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究極の生殺し『ガールズ&パンツァー 最終章 第1話』

 茶道・剣道に並び「戦車道」が乙女のたしなみとされる日本を舞台にしたアニメ『ガールズ&パンツァー』の最終章がついに始動。その狂ったあらすじからは予想されなかった王道スポ根ドラマ、あるいはダイナミックな映像と戦車の挙動を両立させた戦車戦に魅了された者が後を絶たず、2015年公開の『劇場版』のその後を描く最後の物語が、全6話にて劇場公開と発表され、その第一話がついにお披露目と相成った。廃校の危機から母校を救った大洗女子学園戦車道チームは、何のため再び戦車に乗るのか。その激闘の末に待ち受けるものとは何か。通称「ガルパンおじさん」と呼ばれるファン全員が待ち望んだ最新作を、『劇場版』から入園した新参おじさんが、自分なりの長文で迎え撃ってみよう。

【桃ちゃん危機一髪】

 激戦の果てに母校を廃坑から救った大洗女子が、今回は何のために戦うのか。その動機については事前に明かされていなかったため、我々ファンも劇場で初めてそれを知らされる形となった。生徒会メンバーでありながら、会長の杏に頼りがちで泣き虫の桃ちゃんこと、河嶋桃。しかし、学園を愛する気持ちも人一倍強く、『劇場版』では杏が廃校撤回の手回しをする中、その不在を埋めるべく生徒たちの先頭に立ち、みんなをまとめ上げる根性も兼ね備えている。戦車道の成績も決して優秀とは言えないものの、生徒会メンバーとして戦車道復活を指揮した彼女の功績も大きく、廃校阻止が決まった瞬間の涙は達成感と安堵ゆえのものだったに違いない。

 そんな愛すべき桃ちゃんを救うべく、大会優勝を導いた隊長として華を持たせようとするみほ、そして戦車道チームの心意気には、先輩を立てようよいう部活動イズムが感じられる。もちろん、ただ傀儡隊長として進学を決めるのであればそれは単なる甘やかしであり、河嶋桃自身の隊長としての度量が試されてしかるべきとは思うものの、巣立ちゆく先輩のために一丸となって戦うことに疑問を挟む者のいない戦車道チームの姿勢に、彼女の人徳が現れているような気がしてならない。第2話以降の成長物語に期待が寄せられる。

【新章は新しいものだらけ】

 「無限軌道杯」勝利のため、桃が秘密裏に行っていた学園艦内に眠る戦車の捜索を引き継ぐ新生徒会ことあんこうチームの面々だが、学園艦の地下には船舶科の生徒が支配する無法地帯が広がっていた。学園艦地下のバー「DONZOKO」を拠点とする、お銀をはじめとする5人のキャラクターが、新たに戦車道に加わることに。スケバンを思わせる衣装を身にまとい、コンセプトは「海賊」という新機軸を持ち込んだサメさんチームの参戦は、大洗にとって強力な新戦力と成り得る……かもしれない。

 対する第一回戦の相手は「BC自由学園」。フランスをモチーフとした優雅なお嬢様学校ですが、中高一貫によるエスカレート組と受験入学組との内乱状態が続いており、チームワークはてんでバラバラ。隊長のマリーはその争いに我関せず、いつもケーキを美味しそうに頬張る女の子ですが、その実力は未知数。

 大洗が優勝したTVシリーズ時の大会では一回戦敗退となった実績に加え、恒例の秋山優花里潜入レポートでも露見した団結力の欠如。大洗はそれを突いてフラッグ車を包囲する作戦に出るも、そこに敵軍の秘策が立ちふさがる。形勢逆転しピンチに陥る大洗女子。よもや一回戦敗退となってしまうのか、と思わせる引きで第1話は終了

【ガルパンはやっぱりいいぞ。だがしかし…。】


 事前に全6話とアナウンスされていたものの、今回の第1話ではBC自由学園との戦いの全貌が描かれるわけではなく、公開時期未定の第2話までお預けとなることに。この幕引きに関しては、賛否が別れたのではないだろうか。充分面白かったから第2話が早く観たい、尻切れトンボで物足りない、などなど。

 そう、「物足りない」。第1話では舞台設定(戦う動機の説明)と新キャラクターのお披露目を第一幕に、BC自由学園との決戦の一部が第二幕に置かれており、それらを47分という尺で走り抜けた。本編尺はTVシリーズ2話分に相当するため、今回は『ガルパン』2期の幕開けとしての印象が強く、全12話のTV放送が全6話の劇場公開に置き換わったものとして感じてしまったこともまた事実。

 無論、戦車戦については『劇場版』に引けを取らないクオリテイと密度で描かれており、キャラクター描写や至る所に隠された小ネタなど日常場面も情報量がとにかく多く、『ガルパン』に求められるものは概ね満たされている。劇場の大スクリーン・大音響で味わうべきなのはもちろんのこと、ファンサービスまで行き届いた「面白い」一作なのは揺るぎようがない。

 だからこそ、充分に「面白い」ために「もっと観たい」という欲求を刺激され、結果として「物足りない」と感じてしまう。『劇場版』のように単体で完結するフォーマットではないことはもちろん承知の上ながらも、本作単体では一本の映画としては評価しようがなく、諸手を挙げて「いいぞ」と言えるのはまだ先の話になるだろう。文句なしで面白いために不満が残る、という不思議な現象を巻き起こす第1話。そのしこりが解かれるであろう第2話はいつ観られるのか。ガルパンおじさんたちにとって長き飢えに耐え忍ぶ日々にならないよう、早期の公開を望むものであります。…頼むから早く見せてくれ!!

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