ロードエルメロイ2世-890x500

『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』一風変わった謎解きの果てに、海を見る。

 Fateシリーズは本当に幅広く、今度はミステリーで、主人公は成長したウェイバー・ベルベットだというから驚いた。原作は三田誠による小説で、今回のアニメは『Zero』のその後の物語であることが明示されており、音楽も梶浦由記が続投という気合いの入りようが窺える。聖杯戦争ではないが確かにFateの世界観が色濃く漂う世界で起こる奇妙な殺人事件に、あのウェイバーくんが挑む。どうしても孫を想う祖父母のような心境になってしまうのは、ファンの性だろうか。

第四次聖杯戦争から10年。ライダーのサーヴァントと共に戦い抜き、生き延びたウェイバー・ベルベットは、戦死した恩師のケイネス・エルメロイ・アーチボルトの教室を買い上げ、自らもエルメロイ家のロード(君主)として時計塔の講師を務めていた。その傍ら、エルメロイの次期当主であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテが持ち込んだ魔術がらみの事件の解決を要請され、エルメロイII世は様々な難事件に挑んでゆく。

 しかしして、前半6話までを鑑賞して真っ先に抱いたのは「困惑」であった。どうもこの作品、ミステリーであってミステリーではないというか、少々変わった読み解き方を要求されるからこそ、面白さに気づくまでかなりの時間を要してしまった。

 ご存じの通りこの世界には「魔術」が存在するため、本来ミステリーというジャンルは成り立ちようがない。通常のミステリーならば探偵が頭を悩ませるであろう密室や奇怪なトリックも、魔術があれば簡単に再現できてしまう。従って、犯人が仕掛けた完全犯罪を理詰めで解き明かしていく快感が得られるわけもなく、ハウダニット(どのように)が意味を成さない。原作未読かつ日頃からミステリー小説に親しんでいないため、このような変則的な作品構造に気づいたのは、折り返し地点に着いた頃。

 だからこそエルメロイⅡ世はホワイダニット、動機こそを重視する。全ての事件もまずは動機を足掛けに、そこから手順と犯人を割り出してゆく。いよいよ探偵が全ての謎を明かす時、それが魔術による犯行であるため視聴者である我々はそのロジックを理解できず、解決のカタルシスも無い。その代り、なぜこのような犯罪が起こったかを厚く描いていく。なんともトリッキーな話運びに面食らいつつも視聴を続けられたのは、Fateシリーズらしい要素が時折顔を見せるから。

 7話から始まる「魔眼蒐集列車」編では、エルメロイⅡ世がある物を盗まれたところから始まり、時計塔ともなじみが深いルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、『Apocrypha』とは違う歴史を辿ったカウレスや獅子劫界離が参戦し、とあるサーヴァントが現れることでバトルものとしての要素が膨らんでゆく。また、エルメロイII世の内弟子であるグレイには大きな秘密が隠されており、内なる力を解放した際に見せる顔には思わずハッとさせられる。

 それらと並行して、エルメロイⅡ世=ウェイバーの心中も明らかになってゆく。ケイネス先生に対する自責の念からエルメロイ家のロードとなったウェイバーの真の目的は、ライダー=イスカンダルを再び召喚して第五次聖杯戦争で勝利すること。マスターではなく臣下として生き延びることを許された彼が望むのは、仕える王との再会だけだった。せ、せつない…。

 その夢がどのような変遷を遂げるのか、ラストに現れた「敵」との決着、グレイの正体などは、アニメ化されていない原作のエピソードを読めばわかるのだろうか。とにかく、アニメ版の事件簿は全てを語りきっていない。だからこそ一応の完結として用意された束の間の「再会」に、どうしようもなく涙してしまう。全てはこの時のために、全てを賭けた夢と別れたウェイバーくんの今後を、これからも応援したくなってしまうのだ。

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