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海将軍たちの過去について

『海皇再起』の成り立ちでも書いたのですが、とにかく本作最大の難関は、「星矢本編では大いに謎に包まれている海将軍たちのディテールを自分の手でデッチ上げなくてはならない」ということに尽きました。
かつてのやられ役を主役に転向させる上で、彼らの背景ーーどのように生まれ育ち、なぜ地上粛清を唱える神に仕えたのかーーの描写は、大なり小なり必要になってきます。
先日雑誌掲載されたエピソードで一応全員のノルマを達成した形になったので、各キャラクターについて思うところを書き残しておこうと思います。

【カノン】
彼については原作で十分な描写があったので、とくに足すものはありませんでした。ケールの悪霊がもし彼に取り憑いていたら、サガのように両極端な二重人格とはならず自然に融合して単なる極悪人になったのでは…?というIFを挿入しましたが、あくまでオマケという感じです。
むしろ、悪と正義の双方を経て成長した最新のカノンをしっかり描きたい、という思いが強いので、今後の活躍にもご期待ください。
なお、昔からたびたびその存在が囁かれる「本編に登場しなかった真のシードラゴン」というやつですが、あれってどうなんでしょう。原作を虚心坦懐に読むかぎり、「あの時、咄嗟にシードラゴンを名乗ったことまで含めてカノンの運命であり、カノンこそがシードラゴン」と考えて問題ないのでは? 少なくとも当時ツナ缶ちゃんはそのように読んでいましたし、今でもそれで問題ないように思います。なので、どこかにいるのかもしれない「真」の人に作中で触れる予定はありません。悪しからず。

【アイザック】
カノンと共に原作でしっかり過去が明かされた一人ですが、謎が残るとすれば彼の心理的な過程でしょう。
アテナの正義、師や友との絆。それらとの訣別に葛藤はなかったか? シードラゴンの正体をひとり知ってしまった後の心境は…?
興味は尽きませんが、丁寧に描くとウェットな内面描写が続いてしまい、蛇足になりかねない主題とも言えます。何せ原作では「アテナを超える偉大な存在を知った」の一言で済ませてる話ですから…。
今回はあくまで、晴れて聖闘士となった魅惑の平行世界から帰還できるのか! という試練の形でお見せできればと思います。乞うご期待。

【クリシュナ】
眉なしモヒカンという車田ワールド基準ではナメられやすい外見をしていますが、実力・信念ともに海将軍の中核を担うに相応しい強者だと思います。なんたって技がいい。フラッシングランサーは覇極流千峰塵、マハローシニーは天舞宝輪を想起させます。弱いわけがない。
加えて、彼はもともとヒンドゥー教の宇宙観に基づく終末思想を持っており、海将軍となった動機はそれであるということが原作でしっかり語られています。キャラクターがすでに明確で、作劇的にはとても扱いやすい。一番手として戦ってもらったのは、そういうわけです。
シャカとの共演シーンについては、セイロン島とガンジス流域は離れすぎだろとか、そこナニ教の寺院なんだよとか、色々ツッコミは覚悟の上でしたが、それにしても無理矢理だったかなあという気がして、少々反省しています。

【ソレント】
七将軍唯一の生存者でジュリアン・ソロの側近でもあるソレント。本作において彼はどうしたって主人公の位置にいるわけで、それらしい物語が求められます。
原作中、ソレントが掲げていた「地上はすべてが汚れきっており正義の名のもと粛清が必要である」との信念はアテナの大いなる愛によって覆されたわけですが、さらにカノンの陰謀を知ったことで今度は「海底神殿も一度滅んだ方がよいのだ!」となってしまう。良くも悪くもやたら思い切りがいいというか…
悪人ではないんだろうけどなんか極端で怖い奴、というのが原作でのソレントのイメージでした。
「一介の音学生」を名乗る彼が何故そうなったのか、と想像して描いたのが『海皇再起』での回想シーンになります。
両親の早逝、俗物な養親、名門音楽学校への幻滅…とソープオペラ的な悲劇イメージを並べるにとどめ、詳細には言及しませんでした。たしかに色々と苦労はしたかもしれませんが、それが全てだとは言い切らない形にしておきたかったからです。
「神様」が実在する星矢の世界において、人類文明の現状維持よりも神の手によるグレート・リセットを望むことの心理的ハードルは、我々の住む現実世界よりだいぶ低いと思うんですね。その原因を個人のネガティブな体験に丸々負わせるのは、作劇としてどうもみみっちく思えるのです。
戦いを経て変心してしまった彼はこの先、年月を重ねるにつれどうするのだろう、そしてポセイドンは、忠臣でありながら心理的には離反者でもある彼をどう扱うのだろう、というのは、気にかかりますね。

