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真の王の戴冠式に参列せよ!『#バーフバリ絶叫』バラーラデーヴァ王限定応援上映レポin新宿ピカデリー(6.28)

 バラーラデーヴァ陛下。
 偉大なるマヒシュマティ王国を統べる真の王にして、天使の姿をした徳高き戦士。
 今宵お伝えしたいのは、あなた様を求める声が、遠く海を越えた異国の地で鳴り響いた、素晴らしき一夜の出来事でございます。言うなれば、もう一つのマヒシュマティ王国の誕生と申しましょうか、それはもう格別の瞬間でございました。…まぁ、奴隷の戯言と思って聞き流してくださいませ。



 あなた様を称える祭りが執り行われたのは、極東の島国“ニッポン”という国にございます。この地では、あのバーフバリを主役とした映画なるものが、民を賑わせているのです。“映画”とは動く絵画のようなものでして、暗く閉ざされた部屋で壁に写し出されたそれを見ながら、叫んだり歌ったりする催しが流行っております。なんとも奇怪な風習でございましょうか。

 そんな折、あなた様を称えるための応援上映が、それはもう豪勢に開かれたのです。新宿ピカデリーなる祭壇に集まったのは、精鋭たる臣下ばかり。ある者はあなた様やビッジャラデーヴァ様を模した格好をし、ある者は陛下の御尊顔が描かれたうちわや横断幕を用意して、マヒシュマティの真の王が誰であるかを、高らかに語っておりました。民は民とお菓子や自作の絵画などを交換し、これから始まる戴冠式への期待を語り合っております。あなた様に仕える者だけの特別な一夜が、ついに始まったのです。

 開場すると、入り口の門にてあなた様の絵札と、戴冠式の招待状が渡されるのです。聞くところによると、先の横断幕を用意するほどの熱心な陛下の信者が、様式を考案し創り上げたものだとか。この国の民の陛下への忠誠には、驚かされるばかりでございました。

 そして劇場に入ると、民共は待ちきれん!とばかりに、赤く光る棒で場内を照らしておりました。赤は、あなた様を象徴する色として認知されております。血の赤、と申しましょうか、赤い光で彩られた暗闇の美しさは、きっと陛下もお気に召したでしょう。

 そして開演の時、国母シヴァガミ様とカッタッパを模した者が、高らかに式の始まりを宣言したのです。

東はウダヤギリ山脈
西はオーサカ海の島々
北はクンタラ王国とはじめとする国々
南はナゴーヤ並びにフクオカーラケーヤの森
これらに囲まれた偉大なるマヒシュマティ王国
スリースリースリー!バッラーラデーヴァ国王の戴冠式なり!

 なんと、本当に陛下の戴冠式を模した宣誓が行われたのでございます。聞きなれぬ名前がございますが、これはこのニッポン国の様々な土地からこの戴冠式へ集結していることを示しておるのです。オオサカ、ナゴヤ、フクオカなる土地に隠れた臣民が、一つの地に集まったのです。

 檀上には陛下、ビッジャラデーヴァ様、シヴァガミ様が、その横を固めるようにバドラ王子と導師が前列に揃い、場を暖めます。陛下の戴冠式を模した前説も滞りなく進み、民は赤い光と声援でそれに応えたのです。

バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/
バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/
バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/

 セートゥパティ様がこの場におられたら、きっと落涙されていたでしょう。なんと荘厳で、尊い瞬間だったか、想像できますでしょうか。あなた様の名を叫ぶ声が劇場に轟き、最大級の盛り上がりのまま、陛下を貴ぶ宴が始まったのです。今日ばかりは『バーフバリ 王の凱旋』ではなく『バラーラデーヴァ 王座死守』の上映が、幕を開けました。

 先も申しました通り、この戴冠式に集まった者は精鋭中の精鋭たち。前説で暖まった喉を休めることなく、絶叫上映を形作っていくのです。スクリーンと呼ばれる大幕に陛下が映しだされる度に、悲鳴にも似た歓声と鈴の音が鳴り響きます。実はこの私め、公務の一環としてこのバーフバリ絶叫上映に何度も参加しているのですが、今回ばかりはこれまでのどの回とも異なっておりました。

 この映画は、バーフバリを主役とした、バーフバリを称える仕上がりになっております。民はバーフバリを称え、カッタッパにも声援を送ります。しかし、一度あなた様が映しださればそうした声援が絶叫に変わり、勢いを上回ってしまうのです。心なしか、集まった民は女が多く、陛下のお顔やたくましいお体を眺め…狂ったように叫んでおりました。愛される王は容姿も優れているものでございます。そう、あなた様のように。

