短編 貧血

貧血

【登場人物】
彼氏 若者。外に出ても大丈夫そうな都会的な雰囲気がある部屋着の上に、上着を着たりマフラーを巻いたりしている。
彼女 若者。彼氏と同じような格好。
女 20代半ば。今っぽい服装をしている。脱ぐのが難しい靴を履いている。
男 今部屋を出たばかりみたいな服。見た目怖め。

【情景】
部屋。ベッドがある。ベッド横にあるチェストの上には水パイプが置かれている。

彼女、玄関扉を開け、電気をつける。
続けて、女をおんぶした彼氏が入ってくる。
女は体調がひどく悪そう。

彼氏「着きましたよ。大丈夫ですか?」
女「はい...」
彼女「靴脱がしちゃいますね」
女「お願いします」

彼女、女の靴(構造が少し複雑)を脱がしはじめる。

彼女「可愛い靴」
彼氏「ね。すごい可愛い」
女「こんな、すみません...」
彼女「いいんですいいんです。私達のお節介だもん」
彼氏「うん、マジ、家近くて良かった」
彼女「ほんとそれ」
彼氏「あの、ほんと、体調良くなるまでウチにいてくださいね。もう遅いし、今晩は泊まってください。」
女「すみません。うっ」

女、気持ち悪そうに呻く。

彼女「え、吐く?」
女(首をふる)
彼女「ビニール袋無くて大丈夫ですか?」
女(頷く)
彼女「ほんと?」
彼氏「すごい辛そう。早く寝かしたげよう」
彼女「そうしよ」
彼氏「ミホ、客用の布団出してくれる」
彼女「うん」

彼女、女の靴を脱がし終わる。

彼女「はいっと。お布団持ってくるね」

彼女、布団を出すためにはけようとする

彼氏「あ。LINE、してくれた?」
彼女「うん」
彼氏「ありがとう」
彼女「ううん」

彼女、はける。

彼氏「じゃあ一旦、ベッドに下ろしますね」
女「はい」

彼氏、玄関から部屋の中に移動し、女をベッドに下ろす。
女、横になる。

女「あの、横になると、だいぶ、楽です」
彼氏「そうですか!良かったです」
女「はい、吐き気は収まります。頭痛は多少あるんですけど、でも、ほとんど楽です」
彼氏「顔色も良くなってますね。安心しました。見つけた時は、冗談じゃなく死んでるんじゃないかと思ったので」
女「そうですよね」
彼氏「今は良くなられましたけど、倒れてるのみつけた時は、顔がびっくりするくらい真っ青だったんですよ。しかもこんなに寒いのに汗もびっしょりだったじゃないですか。これは尋常じゃないなって僕も彼女も焦りました。意識も朦朧でしたよね?よくこうなっちゃうんですか」
女「でも、こんな、倒れるとかは初めてです」
彼氏「ええ。救急車呼ばなかったんですか」
女「貧血ごときで救急車呼ぶのは、ちょっと」
彼氏「さすがに倒れるくらいなら呼んでいいと思いますよ」
女「けど、結局、寝て回復するしかないから、病院行ってもなあ、とは。救急車呼ぶならタクシー拾って帰ります、貧血くらいなら。さっきまでは電話もできないくらいだったので、タクシー呼べるようになるまで道で寝てようと思ってたんです。そしたらお二人が、声をかけてくれたので」
彼氏「道で寝ちゃダメですよ。通りがかれて良かったぁ。ここらへん人通り少ないから俺ら通ってなかったら誰も通ってなかった可能性ありますよね。俺たち寝るところで、歯も磨いた後だったんですけど、ちょっとコンビニいこうかって話になって、たまたま外でたんです。」
女「あれ。コンビニ行けてないですよね?」
彼氏「いいんすよ」
女「ごめんなさい。(言い直して)あの、ありがとう」
彼氏「全然すよ」

朗らかな空気が流れている。

女「ここには、お2人で?」
彼氏「そうです」
女「同棲、羨ましいです」
彼氏「楽しいですよ。なんか、よく、同棲すると別れるって言うじゃないですか。お互いの嫌なところがみえるとかいって」
女「はい」
彼氏「でも、俺たちそういうのいっさい無くて」
女「えーそれすごい」
彼氏「お互い気い使い同士だからいいのかも。あと綺麗好きで、掃除も苦じゃないから2人とも。ああ、たぶんそれですね。同棲の喧嘩の原因って、多分掃除とかですもんね、一般的には。僕いい相手と出会えましたね」
彼女「(部屋の外から)恥ずかしいからやめてよ!」
女「(笑って)仲良いんですね」
彼氏「そうですね」
女「信頼関係があるんだと思うんです。私は、もし自分が同棲してたら、女の人を家に泊めるのとか、ちょっと嫌ですもん」
彼氏「えー、その女の人が貧血で道に倒れててもですか?」
女「そんなのすぐ、救急車呼びます」
彼氏「どの口が言ってるんですか」
女「あはは。あとは、何が楽しいですか?同棲は」
彼氏「うーん。服を共有できるのは便利ですね。趣味が似てるんですよ。好きなもののセンスが同じなんです」
女「へえ。お部屋もすごくオシャレです。あれ、いいですね。シーシャ?」
彼氏「水パイプです。あれで大麻吸うんですよ」
女「あ。そうなんですか」
彼氏「こうやって」

