一人旅紀行 島の灯 瀬戸内


一日目 父母ヶ浜

冬。
頬をきる冷えた空気を感じながら眼前に広がる海を見渡す。
光の集合体が水面で弾けて空気中に飛び散る様を、水晶体を通して捉える。

私がずっと前から、邂逅するのを切望していた場所。
砂に埋もれた小さくてかわいらしい形の貝殻を手に載せながら、頭を空っぽにして白い息を見つめる。

ここは父母ヶ浜だ。
今年の夏に、瀬戸内国際芸術祭が開催されていた。三年に一度ということで、ずっと待ち侘びていたものの、生憎の台風で断念した。数年前に直島を訪れて以来、もう一度、この瀬戸内特有の空気、空と海とが創り出すあたたかさを感じたくて、計画を三回練り直した。
そして、やっとこの冬に、足を延してやってきた。

在来線に乗り、シャトルバスに乗り継ぎ到着したのは午後三時半頃。日が少し傾いてきて、少しくすんだ空の色。この時間の空も私は好きだった。眩しくて爽やかな青空とはまた違う、少し控えめなグレーの、明るい落ち着いた色。
この時間から既に、« 日本のウユニ塩湖 »と呼ばれるに相応しい景色を見ることが出来た。

後からゲストハウスの夫婦から教えてもらったことだけれど、こんなふうに、くっきりとした砂紋を見ることが出来るのは稀らしい。そして、鏡のような水面も、天気が最近は曇りがちだったからしばらく見れなかったそうだ。
だけど今日は快晴だ。
潮の満ち引きも、天候も味方してくれている。

観光客はたくさん来ていた。外国人。愛犬連れの女性。ファミリーと、自慢げにカメラを構えるおじいちゃん。冬休み中らしき、青春まっさかり大学生グループ。三脚持ち込みの中年男性数人。むしろ、一人で訪れている女性は私一人のように見えた。
だけど、自分以外に撮影目的で来ている人がたくさんいたおかげで、自分の写った写真を撮ってもらうことが出来た。
鏡のように空が水面にリフレクションしている写真を撮るためには、地面すれすれにカメラを構えて、カメラマンとモデルが水たまりを挟んで各々のポジションに立つ。水たまりぎりぎりに近づくほど、いい写真が撮れる。
一度目はナイスミドルな夫婦に頼んだ。
二回目はピンク髪の、美大生っぽい三つ編み大学生に頼んだ。アングルや逆光を上手く考慮して撮影してくれそうな外見だったので期待していると、思った通り、拘って、水たまりに少し踏み込んでまで撮ってもらってしまった。むちゃくちゃいい写真。


夏はもちろん冬も暖かくて、穏やかな時間の流れる場所。
人の心があったかくて、日がきらきら差す海面。
沖縄の海も日本海も綺麗だけれど、私は瀬戸内の海が一番好きだ。

日が落ちると、砂浜にぽつぽつと明かりが灯り始めた。

今日は「父母ヶ浜うみと灯りの日」だ。
一人一人が空き瓶の中の蝋燭に小さな明かりを灯していく。
波の音。潮風の匂い。マジックアワー。響き渡る歌声とピアノの音。ワインを片手に笑いあう人たち。
焚火の傍に集って手を温める。
しっとりとした海辺の饗宴。

たまたまその日に集まった人々が、集まって、唄に耳を傾けて、火の周りに集まって、ランタンに火を灯していく光景は、その日はもう終わるのに、いつまでも終わらないでいてほしい小さな村の祭りみたいだった。

