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介護じゃなくて、冒険がしたいんだ。『聖塔神記 トリニティトリガー』

 監督の名前で観る映画を選ぶように、発売元で買うゲームを選ぶこともある。私にとっては昨年以降"推し”の会社がいて、その名を「フリュー」という。

 プリクラ機やキャラクタービジネスなどを幅広く手掛けるフリュー株式会社は、家庭用ゲーム事業においても意欲的なオリジナルタイトルを定期的にリリースしていることでも(一部の好事家に)有名だ。往年の名作に携わった著名なクリエイターを集め、現代風のアレンジを加えたそれらの作品は、開発力や予算が充分とは素人目にも言えず荒削りなものばかりだが、プロデューサーの尖ったセンスやコンセプトが作品全体の魅力を牽引する独創的なタイトルばかりで、とくに2021年の『カリギュラ2』は誰もが大なり小なり抱えている「生きづらさ」にフォーカスした世界観やシナリオ、著名ボカロP制作の楽曲を土台としたキャラクター描写が素晴らしく、個人的にはその年を代表するゲームとして今なお周囲にレコメンドし続けている。

 もちろん、開発元がタイトルごとにそれぞれ違うわけで、同じ会社からリリースされたと言っても出される味は全然違うのだが、それでも応援したくなるような企画をどんどん繰り出してくるフリューのゲームは、思わぬ掘り出し物に出会えるのでは?と感じさせてくれる作品ばかりだ。そんな期待と共に購入ボタンをクリックして、数日後に届いたゲームの名は『聖塔神記 トリニティトリガー』という。

 『聖剣伝説3』の結城信輝氏(世界観ビジュアル)と菊田裕樹氏(作曲)、キャラクターデザインに『ゼノブレイド』の風間雷太氏、シナリオに『オクトパストラベラー』の久保田悠羅氏が結集した本作のキャッチコピーは「さぁ、“君らしさ”を見つける旅へ ――― 豪華スタッフが集結して贈る新たな王道RPGが始まる。」とある。ディレクターの礒部たくみ氏も、かつての名作にリスペクトを捧げた令和の新たな王道RPGを目指したと公言しており、90年代のゲームを嗜んできた諸氏なら本作の至るところに『聖剣伝説』の血を感じることが出来るはずだ。

同作は、「古き良きゲーム体験を令和の時代に」を目指したアクションロールプレイングゲーム(RPG)。自身が子どもの頃に親しんだゲーム作品に携わっていた親世代のクリエイターたちに礒部さんは、「令和の今、王道の新作RPGを作りたい」と熱く語り、賛同を得ていった。

山口市出身の礒部たくみさんが初ディレクション 
RPGゲーム「聖塔神記 トリニティトリガー」9月発売

 古き良きゲームの手触りと、令和の王道RPG。そのコンセプトがどう結実したのか、フリュー渾身の新規タイトルは果たして“当たり”なのか。フリューゲームへの独特の熱量を持つファンの一人としての、正直な感想を聞いていただければ幸いだ。

運命を切り拓く、優等生な物語。

その昔 秩序の神々 と 混沌の神々 が
世界の覇権をめぐって争っていた
大きな武器が地上に落ちていき 世界は崩壊をはじめる
そこで各神はそれぞれの代理者 神々の戦士 を選び
その者達の戦いをもって勝者と決めることとした
時は流れ小さな村で静かに暮らしていた青年シアンは
ある日 自分が 混沌の神々 に選ばれた
混沌の戦士 であることを知る
エリス ザンティスとともに
運命に抗う旅へ出るシアンだが
秩序の戦士ヴァイオレットの力に圧倒され
混沌の戦士としての運命を悟る
自分が死ねば、世界に秩序が訪れる――