彼氏、ふと立ち上がり、水パイプを使って大麻を吸う。息を深く吐き出す。

彼氏「吸ってみますか?」
女「あ、大丈夫です」
彼氏「多分、体調良くなると思いますよ」
女「でも私は、大丈夫です」
彼氏「(優しく)あの、全然強要してるわけじゃないですからね」
女「(努めて優しく)はい」

彼氏、再び大麻を吸う。
彼女、客用布団と色々を抱えて戻ってくる。

彼女「え、ずるい」
彼氏「布団俺が出すよ」

彼氏、客用の布団を広げだす。
彼女、女にお茶を差し出す。

彼女「玄米茶です。よければどうぞ」
女「ありがとうございます。いただきます」
彼女「起き上がれないからシャワー無理ですよね?汗、気持ち悪いと思うので、着替えと、あと、蒸しタオル作ってきました。これ寝る時電気毛布使ってください。すぐあったまります」
女「何から何まですみません。こんなに良くしてもらっちゃっていいんですか」
彼女「いいに決まってますよ。こういう時は助け合いの精神というか、人類みな兄弟的な」

彼女、大麻を吸う。
ふーっと気持ちよさそうに息を吐く。

彼女「吸いますか?」
女「...いえ」
彼女「体調良くなりますよ」
女「休めば治るので...」
彼女「だるさとか、無くなりますよ」
女「大丈夫です」
彼女「そうですか?もし吸うんだったら、いつでも言ってくださいね」

彼女、大麻を吸う。
彼氏が布団を広げ終わる。

彼氏「じゃあ、布団に移動しますねー」
女「はい」
彼氏「じゃあ、せーの」

彼氏、女を抱えてベッドから布団へ移動させる。

彼氏「下ろしまーす(下ろす)」
女「なんか、慣れてますか?」
彼氏「仕事が介護なんです」
女「へえ」
彼女「こういう時に活きるね」
彼氏「そうだね。今日のためにやってきたのかも」

女、愛想笑い。

女「ごめんなさい、寝てもいいですか?」
彼女「あ、どうぞ。そうですよねごめんなさい。じゃ、私たちも寝ようか」
彼氏「そうだね」

彼女と彼氏、ベッドに入る。

彼氏「じゃあ消します」
女「はい。おやすみなさい」
彼女「おやすみなさい」
彼氏「おやすみー」

彼氏、電気を半球にする。
彼氏と彼女、寝る、と思いきや、お互いの服を脱がせて裸になっていく。
女、ふと顔をベッドに向ける。裸になっている二人をみて驚く。

女「えっ!?」
彼女「あ。混ざりますか?」
女「え、混ざ、混ざるって私がですか?」
彼氏「俺らは大丈夫ですよ」
彼女「うん、全然大丈夫」
女「あ...いや、混ざらないです」
彼氏「そうですか」
女「はい。休みます」

女、寝ようとする。
彼氏と彼女は、大麻を交互に吸う。そしてどうやら前戯を始めている。
女、それをみる。びっくりする。たまらず布団から出る。

女「あの。ご、ごめんなさい、私帰ります」
彼氏「え? いや、寝てた方がいいですよ」
彼女「うん」

女、部屋を這いつくばって、玄関に向かう。
玄関につこうとした時、扉が開いて、コンビニのレジ袋を持った男が入ってくる。
男は女に近づいていく。
女、怯えて後ずさる。

女「ひ...助けて...」
男「あの。野菜生活と飲むヨーグルトです」
女「はい?」

男、女に鉄分が入っている野菜生活と飲むヨーグルトを渡す。

男「鉄分入ってるやつです。貧血なんすよね?安静にしてた方がいいっすよ」

男、目についた電気毛布を、怯えている女の体にかける。
コンビニのレジ袋からコンドームを取り出し、彼氏に渡す。

彼氏「サンキュ」
男「つか、ピル飲めば?」
彼女「飲んでるよ。でも付けなきゃ」
男「えぇ。お前それでいいの」
彼氏「うん」
男「ふーん」

男、座る。袋からビールを取り出し、開けて飲み始める。

女「えっと。どういう状況なんでしょうか」
男「ここ、こういう部屋なんす。面白いっしょ。俺はこれ、みていきますけど」
女「...」
男「お姉さんは寝てなよ。顔、真っ青っすよ」

彼氏と彼女は、交互に大麻を吸っている。
男と女はそれをみている。

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