日がとっぷりと落ちて、名残惜しさを抱きつつも、シャトルバスに乗り込んで詫間駅へと戻る。
駅に着き、予め行こうと決めていた店へと歩いていく。
夜7時でも、周りには人気は少なく、明かりもぽつぽつとしか無い。
それでも夕飯にありつかなければならないので足を進める。
人気が無いので不安を感じながら歩いていると、向かい側の道を謳いながら颯爽と自転車で通り過ぎていく男の人がいた。その次に、同じように歌いながら自転車で通り過ぎる女の人も見た。
地元の人か、観光客か。わからないけれど、なんとなく気持ちが軽くなって、店へと向かう。
夜の冷たい空気の道を、歌いながら自転車に跨って駆け抜けるなんて、なんて粋だろう。

目当ての店は、予約のため満席で入れなかった。そして、思ったよりも高級な料亭であるらしかった。なので、来た道を引き返す。食べ物をお腹に入れて、電車までの時間をやり過ごせればもうなんだっていい。
そんな気持ちで、グーグルマップで出てきた「かつまや」という寿司屋の暖簾をくぐった。


暖簾をくぐると、カウンターから主人が少し驚いた顔で、「一人?電車待ち?900円の寿司セットで良い?」と聞いてきた。空腹でぼんやりした頭で返事をする。
小柄なおばあちゃんに案内されてカウンター席に着く。
私のほかには地元の人らしい3人ほどのおじさんたちが飲みに来ていた。戸田恵梨香がかわいい、という話で盛り上がっていた。

ご主人は、店に来ているお客さんに出す料理のほかに、配達用のものも作っていた。スマートフォンを時々見て、料理も同時にして、忙しそうにしながらも、行き場を失って空腹に困っていた旅人に懐っこく話しかけてくれた。

「一人で来たの?どこから?何時の電車?寒いから、それまでゆっくりしていけばいい」
そんなお決まりの会話に始まり、これからの観光予定についいておしゃべりする。
「父母ヶ浜いってきました」というと、入り口においてあったカレンダーを持ってきて見せてくれた。
「父母ヶ浜はな、昼間も綺麗なんや」
寿司を食べ終えた後におばあちゃんが出してくれた地元の大原みかんと、普通の愛媛のみかんを食べ比べながら、会話を続ける。大原みかんの方が小ぶりではあるけれど、甘みがぎゅっと詰まっていておいしい。みかんソムリエだ。
目の前にあったレモンを指さして、「これはどこのみかんですか」と聞いたら「それはレモンや」とツッコまれた。
「大原みかんていうんやで」
笑いあう。ご主人はちょっと引いている。なんだこれ。あったかい。ごはんももちろんだけど、心が。
「明日は志々島、それから広島の生口島と愛媛の岩城島へ行きます」
「その計画厳しくない?それならバスで廻れる紫雲寺山と高谷神社見た方がいい」
みかんの次に出してもらった捌きたての平目とカンパチの刺身を口に運ぶ。
「この後は、みの駅から徒歩10分くらいのゲストハウスに泊まります。」
刺身の次に出された、配達分の余りらしい揚げたての唐揚げを味わう。食べると色々出してくれるので、電車までの時間を持て余さないよう、おしゃべりしてくれたり。サービスで色々出してくれているようだった。
「そんなゲストハウスあるん?知らない…ちょっとさ、この携帯に宿の名前入れてみて」
手渡されたスマートフォンの検索ボックスに「ゲストハウス七宝屋」と打ち込む。
「え、ここ周り真っ暗だよ。ちょっとまって」
おもむろにご主人がグーグルマップと時計を見比べる。
場所ここな。ここたぶん前魚屋だったとこだと思うから、車で送ったげるわ。女の子一人は危ない」
え、いいんですか。びっくりして主人の顔を見返した。先ほどまで配達するらしき唐揚げを揚げていたから、この後はそちらへ向かうのだと思い込んでいた。でも、本当にいいんだろうか。本当はきっと居酒屋なのに酒も頼まず、サービスで刺身やらなんやら頂いて、宿まで送ってくれるなんて。きっと関東で同じことを言われたら躊躇っていた。でも、主人の人懐こい笑顔や、with Bのようなおばあちゃんたちのことを疑う余地は全くなかった。都会人にありがちな、一定のパーソナルスペースを守る姿勢はそこで破り捨てた。
「ここ、昔知り合いが魚屋やってたとこかもしれん。俺も今どうなってるか興味あるから、そのついでに」
送ってくれるのは心配してくれてるからなんだけど、知り合いの店の跡地の現状を見たいから、という口実をつくるのがまた優しさだなあと思う。
“郷に入っては郷に従え ”
触れ合うのは短い間でも、家族のように接してくれる。この優しさをまたどこかで思い出したい。私はお店出る前に一緒に写真撮ってもいいですか、といってカメラのシャッターを切った。
写真の中のご主人とおばあちゃんwith Bはカメラを見てたり見てなかったり。こういうショットが、とても愛おしく感じられるんだろうな。