公式サイトより

 平穏な田舎町で妹と共に日々を営む青年シアンは、ある日自分が神に選ばれた戦士であること、命を狙われていることを知り、事情を知る神官のエリスや敵対する勢力に属するはずのザンティスと出会い、世界に点在する聖塔を冒険する旅に出る―。やがてシアンは旅の最中、自身の出自に隠された秘密や自身に課せられた神の使命を知り、世界の命運を握ることになる。まるでスクエア時代のRPGを思い出させる導入から始まり、次第にスケールが大きくなっていく物語は、まさしく王道のそれと言っていい、模範的な構造になっている。

 序盤から中盤までは聖塔を登る→トリガーと呼ばれる武器を開放する、の繰り返しが単調なきらいがあるものの、中盤以降は世界観やキャラクターの謎が一気に明かされ、一見無個性で波風立たない性格に思えたシアンも自身の運命に苦悩しながら、それでも前向きに未来を切り拓いていく熱い主人公としての振る舞いを見せてくれる。旅の仲間となるエリスやザンティスも、それぞれが「勝ち気な性格と優しさを併せ持つヒロイン」「みんなのお兄さんとして冒険を牽引する」という役割を果たし、毒っ気のないキャラクターは万人に開けた好感度の高い人物像になっていると思う。サブクエストのちょっとしたテキストにおいても彼らの性格が現れた言動がチェックできるようになっていて、物語を進める度に彼らに愛着を抱かせる仕組みは実によく出来ている。

 二柱の神の代行者となって争うといえば『ディシディア ファイナルファンタジー』を彷彿とさせるし、神によって定められた運命に抗い、世界の理に反逆する物語には『ゼノブレイド』のエッセンスを感じる瞬間もあった。ストーリーそのものに奇抜な独自性や斬新さはないものの、「王道」というコンセプトは達成されているし、衝撃的なタネ明かしを矢継ぎ早に放つことでプレイヤーを引き込む中盤以降の展開は素直に楽しむことが出来た。

頼りない仲間、しかし切り捨てられない。

 本作の不満点として挙げられる要素こそ、本作の根幹たるアクションパートだ。『聖剣伝説』を思わせるトップビューの冒険パートは、簡単操作と簡易的なマップゆえに迷うことはないものの、ゲームとしての「楽しさ」を欠いたものに仕上がっているように思う。

 本作は3人のパーティメンバーを自由に切り替えることが出来、得意武器が異なるキャラクターの一人をプレイヤーが操作し、残りの二人はAIが操作してプレイヤーキャラに追従する。非操作キャラも常に一緒に冒険をし敵と闘ってくれるため、「三人」を重視したシナリオを補強する上での実に真っ当なシステムだ。

 敵は弱点となる武器が設定されており、操作するキャラクターや使用する武器を切り替えることをほぼ全編で要求されることになる。8種の武器は必殺技の強さやクリティカル率などで細かく個性付けされており、ボタン連打による三段階の攻撃はそれぞれの段階につき二つのモーションが用意されていて、自分だけの攻撃コンボの組み合わせを考えるのも楽しい。後ろに飛んで敵と距離を取る弓や、振りは遅いが広範囲に攻撃出来る斧など、武器種の個性が敵とのバトルで思わぬ突破口になるため、状況に応じた臨機応変な選択こそが攻略の鍵を握ると言っても過言ではないだろう。

 本作では、攻撃する度にスタミナに相当する「シンクロゲージ」が減少していき、ゲージがゼロになると攻撃力が著しく下がってしまう。時間経過で回復するため、ボタン連打で事が済んでしまうような簡易さは無く、ヒットアンドアウェイを主軸とした戦闘が基本となる。敵の攻撃をギリギリで回避する「ジャスト回避」でゲージが回復する効果が得られるため、あえて敵の攻撃を引き付けて回避からの連撃を叩き込む、といった戦略も重要なテクニックだ。

 さて、「古き良き」を標榜する本作だが、残念ながらその手触りは(少なくとも私にとっては)快適で心地よいものではなかった。自分の世代に宛てられたものではなかった、と言われればそれまでだが、これもまた「王道」と呼ばれる意図したデザインだとして、それでも配慮に欠けている面が本作の魅力を大いに損なうものであることは、言及しなければならない。

