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FEを遊んだことがない人に『ファイアーエムブレム エンゲージ』を薦めてみる。

 『ファイアーエムブレム エンゲージ』をクリアした。難易度はノーマル/カジュアルでDLCは未購入、外伝も網羅してクリアまで40時間。購入の経緯は前回の記事をお読みいただくとして、人生初のファイアーエムブレム(以下、FE)を本作に捧げたわけだけれど、初心者救済要素を全部用いても「手ごわいシミュレーション」の歯応えが最終ステージまで続く、丁寧な調整が施されたゲームという印象。迫りくる大勢の敵を戦略で捌いていく快感と、逆に手詰まりになった際の緊迫感。その両方を程よく味わわせてくれた『エンゲージ』は、年明け早々に忘れがたいゲーム体験になった。

 前回の記事が「上田麗奈ファンのフォロワーを刺す」方向に舵を切った、なんだかふざけた内容になってしまったので、反省も兼ねて今回は真面目に感想を書いていこうと思う。FEシリーズを一切遊ばずして『エンゲージ』に手を付けた人間なので、同じ境遇の方や購入を検討している初心者の背中を押せたらと思うし、FE経験者の方には釈迦に説法にしかならないだろうけれど、暇つぶしにお読みいただけると幸いだ。

ライトな作風と遊びやすさの両立

 『ファイアーエムブレム』シリーズは任天堂が販売、インテリジェントシステムズ開発により代々続いてきたシミュレーションRPGの代名詞の一つ。最新作『エンゲージ』は過去作に登場したキャラクターたちを「紋章士」と呼び、彼らの力が封じ込められた指輪を付けることで今作のキャラクターと過去作の英雄たちが共闘する、オールスターものの側面を持つ作品だ。故にFE初心者をターゲットにしていないのでは?と思ってはいたが、結論としては「FEを知らずとも置いてけぼりにされない」程度には今作のキャラクターや世界観、物語は魅力があるものであり、本作を遊ぶためにシリーズを縦断する必要はない、とまで言ってしまいたい。

 また、FEは、ひいてはシミュレーションRPGは難しい、という印象を抱く方も多いだろう。とくにFEの特徴を決定づけたとされる、戦闘でHPが尽きたキャラクターは戦死扱いとなり、以降使えなくなってしまう、という「ロストシステム」は、個人的にはこのシリーズを手に取ることを躊躇わせるほどに有名だ。パーティ全員の命が自分のプレイングに左右されるという重圧は、無傷で戦況を切り抜ける強い動機になるのだと理解しつつ、そのハードルはとても高いように感じられた。

 ところが、それはもう時代にそぐわないという判断なのか、近頃のFEシリーズには「カジュアル」という難易度設定があり、たとえHPが尽きてもキャラクターがロストすることなくゲームを進行させることが出来る。手塩にかけた仲間を失うのは辛いものがあるし、兵士の数が足りなくなれば最悪ゲームそのものが詰みかねない。そうした心配事から解放される「カジュアル」は、本作でFEデビューする方にはうってつけのシステムと言える。もちろん、従来通りの戦死扱いで兵をロストする「クラシック」も搭載されており、プレイングに自信のあるFE経験者はこちらを選べば緊迫感に満ちた戦闘が楽しめる。

こいつは手強いシミュレーション

 兵士の喪失の有無をプレイヤーに選ばせることで、もう手を緩める必要はないぞということなのか、本作は中々に硬派な難易度のゲームだな、という印象を受けた。

 シリーズ伝統の「三すくみ」はダメージにおける有利/不利に大きく影響するが、今作はそこに「ブレイク」という要素が追加されている。武器相性の弱点を突かれた側はそのターン中相手に反撃が出来なくなる、というものだが、これが戦闘においてキモなのだ。

 FEの戦闘における必勝法とは、つまるところ「被弾せず、攻撃し続ける」という、究極的にシンプルなものに行きつくと思う。そのために回避や防御に関するパラメーターを上げるのも王道だが、ブレイクはそれらと同じくらい重要視すべき要素だ。こちらがブレイクを突いて敵の反撃を抑えつつダメージを与えられる状況なら問題ないが、その逆は大問題。反撃が出来ないということは、敵に対する殲滅力が大幅に落ちることを意味するからだ。

 こちらがステータス上優勢ならば、こちらから攻撃するだけでなく反撃だけでも敵を倒すことも珍しいことではなく、一気呵成に攻めてきた敵が返り討ちになる様は見ていて爽快だ。では、自陣がその立場になったらと思うと、青ざめる軍師も多いだろう。愛すべき仲間がブレイクを受け、なんら抵抗できないままタコ殴りにされるなどすれば、わずか1ターンで陥落することもあり得る。