ご主人の車に揺られながら、窓から景色を覗くと辺りは街頭もなく本当に真っ暗だった。車に乗せてくれたご主人のご厚意に頭を下げる。助手席に座り、宿に着くまでの会話を楽しむ。宿に着いた。ご主人とはここでお別れだ。また会っておいしいごはんやみかんを頂きたいけど、それはしばらく先になるだろう。一期一会。ひとりひとりと触れ合う時間は私の人生の中でみれば一瞬だ。だけどその一瞬を、密なものにしたいと思える。それもまた、旅の醍醐味だ。

暗闇の中で浮かぶ、旅人のHPを回復するための場所。
「七宝屋」と書かれた暖簾をくぐる。

暖簾をくぐると、中から30代くらいのまだ若そうなオーナーが出迎えてくれた。
私が今回泊まるのはゲストハウスだ。だから、旅人同士の交流ができる。外国人と話してみたいと思っていたが、この日は外国人は宿泊していないようだった。
説明を受けて、旅人が憩う畳の上のちゃぶ台へ向かう。
ちゃぶ台には、大学生(高校生にも見える)の男の子が先に一人で座っていた。
ここでは社会性フィルターは薄いはずだ。だって、「ゲストハウス」だから。
早速、話しかけてみる。
話を聞くと、彼は自転車でこのあたりの土地を「お遍路」しているらしかった。大学生ってすげえ。
彼と今まで旅先や、夕方に見てきた父母ヶ浜について語っていると、オーナー夫婦が話に加わった。宿名の由来が思ったよりもたくさんあること、この宿を夫婦で始めた理由。最近赤ちゃんが生まれたこと。もともとは関西に住んでいて、二人とも旅行が好きで、この地に来た時に自然の美しさに感動した。宿はもともとやりたいと思っていて、外国人に門扉が開かれた施設がまだ少なかったから、旅人同士が楽しく交流できて、尚且つ宿泊費も安めで、ふらっと気軽に立ち寄れる「ゲストハウス」という形態を選んだ。
HP回復の泉だ。そんな場所を夫婦で経営するなんてめちゃくちゃかっこいい。
話の途中で、30代くらいの夫婦のゲストがやってきた。おとなしそう(だけど、少女のような好奇心をもっていそう。可愛い感じの人だった。)な奥さんと、眼鏡をかけたまじめそう(だけど、良い“ 癖 ”みたいなものを秘めていそう)な旦那さん。
夫婦は広島から来たそうだ。私は旅程に生口島や尾道を組み込んでいるので早速話を聞く。
みかんやおつまみをつまみながら話をして、奥さんからは「ボーイフレンドはいるの?」と聞かれた。「いないですね~一人で来ました」女の子一人で、ってすごいね~と言われる。巷のメディアには「おひとりさま」や「女子一人旅」をテーマにした記事が溢れているし、自由に自分の好きなように動ける一人旅は最高だ。別に、一人行動が好きな人種からすれば何もすごいことではない。

