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2016.9.3 広島ヲルガン座

電車の中で居眠りをした。
深い眠りだった、気づいたら車内は夕陽が差し込んで途方もなく目的地からそれた終点に到着したことだけなんとなくわかった。
他に人影がなく、自分がたった一人でここまで来てしまったんだと知った。

戻らなきゃって駆け足に当たりを見回すもどこが改札か、次の電車は何時にくるのかがわからない、次第に自分が向かおうとした目的地がどこかもわからなくなった。
どこに行きたかったんだろう、それさえも思い出せなかった。

混乱した頭の中で我に返った。

さっきまで見ていた景色とは打って変わって真昼の太陽と少しの潮の匂いがしていた。



その日僕は2日間泊まったゲストハウスをでて京都から広島に出発していた。
ゲストハウスのオーナーはまたおいでや、っと手を振って送ってくれた。

ルームメイトだった台湾人のスーが近くまでついてきて送ってくれた。

少し名残惜しい気持ちだった、もう少し仲良くなれた気がしたのに僕がこの街にいれる時間は限られていたから。

また来ます、と手を振って、僕はノロノロと進む鈍行列車に乗ったんだ。

僕はいつのまにか眠っていて、夢の中でも電車に乗って、おまけに変な夢まで見て。
起きたら電車に揺られていて。
混乱する頭の中少しずつ整理をつけていって、ようやく落ち着いた。

この何日間かは人々と出会って、別れての繰り返しだった事もあったし、自分が思ってる以上に疲れてるのがわかった。
おそらく眠っていたのは30分に満たないのに随分長く眠っていたような不思議な余韻がのこっていた。
目的地はちゃんとわかってる、ツアー最終日 広島へは残り4時間で着く。
電車は相変わらずノロノロと進んでいる。



広島駅のホームに降り立てば、少しだけ太陽は沈んでいた。
朝9:00に出発したのに時計は16:30を回っていた。

すこしだけ寝起きのような気分で路面電車に乗ったら、行き先が全然違う方向で焦って降りた。さっきの夢が少しだけ頭をよぎったがその後なんとかヲルガン座についた。

ヲルガン座は今までにライブしたハコの中で一番のインパクトだった。
大正モダンというか、すこしハイカラというか、扉を開いた瞬間店の中を見渡して見惚れた。

この日の対バン相手は、このツアーの中でもっとも濃ゆいメンツが揃っていた。それも当たり前だった、企画者が深居優治なんだから。

私は心に傘をさしている、彼とはじめて話した時彼はそう言っていた。
他人がどうしても目を逸らしたい痛いところ、寂しさ、悲しさ、孤独を、ここまで表現する人、体現する人、目の当たりにしたあの日身体が硬直するほど衝撃をうけた。

あの日の終演後まじまじと顔を見られそっと「君も心に傘をさしているのね」って言われた時、僕は意味が理解できてなかった。

それから半年くらいで自分に自主企画にも呼べ、そして広島にも呼んでいただいた。

他にも、こうなったのは誰のせいってバンドの界研くん。

そしてこの日の大目玉、岡まことさん。
僕はこの日会うのがはじめてだった。

岡まことさん、は晴れ晴れするほど自分の嫌いな所、世の中に対する嫌悪、そしてそこで見つけた小さな小さな温もりを唄にする人と勝手にイメージしていた。

リハの時点で鼓動が高鳴る、今日はきっとえげつない夜になるぞって。

トップバッター 僕。
少しだけ勇気が湧いていた。
歌うことで自分の居場所を見出せるんじゃないかってこの旅で思ったから。

だから全部、声を枯らす程、全部吐き出した。
あれでよかった。あれがきっと今の僕だった。

界研くん。
僕の一つ歳下、飲まれるほど暗かった。
途中で聴くのが一瞬きついっておもった瞬間があった。その言葉の重みを知っていたから。
時折彼がのぞかせる優しさで少し緩和された気がした。末恐ろしい若者だったよ。

岡まことさん
正直、あっという間に終わっていった。
移入していたんだ。だから写真すら残せてない。感想は言葉になんか今の僕にはできなかった。
ただ、正真正銘のうたうたいだった。

この日の主役
深居優治

この人もあっという間の出来事だったな、でも僕は個人的に、この日、僕が見た中で最高に胸に刺さるライブだった。
この日でこの人の中で色々な物事が変わっていく、そういった覚悟がこの会場を揺れ動かしていたきがする。

終演後。
CDを買ってくれたり、話しかけてくれたり。
暖かった。
旅人を迎えてくれるこの地の人々に本当に感謝の情が湧いていた、溢れるほど。

ヲルガン座と出演者とヲルガン座の鹿に別れを告げ僕はヲルガン座を後にした。

この日は宿がなくて何処かで野宿だった。

最寄りの公園を探す為に直進していたら見覚えのある建物が目についた。

原爆ドーム。

教科書でみた、世界遺産。
少しだけ怖かった、はだしのゲンのせいだ、でもちかくにいった。

この建物が、歴史を語っていた。
川のほとりにあるベンチにしばらく座って原爆ドームを眺めた

気づけばベンチに横たわって眠りについてた。

18歳の僕はきっと原爆ドームの前で野宿するなんて考えてもいなかっただろうなって、そう考えてまもなく意識は沈んだ。

起きたら太陽が出ていた。
今いる自分の場所と、帰る場所はちゃんとわかっていた。



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