から映画好きでした。
 親に頼んで、よく映画館に連れて行ってもらいました。
 昔の映画館は、入れ替え制ではなかったんです。一部をのぞいて、すべて自由席。だから、よい席で見たければ、早く家を出て、映画館で並ばなくてはなりません。まさに早い者勝ち、良い席を巡っての競争でした。
 ロビーで、待っていると、劇場入り口のドアが開いて、お客さんが出てきます。
これで、この回の上映が終了したということがわかります。
 それを合図に、劇場内に入って、良い席をゲットするのです。とくに子どもは、すぐに走り出すものだから、他のお客さんや、映画館の係の人に注意されました。
 早くいって、映画館のロビーで待つ。これがルーティンのようなものでした。
 
 ロビーで待っていると、映画の音が漏れて聞こえることがよくありました。
 爆発音だったり、モンスターの雄叫びだったり、宇宙船の航行音だったり、銃声だったり。そんな音に耳を澄ましていると、わくわくしてくるのです。
 扉の向こうは一体どうなっているのだろう。何が起こっているのだろう。
 何が起きているのか分からないけれど、もう少ししたら、自分も目の当たりにすることが出来るんだ。
そう思うと、いても立ってもいられなくなるぐらいわくわくしてきます。
 
 1978年7月に、日本で「スターウォーズ」が公開されました。「エピソード4」です。私が小学生のときです。銀座の映画館に父と一緒に見に行きました。ものすごい人気で、お客さんの列が映画館を二重、三重に取り囲んでいるほどでした。列に加わり待っていると、トイレに行きたくなり、映画館の人に頼んでトイレを貸してもらうことになりました。
 ロビーを横切ってトイレに向かおうとした、その時にタイミング良く映画の効果音が漏れて聞こえてきたんです。
 たぶん、あれは〈ライトセーバーで戦っている音〉だったのだと思います。
 もうそれだけで大興奮でした。
 この扉の向こうは「スターウォーズ」なんだ。そう思いながら期待に輝く目で入り口を見つめていたのだと思います。

 ロビーに漏れてくる映画の音。
 これは、どんな予告編もかなわないぐらい、映画の魅力を伝えてくれて、「絶対みたい」と決意させてくれる、最強の予告なのだと思います。
 

#映画にまつわる思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?