夜中に外に出れば、星空がきれいに見えるとオーナーが教えてくれた。
旅人との交流を楽しんだ後、ドラえもんの寝室みたいな部屋にこもって準備をする。
相部屋の中の個室みたいな感じのドミトリーで、ベッドにカーテンが下げられているのでプライバシーは守られているし、旅人との交流もしたため特に警戒心は抱かなかった。
シャワーを浴びて、秘密基地みたいな小さな空間で星の見頃の時間まで布団にもぐる。
もちろん、わくわくしすぎて興奮した頭。目が冴えてしまって眠れない。今日はあんなに歩いて疲れているはずなのに。
非日常の体験で解放されたときの、人間を突き動かすエネルギーは心を前向きにしてくれるんだな。そう思った。

時計の針は深夜2時を差している。
周りが寝静まっている中、足音を忍ばせてドアを開ける。
わくわくしながら行動しているのは間違いない。だけど、悪いことをこっそりするときと心地が似ている。妙な背徳感と高揚感がないまぜになった気分で冷たい空気を吸いながら、誰もいない真っ暗な庭へ出ていく。

冬の夜空の下、冷たい空気の中で星を見上げる。
真っ暗闇。出口も入り口もない、観客はひとりだけのプラネタリウム。

数えきれない星々。肉眼でこれだけの数の星を目にしたのは、人生で初めてだった。

教科書でいつか習った冬の大三角もなんとなくみつけた。
オリオン座のベテルギウス、リゲル。おおいぬ座のシリウス。
今煌めいている星も、いつかは隕石になってただの岩になる。
今見えている星は、何億光年も前にここまで辿り着いて今見えている星。


星をなぞる。
昔の人は、眠れない夜は星を数えたりしていたんだろうか。
賃貸の8畳間で天井の汚れを数える自分の心が洗われて、このまま夜空の星になって召されそうな勢いできれいだった。(死なない)

星空用のレンズを購入し忘れたことを惜しみつつ、一眼で設定をなんとかいじって撮影したけれど、写真では伝えられない。スケールの大きな自然の美しさを、小さな人間が表現するにはまだ限界がある。


二日目 志々島・生口島・岩城島

朝は6時少し前に目が覚めた。窓から漏れる明るい夏の光と、もうすでに起きているオーナーや旅人の声。目をこすりながら出発の準備をする。

朝靄の中でオーナー夫婦がまだちいさな赤ちゃんと一緒に見送りをしてくれた。
泊まりに来た旅人を一人ひとり写真に撮って見送っているそうだ。
「七宝屋」のポーズをキメて、宿を後にする。
世界にはいろいろな人がいる。それぞれ異なる価値観や目的を抱えて、瀬戸内の地を旅先に選んで。そんな人たちがこの宿に会して、色々なものを持ち帰ってそれぞれの家へ帰って、体験や記憶を土産に心の中に残していく。そのきっかけづくりを楽しんでいて、素敵だなと思った。
駅に向かって歩いていく。朝焼けは暮れと似ている。一日の始まりと終わり。意味合いは対を成していても、気持ちをリセットするイメージは、どこか似ているのかもしれない。
川沿いを歩いていて、足が止まる。
朝陽が水面に映って、日の光と明け切れていない暗さのハイコントラストな景色。
道すがら、思いがけずなんでもない風景が美しく見えたりするから、そういうものに出会うのは刺激的だ。旅は連続的なアハ体験。


在来線で詫間駅まで戻り、そこから徒歩で宮ノ下港へ。出港時刻ぎりぎりに到着して慌てて乗り込む。だいたいいつもギリギリを攻める。ギリギリで生きていたいからだ。背徳感と謎の達成感がドーパミンを放出させる。
乗客は自分と、熱心に船の外へ一眼を向けるおじさん1と、50代程の一人旅であろうおじさん2だけだった。
遠ざかっていく船着き場。撮影スポットを探しながら一眼のシャッターを押すおじさんを観察しながら船に揺られる。
しばらくすると、島が見えてきた。
船の上から見る、ぼんやりとして影になっている島は桃源郷みたいだ。
浦島伝説の発祥の地だから、もしかしたらその感覚は正しいのかもしれない。