【カーサ】
読心術と変身が武器の男なので、なんとなく演じたり騙したりを生業にしていたイメージがありました。それで詐欺で潤っているギャングということにしたのですが、イキがった生き方自体が自分にもウソをついているという、可愛げのある雰囲気に仕上がったと思います。
両親との関係は竜児、やさぐれた性格は初期の麟童をモチーフにしました。
犯罪歴のある男が「地上を清める」ための軍勢にスカウトされるのか?という疑問を持たれる向きもあるかもしれません。私見ですが、オリンポスの神々が嫌悪する人間の悪性というのはあくまで「自然の理に逆らい害をなす、一生物としての分を弁えない傲慢さ」であり、人間社会の中で生きるために人間の作った法を犯す程度のことは、取るに足らない気がします。

【バイアン】
いきなりですがこの人は、原作で明示されている情報がブッチギリで少ないです。
外見上の特徴としては、すごく整っているけど三白眼の取っつきにくい顔立ち。高慢な言動や闘いぶりからは、自信過剰な性格と、パワーはあっても戦術面で星矢より未熟であることが伝わります。
そのへんからなんとなく、お坊っちゃん育ちな優等生のイメージが浮かびました。というわけでカナダの都会の私立高校生という設定をベースに、イケてるエピソードを盛る形に。本当はコスモポリタン・アカデミーでアイン、キボウと出会うシーンも考えていたのですが、くどくならないよう割愛。三つ巴のウォーゲームが始まってしまいそうで…。
かわりにデートとケンカのくだりで剣崎と菊、ザジの明菜ちゃん周りをオマージュしています。
ポセイドン軍に身を投じた動機は、1980年代当時、ナイロビ宣言やロンドンサミットなど、先進国で環境問題に対する意識が高まってきた風潮を意識しました。秀才少年が抱える現代文明への失望、地球の未来への危惧。それらが自身の日常の閉塞感と響きあっていたところに、神の声を聞き世俗を捨てる…という、王道な感じに仕上がったと思います。

【イオ】
彼の原作での役割はご存じのとおり、ネビュラチェーンの変化技を見せるための動物園ですが、同時に際立っているのが、終盤で見せる妙に熱い性格です。
捨て身で柱を壊そうとする瞬をやたら気遣う一方、自身は捨て身で柱を守り、真剣勝負の厳しさを説いて息絶える。登場時の舐めプ全開なムードとは一変しており、ここがキャラとしての個性と言ってよいでしょう。
また、28巻のキャラクターデータにある出身地サンフェリクス島が不毛の孤島で、明らかに人が生まれ育つ場所ではないというのも、星矢ファンの間でひそかな語り草でした。
この二つの要素を材料に、イオの過去については様々なパターンを想像し、検討しました。たぶん一番悩みました。
軍人の子、漁師の子、船乗りの子といったものから、島に住むアシカが人間に生まれ変わったテティスパターン、果ては白い墓(ホーム)に拾われた孤児で、サンフェリクス島地下の訓練所で一級ソルジャーとして育てられたまであるな…当時のチリはピノチェト独裁政権下、敵対者に差し向ける刺客は需要あるだろうし…と、キリがなくなったところで全部ぶん投げたというのが真相です。
サンフェリクス島の属するデスベントゥラダス諸島はロブスターの漁場だそうで、

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Jasus_frontalis

隣のサンアンブロジオ島には、近海の漁師がワンシーズン滞在するための小屋もある様子。

https://www.youtube.com/watch?v=R45STqyu6ms&ab_channel=JavierEduardoHuichalafRoa

サンフェリクス島にも漁船が近づいている動画がありました。

https://www.youtube.com/watch?v=7sII8t6yzcc&t=108s&ab_channel=robrt200

もう漁師の子、海の申し子でいいや! 美しい海で生まれ育った少年の前にホンモノの海の神様が現れたら、そりゃ理屈抜きでお仕えしちゃうし、海を守るためって言われたら命かけちゃうよ!
個人的には、原作でまとっていた陽の雰囲気や、瞬に見せた優しさのルーツが自然に表現できたように思うのですが、いかがでしょうか…。

ひとまずそんな感じです!
本稿の冒頭でも述べたとおり、とにかく原作の姿勢を踏襲し「想像の余地を極力残す」ことにだけは気を配りました。
本作の海闘士たちが厄介なのは、いわゆる「海皇ポセイドンの覇業」に対する評価がソレント、カノン、その他5人で全く異なるであろう点です。ソレントは先の戦いで巨大な迷いが生じ、今まさに心の旅の途中というところ。カノンは反省しきって今はアテナに帰依している状態。対して海底神殿で命を落とした5人は、ポセイドンの正義を今でも信じているはずなんですよね(カーサだけは、ちょっと冷めている風に描写してしまったので微妙なところですが)。だから今回はあくまで地球環境そのものを守るために共闘しているだけで、星矢たちのような、同じ正義で結ばれた一枚岩の集団ではない。そこが主人公チームとして悪く言えば中途半端、良く言えば現代的なところかな、と自分では思います。

ジュリアン・ソロやテティス、真鱗衣のデザイン等については、何か書くことを思いついたらそのうち!


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