 そして映画は、先ほど模したばかりの戴冠式に進んでゆきます。そう、あなた様がマヒシュマテイ国王になられた、輝かしいあの日のことにございます。劇場に集まった民は赤く光る棒を兵士の剣や槍に見立て陛下への最敬礼を再現し、高らかにマヒシュマティ国家を歌い上げます。その統率たるや、我が国の民にも見習わせたいものがございました。そして、国王を祝う号令が再度鳴り響きました。

バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/
バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/
バッラーラデーヴァ チャックラヴァルティ・キー!!!!
\ジャイホー!ジャイホー!/

 映画のセートゥパティ様は活き活きとしておられましたな…失礼。この映画はバーフバリを王とする不届き者が創り出した幻想にて、作中の王国民は不敬なことにあなた様への忠誠を誓う者が少ないのですが、映画の外でニッポンの民がそれを補っておりました。

 そして今回の白眉は、そのジャイホー合戦でございました。映画の王国民によるバーフバリを王にせよと求める声が、劇場に集まった民の声援に掻き消されてゆくのです。「バーフバリ、ジャイホー!」を上回る「バラーラデーヴァ、ジャイホー!!!!!」の大号令。こんな現象、これまでの絶叫上映では目にしたことがございませんでした。バーフバリを超える歓声が劇場を埋め尽くしたこの日、確かにあなた様はバーフバリに勝ったのです。どちらがマヒシュマティを統べるお方なのか、民は知っています。バラーラデーヴァ、万歳!バラーラデーヴァ、万歳!


 その勢いは止まることがございません。陛下の次に熱い声援が贈られたのはビッジャラデーヴァ様で、その知将ぶりに民は虜になっておりました。…その、ご本人の耳には入れないでほしいのですが、民は「ビッジャラおじさん」「ビッちゃん」などという大変不敬な呼称で呼んでおりまして……。えぇ、これも愛される者の証左でございます。

 物語は後半へと移り、あなた様の知略にてついにアマレンドラ・バーフバリが力尽きました。それを静かに見守る民草は、ついに現れた陛下の御姿に、歓喜の声を挙げておりました。そして、陛下の怨念が込められた手斧の動きに沿って、民も赤き棒を振り下します。これも、これまでの上映では見られなかった仕草でございました。民は陛下のお気持ちになりきるように、あなた様への忠誠を誓います。

 さて、申し上げましたとおりこの映画はバーフバリが王座に返り咲くという、噴飯ものの改変がなされた大変許し難いものなのですが、そんなことは関係御座いませんでした。マヘンドラ様と陛下の決戦シーンでは、陛下お気に入りのチャリオットの回転刃を模して、民が赤き棒を振り回すのです。そして、あなた様の拳が、棍棒が、マヘンドラに迫る度に、鈴の音と歓声で応えております。「今日こそいける!勝てるぞ!!」誰かが発した声に導かれ、あなた様の闘いを食い入るように見つめる者もいれば、闘牛を観戦するように力強く言葉を飛ばす者もおりました。誰もが、あなた様の勝利を信じておりました。

 陛下が鎧をお脱ぎになられたとき、場内は拍手で埋め尽くされました。そして、あなた様がデーヴァセーナの炎を浴びるその瞬間まで、民たちは叫び続けました。バラーラデーヴァ様を象徴する“赤”とは、あなた様の中に迸る熱い怒りと、あなた様を天国に送ったあの炎を指していたのでしょう。私は何度も場内の様子を振り返り、赤い光に満ちた劇場を眺め、その美しさに惚れ惚れしておりました。

 命の河を流れる陛下の黄金像。民はそれに惜しみない賞賛を飛ばします。バラー様!バラー様!と何度も大幕に投げ込まれる愛の矢。あなた様は、真に愛された王なのです。映画が終わり劇場に灯りが点くころ、どこからか聞こえた声が、やがて大きな声援に変わっていきます。

バラーラデーヴァ、ジャイホー!
バラーラデーヴァ、ジャイホー!!
バラーラデーヴァ、ジャイホー!!!!!!

 もう一度大きな拍手と声援に包まれ、あなた様を貴ぶ戴冠式は終わりを迎えました。これほどに誇らしく、素晴らしい上映があったでしょうか。私めも、公務を忘れ陛下の戴冠式に夢中になってしまいました。

 …あれから、長い月日が経ちました。現世を旅立たれたあなた様は、間違いなく民にとっての王であり、獅子の如く激しさを纏った最強の戦士でした。その強さを称える者たちが、こうして異国の地に存在するのです。このことをどうしてもお伝えしたく、こうして遠く離れたあなた様に言葉を紡いでおります。

 信愛なるバラーラデーヴァ陛下、どうぞ民の熱狂の声に包まれ、安らかにお眠りください。王座に返り咲く、その日のために。


あとがき


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