船に乗っていた乗客は自分を含め全員が志々島で降りた。
志々島に降り立ち、島を観察してどう廻ろうか考えていると、先ほどの一眼のおじさんに声を掛けられた。彼は少し離れた地元の人で、時々周辺に撮影しに来るのだそう。志々島上陸は二回目だそうだ。道が険しく、足場が悪いところもあり危ないということで、一緒に島を案内してくれることになった。(以下、一眼のメーカーにちなみニコンさんと呼ぶことにする)
古民家の花畑の前にはセーターとマフラーを着た案山子たちが、首をかしげて旅人を出迎える。遠ざかっていく船を見送り、私はニコンさんと歩き始めた。


島民は話によると現在30名ほどで過疎化が進む。人の気配はほとんどなく、点在する民家も廃屋が多い。それでもこの島を守りたい人々が、観光地やロハス移住生活の拠点として盛り上げようと休憩所を営んだり、古民家をリノベーションして宿泊施設として運用している。ニコンさんもその一人であり、自身のFacebookに志々島紹介の動画を挙げてPRしている。
かつては花の栽培で有名だったそうで、その名残と思しき花畑や、可愛らしい手作りのかかしが立っている。冬でも何種類か咲いていて、見たことのない多肉植物が咲いていると思ったらアロエだった。
島の休憩所「くすくす」はまだ開店しておらす、
「AM “だいたい” 10:30~11:30」
の張り紙をみて何とも言えない安心感に包まれる。そうだ、島時間ってこんな感じ。
店主の代わりに毛並みの良い野良猫が日向ぼっこしながら目を細めてこちらを見る。誰かからごはんを貰っているんだね。

足場の悪い崖を、手をつきながらニコンさんと登っていく。階段はあって無いようなもの。自分一人で登って、転げ落ちたら誰にも助けてもらえなかったと思う。
私がこの島に来た目的は、樹齢1200年の大楠を拝むためだった。
朽ちていく島。1200年生きる大木。

過疎化が進み、島民が移住で去っていく中で、太古の昔から変わらず島を守り続ける存在。
観光地化が進むどこかの島より、人知れず何年も命を繋ぐ島に興味があった。
だから、この島にやってきた。

辺りの空気が変わる。
音が吸い込まれているような静寂に包まれ、上を見ると横に大きな枝を伸ばした大楠がそこにあった。
枝は幹ほどの太さがあり、手前には朽ちかけた鳥居、そしてちいさなお稲荷さんの祠が木の洞の中に祀られている。

お稲荷さんは所々粉々に割れ、手入れをされている様子はない。
でも、むしろ人間の手を入れられていないことが島を守ることに繋がっているようにも感じた。

1200年という時を生き続ける大楠からみた私たちは、きっと小さくて少しの間しか生きていない。その中で文明を発展させて、自然を破壊する脅威にもなりうる存在。
でも、志々島に限っては守られていると感じた。

大楠を過ぎ、頂上の展望台を目指す。
視界が開けて、眼前にくすんだ青い海原が広がった。
水平線で真っ二つにされた空と海。

何もない。だから、とても気持ちいい。
地べたに座り、海を眺め大きく呼吸をする私の横で、ニコンさんはドローンを飛ばしている。

現代に生きる私たちはたくさんの押し寄せる情報の波に捕らわれて、溺れそうになる。
だからこそ、こんな風に「なにもない」ことを、ときどき味わう必要がある。

山を下っていく。
寅さんの色褪せたポスターを横目に(志々島はかつてロケ地として使われた)、下り終えると畜舎が見えた。隙間からヤギがこちらを窺うようにじっと見ている。二頭のヤギは横に生えて居るヨモギを食べる、と立て看板に説明書きがある。
ヨモギの葉をちぎって掌に載せて近づけると、すごい勢いで食み始めた。どうやら空腹のようだった。見ず知らずの島民にも警戒心無く、もっと、というように頭を揺らして催促する。
野性味は無い、優しい顔をしていた。誰かに飼われているようだ。

