まえだようこ

英日文芸翻訳。E・ウォートン他を掲載『ほんやく日和』vol.4重版出来。『吟醸掌篇』(…

まえだようこ

英日文芸翻訳。E・ウォートン他を掲載『ほんやく日和』vol.4重版出来。『吟醸掌篇』(けいこう舎)に参加。

マガジン

  • 書評講座Vol.3

    • 4本

    課題書: 1)『フランキスシュタイン』- アメリカ、ジャネット・ウィンターソン著、木原善彦訳、河出書房新社、2)『喜べ、幸いなる魂よ』- 日本、佐藤亜紀、角川書店、3)自由選択(海外文学で邦訳が出ているものなら、文字通り何でも)

  • 書評講座 Vol. 2

    • 6本

    課題書: 1)『掃除婦のための手引き書』- アメリカ、ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳、講談社、2)『ハムネット』- イギリス、マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社

  • 書評講座 Vol. 1

    • 11本

    課題書: 1)『エルサレム』- ポルトガル、ゴンサロ・M・タヴァレス著、木下真穂訳、河出書房新社、2)『キャビネット』- 韓国、キム・オンス著、加来順子訳、論創社、3)『クィーンズ・ギャンビット』- アメリカ、W・テヴィス著、小澤身和子訳、新潮文庫

最近の記事

タイ映画「親友かよ」เพื่อน(ไม่)สนิท よかったよ

大阪アジアン映画祭で「親友かよ」を観た。当日券も完売で、300人強の会場はパイプ椅子の追加席も含めて満員。上映後はアッター・ヘムワディー監督とプロデューサー(「バッド・ジーニアス」のバズ・プーンピリヤ監督)が登壇し、観客から質問が飛んでいた。 เพื่อน(ไม่)สนิทという原題は、英語にすると Friends (not) Close といったところ。タイ語はたぶん日本語と一緒で複数形も単数形もないが。 主人公は亡くなった同級生ジョーの短編映画を撮るために彼の「親友」

    • 目隠しされてもう大変

      『医療短編小説集』(平凡社ライブラリー)まだ数編しか読んでいないけど、石塚久郎訳「一口の水」があまりに凄まじく、読後にぐったりしてしまった。なぜそれほど疲れたのだろう。 主人公は四肢と両目を失った帰還兵フレッド。 物語は三人称の語りで、一貫してフレッドの視点、見えない視点から描かれる。入院直後の彼は、包帯が取れたら見えるし手足の縛りを解かれたら歩けるはずだと信じていた。しだいに不安になり、周りの医者や看護婦に状況を訊ねるのだが、はっきりした答えは返ってこない。 自分の姿が

      • 読書会メモ:The Miracle of Teddy Bear

        はじめてタイの長編小説を読んだ。プラープ著、福冨渉訳 The Miracle of Teddy Bear (2019)。 脚本家ナットくんの大事なクマのぬいぐるみタオフーが、ある日人間に姿を変えた。タオフーはナットくんに警戒されるが、母マタナーさんの希望で3人は同居することに。家の「物」たちの協力のもと、タオフーはぬいぐるみに戻る方法を見つけられるか。 タイトルのこと タイ語のタイトルは คุณหมีปาฏิหาริย์ とある。 คุณ:ミスター หมี:クマ ปาฏ

        • 読書会メモ:ぼくが死んだ日

          ぼくが死んだ日、しかし原題は On the Day I Died そりゃそうだ。英語の一人称は "I" しかないのだから。 邦題で「ぼく」と刷り込まれているので、最初の登場人物マイク・コワルスキくん(16)も死者のひとりだと思いこんだ。しかも第1章タイトルは、彼を墓地へ導いた亡き少女の名「キャロルアン」でなく「マイク」だ。作家も意図してそう思わせているのかもしれない。 十代で亡くなった少年少女が葬られているシカゴの墓地。月明かりがつくるスポットライトを浴びて、霊は順番に自