 して、本作のAIは三すくみを重点的に突くようデザインされており、攻撃範囲内にブレイクを狙える相手がいれば率先して狙いに来るよう動き回る。たとえ自ターンで敵を一体殲滅しても、安心してはならない。周囲にどんな武器を持った敵がいて、どれだけの攻撃に耐えられるのかを常に思考しないと、屈強な仲間もあっと言う間に撤退させられてしまう。どんなに強化したキャラクターであっても、一騎当千の働きが出来ないようゲームがデザインされているのはジャンルとして正しく、本作の手ごわさを示す的確な調整具合の証左なのだ。

 そうした構成の中で本作が巧いのは、時間を巻き戻して行動を再選択することが可能、という点にある。プレイヤーの実力に応じてCPUの能力を下げるのではなく、行動を選びなおすチャンスを与える。前に突出しすぎた兵を後ろに下げてみる、あるいは回復の優先順位を変えてみる。そうすれば敵も先程とは違った行動を取り、これが勝敗に大きな影響を及ぼすこともある。小さな変化が大局を揺るがす様子を俯瞰して見ると、まるで「バタフライ・エフェクト」を演出したような、不思議な感動がふいに襲ってきた。

 巻き戻しによるトライ&エラーは、プレイヤーの練度の上達にも紐づいている。自軍をどこまで前進させるか、相手の攻撃を誰に受けさせるか。選択の数だけ結果が生まれ、結果の集積が勝敗を分かつ。わずか1ターンの攻防が後に尾を引くこともあるため、プレイヤーは常に最適解を思考しなければならない。その重苦しさはロストシステムと合わさることでより重責になっていくわけだが、巻き戻しという救済に手を伸ばせば本作は一気に詰将棋に様変わりする。自分に有利な状況をコーディネートする思考が出来るようになれば、その人は立派なファイアーエムブレム適合者だ。

勝てるようになるための考え方

 釈迦に説法の度合いがどんどん上がってきているのだが、シミュレーションRPG弱者の自分が少しずつ勝てるようになった際の気づきを、何かの参考になればと思い書き記してみる。

 まずは何といっても、自キャラを孤立させないこと、これに尽きると思う。始めたてのころは敵を素早く倒そうと、移動力に長けたキャラクターを前進させ、敵陣に突っ込むようなプレイングをしていた。ところが、先手を取ったはいいものの、他の敵に囲まれてすぐに撤退、という悲しい事故を何度も引き起こしてしまった。

 なので、いくら移動力があってもまずは他のキャラクターと足並みを揃え、誰一人孤立させないことが重要なのだ。逆に相手をその状況に持ち込めば有利なので、「誘い込む」という意識を働かせると、これがまた気持ちよくハマる。あえて敵に近づき、しかし敵の攻撃範囲には入らないギリギリで待機し、近づいてきたところを狩る。こちらが攻撃できる間合いでもあえてそうせず、敵の接近を待つ。1ターンの我慢で有利を引き寄せる思考は、序盤から終盤までずっと有効であった。

赤いラインは「攻撃範囲に入っていますよ」という警告。
これを意識してどこまで前進するかを考えていこう。

 そしてもう一つは、回避の精度を上げること。先述した通り、FEは「被弾せず、攻撃し続ける」ことが出来るヤツが最強なのだ。そして被弾しないためには何よりも回避、一に回避二に回避である。

 ダメージを防ぐなら防御でも同じことが言えるが、回避率が高い者は攻撃にも転じられる。回避に紐づく重要なパラメーターが「速さ」なのだが、この値が敵よりも5以上高い場合は「追撃」を発生させることが出来、実質二回攻撃が可能なのである。すなわち、回避率が高い=速さのステータスが高い=追撃が発生しやすい、ということになる。敵を効率よく倒すためには、まずは「速さ」、そして「回避」である。元より速さのステータスの伸びが低い者は、マルスの継承スキルがオススメだ。敵の攻撃を受け流し、殴り続けろ。

オールスター“しすぎない”ストーリー

 戦闘については多岐に渡る育成要素、ジョブとエンゲージの相性など語りつくせない程あるが、初心者の方に一気に情報量を浴びせるよりは「気になったら攻略サイトとか読んでみてね!」みたいな軽さで手に取っていただきたいので、この辺にしつつ、ストーリーについても少し触れてみたい。