先ほどはまだ準備中だった「くすくす」に寄る。外観は雨風に晒された木造の小さな小屋、という見た目だ。ガラスの引き戸をゆっくり開けると、中には上陸したときに出会った男性がいて、店主の女性が出迎えてくれた。
女性は少し驚いたような、物珍しそうな顔をして
「あら!こんにちは」
とお茶とみかんを出してくれた。
休憩所の中はどことなくレトロで可愛らしく、素朴な空間だった。
天井には手作りのヤギのマスコットがぶら下がっていて、テーブルの上では二匹の狐が向かい合っている。温かみのある木の家具。古い引き戸から出入りする猫。
店の至る所に手作りの絵葉書や雑貨、地域の特産物が並んでいる。
「島唐辛子、たくさん余ってしまっているの。よかったらお土産にどうぞ」
なんだがデジャ・ビュだ。ああそうだ。昨日の「かつまや」の店主も珍しい来客に驚いて色々ご馳走してくれたんだっけ。
しばらくして、島民のおばあちゃんが入ってきた。話をしていると、御年90歳。昔から島の産業の一つである花の栽培に携わっていて、過去には霞が関で表彰されたことがあるらしい。
「島民との写真は宝物です」
店主と、おばあちゃんと三人で写真を撮った。この写真も、私にとって宝物になるだろう。

店主の好きと、島への愛着が詰まった小さな箱。その優しさに惹かれて、様々な人が集う癒しの場。

「島はひとがつくるんやな」

「人間がつくったものと、昔からある自然が上手く調和している、ということですか」
「うん。何回か僕はこの島に来てるけど、皆優しくてあたたかい。
―島はひとがつくる。
この言葉、めっちゃいいな」

船で港に戻り、これからどうやって次の場所へ向かうの、と聞かれ在来線と高速バスで、と答える。ニコンさんは駅まで私を車で送り、ちょっと待って…と言って近くのコンビニでモンブランとサイダーを買って持たせてくれた。
なんで、この県の方たちはこんなに優しいんだ?

しまなみライナーで生口島を目指す。一時間近く揺られて、到着してからさらにタクシーで目的地の近くへと向かう。タクシーのおじさんが、少し無駄に走ってしまった分があるから、といってタクシー料金をおまけで安くしてくれた。

生口島はレモンの島ということで名高い。また、島全体が「島ごと美術館」といってパブリックアートが点在している。それを探しながら歩くのがおすすめだ。


「耕三寺美術館」へ。ネーミングにビビりながら「千仏洞地獄峡」の中を恐る恐る進んでいく。
“ これより八大地獄 ”
字面を見ると、前世で罪を犯したたくさんの人々が焼かれてめちゃくちゃに叫んでる、みたいな。細かい違いはよくわからないが、なかなか大変そうだ。ご苦労様です。
印象的だったのは、部屋の中で桶の中で生まれたての赤ん坊が片手を上に掲げている絵。「人間道(生苦)」という題名。
人間は生まれながらにして苦しみを背負っている、ということだろうか。


同じ敷地内の「未来心の丘」へ。
白い彫刻に囲まれた空間はギリシャのどこかを切り取ったみたいだ。
計算なのか、無作為なのか、その両方かわからない曲線、直線。幾何学と白。何が芸術か、というのは人の数だけ答えがある。

岩城島の「民宿 よし正」へ。辺りは日が落ち、真っ暗だ。夜の海に反射する港の光とはるか遠くの灯台の光を眺めながら船を待つ。
船に乗り込む前に宿に連絡して送迎をお願いしていたので、すぐに迎えが来た。