        タイ映画「親友かよ」เพื่อน(ไม่)สนิท よかったよ

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        記事

          クローネンバーグは夢心地

          新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」はクローネンバーグ節が利いていて、古巣に帰ったような懐かしさだった。といっても、クローネンバーグ作品はかじった程度なのだが。 私的フィルモグラフィ 出会いはたぶんテレビで放送されていた「ザ・フライ」(1986)。 あの設定には妙に納得してしまった。ハエと人間が一緒にいったん分子レベルまで分解されて合成されたら、ハエ男に……なるよな。再放送でも何度か鑑賞。 つぎに、クローネンバーグ作品と知らずに「エム・バタフライ」(1993) を

          クローネンバーグは夢心地

          あなたは美しい

          『中島らも短篇小説コレクション 美しい手』(2016、ちくま文庫)を読んだ。 らもが亡くなったのは2004年7月26日らしい。 あの日、ラジオから「作家の中島らもさんが……」と聞こえてきたので、お、何やろ?とボリュームを上げたら訃報だったのを覚えている。一緒にライブに行った友だちにすぐにメールしたっけ。 らもをはじめて読んだのは高校生の頃。 何を読んだか記憶にないが、中高と灘でギチギチの学校生活を送ったしんどさや、全部あほらしく思えて学校の外に救いを求める姿に、「これは自

          あなたは美しい

          私の一冊

          日本翻訳連盟(JTF)のウェブサイトJTFジャーナルに寄稿しました。 翻訳関係者が特別な一冊を紹介する「私の一冊」というコーナーです。 『弟の戦争』、ぜひ多くの人に読んでほしい児童文学です。 外国の戦争のことはわからない、戦争は怖いからいや、という人がほとんどだと思います。だいじょうぶ、この物語の主人公の兄弟だっておなじです。 子どもに戦争の話? と眉をひそめる大人がいますが、そういう大人はすこし子どもを馬鹿にしすぎてますね。子どもの感性はするどくて、子どもだからこそ見

          いちどでは足りなかった「TAR/ター」

          ケイト・ブランシェットが指揮者を演じる、それだけの予備知識で映画「TAR/ ター」を観た。ザワつく余韻がおさまらないし、リディア・ターの内面にもう少し迫りたい。リピートの前に、気になったことの一部を記録しておく。 * ターの音楽的嗜好は冒頭の授業のシーンから明確だった。 学生が選んだ無調の現代音楽をチューニングの最中のようだと言い放ち、彼にバッハを勧める。学生はそれに反論しつつ(バッハのミソジニーがどうのこうの……いまどきの音大生はこんな御託を並べるのか?嫌だ嫌だ)ひたす

          いちどでは足りなかった「TAR/ター」

          マドンナからイシグロへ

          きのうのこと。MTVの懐メロ特集をつけていると、マドンナの Rain (1993) が流れてきた。 久々に見なおしたら、え、このMVの監督役ってあの方?「マドンナ+rain+坂本龍一」でググって確認。そうですね、教授ですよね。すっかり忘れてた。 監督の「マーク・ロマネク」が気になってWikiのページへ。 おお、レニー・クラヴィッツ! はじめて行ったライブかも。MJ&JJ の Scream ! MJのショートフィルムのマイベストワンと言ってもいい。 ものすごい予算オーバー

          マドンナからイシグロへ

          『トム・ソーヤーの冒険』がふつうに読めない

          『トム・ソーヤーの冒険』は個人的にひじょうに読みにくい作品だった。もちろん作品のせいではない。ぜんぶ自分のせい。読んだタイミングも関係しているかもしれないが。 だれもが知る児童文学ということで気楽に読みはじめたら、1870年代の原文の雰囲気が再現された重厚な文体。漢字だらけで地の文が黒々としていて、内容がすっと頭にはいらない。しかも、トムをふくむ男の子たちがネズミやネコの死骸にダニなんかをおもちゃにして遊ぶ場面がしょっちゅう出てくる。でも、ある程度まで読むとそれにも慣れた。