 とにもかくにも、本作最大のストレスポイントなのだが、仲間AIがお粗末すぎるのである。攻撃を積極的に行ってくれるので敵の殲滅スピードは早いものの、回避がかなりおざなりで敵の連撃やフィールドトラップにはほぼ丸腰であり、「いつの間にか死んでいた」が多発するバランス調整。一応、非操作キャラは被ダメージが大幅に軽減される仕様があるのだが、それでも数分に一回は瀕死に陥るレベルで仲間キャラは攻撃や罠に無防備であり、プレイヤーは手持ちのポーションを無能なAIに食われる形になってしまう。

 ではいっそのこと操作キャラの一人旅ならどうかと言うと、三人一組のゲームバランスで組まれているためか一人では敵の殲滅スピードが大幅に下がるし、弱点武器を持っていなければボス戦は地獄のような長期戦を強いられる。スリーマンセルを維持することが前提の攻略ゆえにプレイヤーは常に仲間のHPに目を配らねばならず、見えている罠に突っ込んでは被ダメボイスを連発する仲間に呆れ、その上「各ポーションの所有上限が10」「復活アイテムが高価で序盤は中々手が出ない」という嫌がらせのような仕様が襲いかかってくる。仲間に指示を出すコマンドもなく、脳筋の如く一気呵成に攻めてはボロボロになっていく仲間の姿は、ストーリーパートで培った好感度も一気に冷え込んでいくものがあった。これでも体験版から改善されたというのだから、恐ろしい。

 一ダンジョンで回復薬が枯渇しては補充する、の繰り返しを余儀なくされる本作だが、それと同じくらい頭を痛くさせたのは装備の仕様。「マナタイト」と呼ばれる装飾品は同時に攻撃系が3つ・防御系3つの同時6つが装備でき、攻撃力や最大HPなどを上げる他「クリティカル発動でシンクロゲージ回復」「敵を倒すとHP回復」などポーション介護の負担を軽減する実に有用な効果が揃っている。

 ……のだが、なんとマナタイト装備は武器ごとに個別管理となっており、キャラクターに依存する形ではない。つまり、キャラクターを快適に運用しやすい形にするためには「武器を変更する度に手動で付け替える」か「キャラクター×武器種分のマナタイトを用意する」の二択しかない。装備のプリセットや現状の装備をそのまま他の武器種に付け替えるといった便利機能もなく、そもそも敵の弱点に応じて武器を切り替えるという本作の仕様と全く食い合わないストレスだらけの仕様となっている。

 一応擁護しておくと、本作は難易度が高いゲームではなく、基礎の取っつきやすさもありクリアまで到達することは困難ではない。リトライを繰り返す際の救済措置もあり、その点においては気配りがなされている点も言及しておかねばならない。

 しかし、探索や戦闘を快適に行うためには、常に枯渇の危険性を孕むポーション類の在庫とにらめっこしながら味方のHPに注意を払い、敵の弱点を見極め武器種を切り替える際に有用なマナタイトを装備しているかを都度確認せねばならない。その一方で「ボス敵は弱点武器でアーマーを削りきらないとダメージが通らない」こととシンクロゲージの仕様の噛み合わなさによって生じる待ち時間、膨大なHPをガリガリ削る爽快感を取り上げられた戦闘は、終盤に近づくにつれ楽しさよりもモヤモヤが勝るようになっていく。

 ゲームを楽しもうというこちらの気持ちに一々「待った」をかけられる気持ちが、どれだけ辛いものか、という声は届くのだろうか。これを「昔のゲームってこうだったよね」という気持ちを共有できない自分は、本作のターゲット層ではないのだろうか。推しからの供給と自分の好みがかち合わなかった悲しみと共に、私の『トリニティトリガー』の冒険は終わった。楽しくなかったわけではないが、抱きしめたくなるようなタイトルにも思えない。そんな侘びしさが募る師走の午後、本作をそっと本棚に戻した。

 

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