隣に併設されている料亭から漂う匂いを嗅ぎながら、よし正でチェックイン。
民宿なので部屋は自分で整える。私がこの宿を選んだ理由、それは夕飯だった。
よし正で出される夕飯は地魚をふんだんに使い、また一品の量が充実している。食材は近場で獲れた新鮮なもの。宿で働く漁師が獲ってきたものらしく、シーズンによっては船を使い、漁に行かせてもらえる体験もできる。
そして主菜が複数ある。ひとつひとつが質も量もしっかりしている。
食事がしっかり満足できるもので、民宿のため価格も思ってよりは上がらず抑えられている。
食事にこだわりたい時にうってつけの宿だ。

夕飯後、レモンの香りに包まれながら体をほぐし、その日は眠りについた。

3日目 尾道

朝食は隣の料亭で頂いた。魚拓や提灯が「よし正」らしさを演出していた。

フェリーで尾道へ。
「ONOMICHI U2」はリノベーション倉庫だ。中には丁寧にセレクトされた自転車や柑橘グッズが所狭しと並んでいる。さすが、サイクリングと柑橘のメッカだ。
尾道の楽しみ方は「ツッコミどころを探す」「ねこと遭遇」だと思う。

「ねこ」
おやつは商店街の「おやつとやまねこ」で。猫のイラストが入った牛乳瓶がなんともかわいい。「モチモチの木」の切り絵みたいなタッチ。プリンも滑らかでおいしかった。
また、店の軒先で野良猫がのんびりしていたり、探さなくても割と出会える。猫の細道に、クロネコヤマトが停まっていた。
細道に住んでいる猫の名は、看板によると
「シャーロット」「イーディトゥ」「黒豆太」「レオナルド」「アクト」
猫の多国籍軍。国際色豊かだなあ。

「ツッコミどころを探す」
尾道の町にはガイドブックに載せきれない個性豊かなものが溢れている。
お好み焼きや千光寺、ガウディハウス、レトロな街並みはもちろん、謎の直売所(休憩中で無人だった)、“変人の聖地”三軒家アパートメント、ゲストハウス、坂の上の踏切。
昔のレトロなカルチャーと今のポップなカルチャーがほど良く放置されて融合した街、それが尾道だ。
路地裏を歩いても、ふと足元を見ても、電柱をみても、そこに尾道らしさがある。

「恋愛成就」
デザイン好き、サブカル好き女子にはたまらない。今回はゲストハウスには泊まらなかったけれど、次訪れたときには「あなごのねどこ」に泊まりたい。
「地域で育てよう 豊かな心」が街のスローガンらしい。