          『トム・ソーヤーの冒険』がふつうに読めない

          なさけない話ですが

          昨年の12月から調子がおかしい。 目覚ましが鳴っても8時間から10時間くらい寝っぱなしだし、起きたときから眠いしだるいし、食べたらすぐ寝落ちするし、髪質が変わって会った人から「前髪それでいいの?」と訊かれるし、友人の子には「顔がちがう」と言われるし、はじめての口唇ヘルペスがいつまでも治らないし、市販のおせちを食べた直後にひとりだけ嘔吐するし。 もう春まで冬眠するしかないのか。そんなときにポチったのが川上弘美さんの短篇集『ぼくの死体をよろしくたのむ』だった。 語り手がぴょ

          なさけない話ですが

          ショートショートめいた風景

           眼鏡の少年がみっつの袋を持ってくる。蜜柑がはいっているようなメッシュの、でも蜜柑色ではない三色の小袋。じゃらじゃらと中身を出すと、こたつの上が小石だらけになった。表面がなめらかで、形も色もばらばらな石。「めっちゃきれいやろ。きのう遊園地で集めてきてん。好きなんあげるわ」 「えー、いいの?」と遠慮するそぶりを見せつつ、平らで淡い色のものをひとつ選んだ。 「もっと選びいや」 「じゃあこれも」 「もっともっと」 「んー、やっぱりこっちと交換して」 「いいよ。もっと選んで」  ふだ

          ショートショートめいた風景

          生きるのってつらい。人間だもの―アンドレ・アレクシス著『十五匹の犬』

           トリニダード・ドバゴ生まれ、カナダ育ちの作家アレクシスによる『十五匹の犬』は、カナダで最も栄誉ある文学賞といわれるギラー章の受賞作品。  ある夜、トロントのバーで飲んでいたギリシャの神アポロンとヘルメスが、戯れに近くの動物病院にいる犬たちに人間の知性を与えた。そのうち一匹でも死に際に幸せだったらヘルメスの勝ち、という賭けをしたのだ。賭けはあまりにヘルメスに分が悪く、ふざけすぎた罪悪感もあって、神々は何度か犬たちに救いの手を差し伸べるのだが……十五匹の運命やいかに。  児

          生きるのってつらい。人間だもの―アンドレ・アレクシス著『十五匹の犬』

          ショートショートのようなもの

           きょうも百円玉を赤い自販機にいれる。見えない経路を通って、硬貨がおさまるところにおさまった音がする。よかった。

          有料
          300

          ショートショートのようなもの

          時代もののタイドラマ คุณชาย が熱い

          コロナにかかりましたねとうとう。 数日して熱が37℃台に落ち着いたころ、タイドラマ คุณชาย (読みKhunchai)をYouTubeで見はじめました。 1話1時間強ありますが、やることもないのでどんどん見ます。9話を見終わったころには主人公の行く末が気になって仕方なく、まだ英語字幕のない(字幕版は放送後数日かかります)10話を視聴。11話以降からはリアルタイムで字幕なしの放送を見ています。 最新の14話の放送が11月15日でした。 自分にとって初のタイの時代もの。衣

          時代もののタイドラマ คุณชาย が熱い

          わんこの話

          アンドレ・アレクシス『十五匹の犬』を読みはじめてすぐに 「なんでこれを選ぶかな」と自分の考えなしに呆れた。 十五匹の犬の死にざまがつぎつぎに描かれる。 いやおうなしに「うちのは幸せやったんかな」という疑問にとらわれ、 「もっとこうしていたら」「あのときあれがなかったら」と考えて 読書にもどれなくなった。 ちがうちがう、この十五匹は犬だけど犬じゃない。 人間の知性を与えられたまったくべつの生き物だから、 比べたり思い出したりする必要ない。 と自分に言い聞かせて読み通した。