 本作では過去のFE作品の主人公格のキャラクターが紋章士として登場し、一緒に戦地を駆け抜ける仲間として「エンゲージ」することが出来る。反面、過去作を遊ばずして本作を遊んでいいのか?という不安を抱く方もいるかもしれない。であれば、私はこう返すであろう。全然大丈夫だよ、と。

 まず、本作のストーリーや世界観は過去作とは独立したものであり、地続きの前作も存在しないため、『エンゲージ』単体で物語を充分に味わい尽くすことが可能なのだ。主人公も続々と参戦する仲間たちもみんなみんな「はじめまして」であるし、剣と魔法と竜が登場するファンタジーの王道を往く世界観かつ、独自の用語でけむに巻かれることもないため、ゲームを始めてすぐに『エンゲージ』の世界に没入することができる。

 エンゲージできる紋章士=過去作主人公たちも、基本的には敵味方で奪い合う重要アイテム的な扱いであり、彼らの素性を知らなくともストーリーの理解に詰まることは一切ない。むしろ、紋章士のことを知って過去作に目を向けるのもいいし、スマブラでおなじみのあの人も登場するので、「知っているようで知らない人」の距離感の人と共闘しいつの間にか愛着が湧く、なんてことも。そんな紋章士と手合わせする「外伝」という寄り道戦闘があるが、そこでの主人公との短い会話は(おそらく)彼らの出演作を踏襲したものになっており、絆会話と併せて彼らの人となりを知るいいきっかけになるだろう。

(故に、FEシリーズの一部の作品を現在、配信などで気軽に遊べない環境にあることは、勿体ないなぁと、素人目にも思うわけだ)

筆者余談

 本作のシナリオを言い表すなら、「特撮ヒーローもの」が一番近いかもしれない。かつて戦記モノとして戦争と死を扱ったFEだが、本作はアニメナイズされたキャラクターたちが繰り広げる個性のぶつかり合いが戦闘と戦闘の合間に繰り広げられ、物語の縦軸はアツくて王道。そもそも、過去作のヒーローの力を借りて闘う戦士、と言えば近頃の仮面ライダーやウルトラマンに通じるものがあるし、劇伴も相まってエムブレム・エンゲージのシーンは「変身」と言い換えても違和感のないテンション。奇抜な性格に思えたキャラクターも、死線を潜り抜ける中で愛着が湧き、手塩にかけたスタメンメンバーが総力を結集させてラスボスに立ち向かう、王道ド真ん中のシチュエーションに向けて物語が加速していく、その熱をぜひ体感してほしい。

 ネタバレをせずに語るのはこれが限度だが、もう一つアドバイスを加えるとするなら、「これを実況動画で済ませるのは勿体ない」ということだ。主人公リュール(デフォルトネーム/変更可能)と仲間たちの旅路を見つめるプレイヤーにとって、彼らはかけがえのない家族のようなものだ。何せ、自分自身がその命を握っているからであり、彼らを最終決戦の場に連れてきたのも自分なのだ。その実感があってこそ最大限にエモーションが高まる終盤のある展開は、自分で戦い抜いた、という実感が最高のスパイスになるだろう。本作に限ったことではないが、ゲームをクリアするということは自分のプレイングの集積だ。その集大成を最大限楽しむなら、やっぱり自分で努力するに限る。そんな当たり前を思い出させてくれるくらいの、とても達成感のあるエンディングであったことをご報告したい。

最後に

 購入の動機こそ不純だったが、いざプレイを始めれば睡眠時間を削ってしまうほどに熱中してしまった。戦闘開始時の圧倒的戦力差を覆すのは楽しくて、お気に入りのキャラクターのレベルが上がれば嬉しくなってしまう。決して難易度の低いゲームだとは思わないが、動かし方を変えれば結果も大きく変わり、試行錯誤を繰り返せば苦境を好転させられるゲームバランスはシミュレーションRPGに対する苦手意識をかなり薄めてくれた。

 ロードの回数やUIの細々とした不満など物申したい部分もあれど、戦闘時のモーションの滑らかさや早送りなど快適さにかなり気を遣ったと思われ、それらは辞め時を見失わせるほどのプレイフィールを与えてくれた。そして何より、「もっとファイアーエムブレムを遊んでみたい」という気持ちが芽生えたことが、自分にとっては最大の変化だと言える。仲間を失うリスクを背負えるかはわからないが、「カジュアルな」ファイアーエムブレムならば楽しく遊べるような気がしている。シミュレーションRPGに慣れ親しんでいない方も、ぜひ一度購入を検討してみてほしい。

 では、次は『風花雪月』をプレイしてみようかな。フォロワー曰く“シナリオ100点道徳0点”の、風花雪月を―。

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