「アッそうだ。」
尾道行こう。


お好み焼き屋「手毬」は目の前で鉄板で焼いてくれる。地元のファミリーも来ていて距離感が心地よかった。

新幹線の中でもみじまんじゅうをほおばる。まだまだ食べ残したものが沢山あるけれど、次回また訪れる口実にしようと思った。

瀬戸内旅行計画書③ 2019/12/28~12/30

☆テーマ
民宿・ゲストハウス・釣りで自給自足・星空・島時間・外国体験旅人コミュニティ・地元民とのふれあい・柑橘

〇1日目 12/28 父母ヶ浜
新横浜9:12発のぞみ311号N700系→新大阪11:30着
新大阪12:39発のぞみ27号N700系博多行→岡山13:23着13:35発JR特急しおかぜ15号松山行→多渡津14:22着14:31発JR予讃線観音寺行→14:41着JR詫間駅→コミュニティバス仁尾線詫間駅三豊総合病院行15:04
※バス時刻表
http://www.mitoyo-kanko.com/site/wp-content/uploads/%E3%80%90%E6%99%82%E5%88%BB%E8%A1%A8%E3%80%91%E4%BB%81%E5%B0%BE%E7%B7%9A-2019.4.pdf
→15;28父母が浜駅で下車
http://www.mitoyo-kanko.com/chichibugahama/
・仁尾町家ノ浦漁港、仁尾周辺で釣り
河田釣具店
https://fishing.ne.jp/fishingpost/area/kagawa-mitoyo12
見頃;17:00
・ビーチコーミング
◇移動前に食料調達?※宿内BBQ?or外で夕飯
父母が浜タクシーで12分→詫間駅19:00頃→みの駅19:15頃→徒歩11分で
★BED N CHILL 七宝屋宿泊 \3500 ~22:00 19:30頃チェックイン
・釣果調理
・星空撮影
https://photo.nyanta.jp/PL6astg.html
https://photoli.jp/articles/2
http://merriuir.com/archives/207
・外国体験、旅人と話す

〇2日目 12/29 志々島→生口島→岩城島
7:15チェックアウト
みの駅JR快速サンポート南風リレー号高松行7:29発→7:45詫間駅徒歩で30分→宮ノ下港8:30→志々島港8:50
※船時刻表 https://www.city.mitoyo.lg.jp/forms/info/info.aspx?info_id=595
@志々島 9:00~11:00
・展望台から雲海撮影
・ヤギ
・樹齢1200年大楠
・くすくす
・展望台
・埋め墓
・上田商店
・パネルロード
・横尾の辻
・茶粥
https://setouchikurashi.jp/island/info/shishi/
http://www.mitoyo-kanko.com/shishijimaisland/
https://faavo.jp/kagawa/project/855

志々島港11:30→宮ノ下港11:50→徒歩30分→詫間駅12:15着12:39発14:11着→福山駅前高速バスしまなみライナー
※バス時刻表http://www.setouchibus.co.jp/03kosoku/ko_sima02.htm
40分15:05発→瀬戸田PA 15:52着
→生口島
@生口島 16:00~17;45
・未来心の丘
・レモン谷
・しおまち商店街
・瀬戸田サンセットビーチ
・島ごと美術館
・耕三寺美術館 千仏洞地獄峡
・(島ごころSETODA)
・(平山郁夫美術館)
・瀬戸田パーキングエリア
・自転車カフェ・バー汐待亭
・御食事処 ちどり
・しまなみロマン
・さよ食堂
https://shimanami-cycle.or.jp/touch/experience/414/
15分事前予約タクシーで州江港へ
生口島州江(すのえ)港三光汽船で5分18:15発→18:20着小漕(おこぎ)港
※汽船時刻表https://sankohkisen.jp/kouro/kouro1/
→よし正事前送迎予約
★活魚民宿よし正宿泊 19:00チェックイン ¥12870 釣り調理サービス
・積善山展望台
・菰隠(こもがくし)温泉
・レモンの散歩道
・釣り
・芋けんぴ
・レモンポーク
・芽ヒジキ

〇3日目 12/30 岩城島→尾道
岩城島三光汽船9:10発→9:15着生口島
生口島瀬戸田ラズリ土日祝便4便10:00発→尾道駅前10:39着
※高速フェリー時刻表https://s-cruise.jp/timetable/

@尾道 11:00~16:45
・瀬戸内しまなみ海道
・リノベ倉庫 ONOMICHI U2
・千光寺公園ロープウェイ
・尾道ラーメン
・古民家パン屋
・活版カムパネルラ
・尾道本通り商店街
・持光寺で握り仏作り
・パワースポット
・尾道ガウディハウス
・斜面の隠れ家カフェ
・尾道美術館
https://tomonoura.life/sights/access/
尾道17:03発→三原17;18着17:24発→17:57着広島
→18:00ごろ広島
・広島駅構内でお好み焼き
広島18:57→22:34新横浜着

http://setouchikurashi.jp/island/
https://setouchi-artfest.jp/
https://www.iyokannet.jp/

★持ち物
懐中電灯
釣り具


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