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アクションの手触りって、大事よね。『LOST EPIC』

 アクションゲームを気に入る決め手は人の数だけ存在するとして、私にとってのそれは「手触りの良さ」である。キャラクターを動かすだけで楽しいか、操作のレスポンスにストレスがないか、こちらの攻撃や被弾に手応えを感じられるか。当たり前のように思えるかもしれないが、案外この手の感覚を蔑ろにするタイトルを見かけるし、個人の感覚ゆえに万人に共通するものではないにせよ、AAA級タイトルであろうがここを外されると個人的には"not for me"になってしまう。ずっと楽しみにしていたゲームの体験版が“コレ”だった時の絶望よ。

 その点で言うと、直近で遊んだタイトルの中に満点を叩き出したゲームがあり、その名を『LOST EPIC』という。インディーゲーム界において前作『EARTH WARS』がすでに高い評価を得ている「Team EARTH WARS」による最新の横スクロール2D探索アクションゲーム。安価で手に取れて、それでいて遊びごたえと見た目のゴージャスさを兼ね備えた本作は、メジャーなスタジオのゲームにも負けず劣らずの爽快感で止め時を見失わせてしまった。こういう快作に出会える瞬間は、たまらなく嬉しい。

 本作は、複数のエリアで構成される地続きの広大なフィールドを探索する、メトロイドヴァニア風味の2D横スクロール型アクションゲーム。道中の大部分を費やすことになる戦闘については、弱と強攻撃、ジャンプにパリィ、5つのスロットに自由に設定できる必殺技「シンギ」を組み合わせて、複数の敵と対峙する。武器種は片手剣・大剣・弓の3種と基本のモーションこそ少ないが、シンギはかなりの数が用意されているため、通常攻撃とのコンボを考え出すと無数に近い組み合わせが目の前に広がり、単調さを感じさせることはないだろう。

 強調して語りたいのが、この戦闘の「手触り」について。本作はここの勘所を押さえた作りになっていて、プレイヤーキャラの動きは軽快だし、斬撃やパリィのSEは派手で、クリティカル攻撃や致命的な一撃を当てた際に画面がアップになりヒットストップが発生するなど、かなり爽快感を重視したアクションに仕上がっている。

キャラクターデザインは
『Fate/Grand Order』『アズールレーン』などに
携わったNamie氏。

 先述の通り弱と強攻撃は武器種由来のモーションだが、プレイヤーごとに個性を反映させることが出来る要素として、必殺技の「シンギ」がある。シンギは強力な攻撃技で、発動後はクールタイムがあり連発こそ出来ないが、待ち時間は短く設定されているため、わりと気軽に打てるので安心してほしい。片手剣なら敵を打ち上げたり、弓なら自動攻撃するビットを発生させたりと、コンボを繋げたり自身の攻撃能力を強化するなどといった様々なプレイスタイルに対応する。地上専用と空中専用のものがあり、何気なく装備したシンギが思いもよらぬシチュエーションで活躍することもあって、あれこれ付け替えて悩む時間も楽しいものだ。

 シンギのもう一つ重要な要素が「カウンター」だ。敵が特定の攻撃を発動する際、黄色の「!」アイコンが表示されるのだが、その攻撃モーションにシンギを当てると大ダメージを与え、かつ敵の体勢を崩しさらなる攻撃のチャンスが与えられる。ゲームの標準となる難易度設定では敵の攻撃が過密でしょっちゅう撤退させられるバランスであるため、敵の攻撃を見極め適切にカウンターを与えていくことは攻略の必須となっていく。瞬時に発動できるシンギを一つ加えておくことで、生存率は跳ね上がるだろう。

 こちらのカウンターは敵に大ダメージを与える爽快感もさることながら、画面いっぱいに広がるエフェクトとSEが気持ちよさを倍増させるため、ついこちらもカウンター狂になってしまう。相手の苛烈な攻撃を避け、パリィで凌ぎ、黄色い「!」が見えるやいなやカウンターで一気に形勢逆転!のカタルシスは病みつきになる中毒性を孕んでいる。ボス敵はもちろん、道中の雑魚敵にもこのカウンター要素が用意されているため、“戦闘の”爽快感はゲームを始めてからクリアするまで、一時も損なわれることがなかった。これがゲーム全体の満足度に直結していると言っても、過言ではないはずだ。

スクショが間に合わなかったため、PVから拝借。
これがマジで気持ちいい。

 本作の戦闘は、脳死のボタン連打で何とかなるような、軟派なゲームではない。ボス敵との闘いの険しさはもちろん、複数の雑魚敵が実に嫌らしいタイミングで波状攻撃を仕掛けてくるし、ゲームの後半からはこちらにダメージを与えるようなステージギミックもあるため、いつの間にか瀕死になっていた、ということが多発するかなりハードなデザインになっている。

 体力が尽きると、レベルアップや装備品の強化などに使用するゲーム内貨幣の「アニマ」をその場に落としてしまう。そしてアニマを回収するまでに再びHPが0になると、そのアニマは失われてしまう。いわゆる『ソウル』シリーズでおなじみのシステムが導入されており、一度死んでソウルを回収するまでの戦闘はより慎重にならざるを得ない。難易度設定があるため間口は用意されてはいるものの、カウンターやパリィのように反射神経を求められる戦闘バランスゆえに、アクションが苦手な方への入門としてはオススメできないハードなゲームなのだ。

 また、冒険するフィールドは初めこそわかりやすいが、中盤からは水中ステージや暗闇の中を探索することを要求され、探索や移動の制限が楽しい戦闘に水を差す作りになっているのは、 正直なところかなりのストレス要因であった。探索の単調さを緩和するべく、メトロイドヴァニアならではのバラエティ豊かなステージが用意されてはいるものの、意図せぬ落下や迷子を誘発するような意地悪な仕掛けが多く、戦闘以上に詰まりやすいと感じられる瞬間さえもあった。

マップの拡大率が足りておらず、
導線がアイコンに隠れていて先に進む道を見つけられずに
一時間ほど彷徨ったことも。

 個人的には、アクションの爽快感と歯ごたえが刺さる作品であったため、フィールドにそれらの邪魔をさせられると、どうしても士気が下がってしまう。……これって、メトロイドヴァニアに抱いて良い感想なのだろうか。というか、『メトロイドプライム』しかクリアできた試しがない私は、この手のジャンル向いてないのではないだろうか。

 何はともあれ、最初のエンディングまで10時間弱、最強武器やサブクエスト埋め、真エンディング到達といったやりこみ要素に手を付ければ、20から30時間は遊べるであろう、驚異的なコストパフォーマンス。『ドラゴンズクラウン』を彷彿とさせる色合いや景観のグラフィックの鮮やかさ、そしてスピーディで白熱するバトルなど、あらゆる要素が高品質で出来の良い、優等生のようなゲームであることは間違いない。

 インディーゲームにお宝が眠っているとはよく聞くけれど、これだけ“仕上がっている”と、インディー=安かろう悪かろうと思い込んでいた数年前の自分が、いかに愚かだったかを思い知らされる。2Dアクション×ソウル×メトロイドヴァニアが融合した快作、「動かすだけで楽しい」を求める、腕に自信のあるゲーマー諸氏にぜひオススメの一本だ。

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